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――やっぱり彼、かなり使えるなぁ。
霧ヶ峰はヨシナリの様子を見ながら満足気に頷く。
元々、タカミムスビのお気に入りという事で期待値は高かったのだが、こうして見ると予想以上に使える。
高機動機である事を活かして正面から切りこむ度胸と集団戦での練度不足を即座に見抜く事で敵の攪乱。
わざわざど真ん中に飛び込んだのは敵が誤射をする可能性が低いと踏んでだ。
当然だろう。 彼等は昇格を目指している以上、心証が下がるような行動はとれない。
そこを上手に突いて器用に立ち回っている。
視野も広く、こちらに援護をしっかりと要求できる位置取りもできていてやり易い。
空中に関してはタヂカラオが積極的にフォローに回っている事もあって圧倒的な物量差にも関わらず問題なく戦えているのは素晴らしい。
――というかお前は何で他所のメンバー相手にここまで合わせられてるんだ?
そう言いたくなるほどにタヂカラオの動きも秀逸だった。
ヨシナリのカバーしきれない死角を狙って敵を撃破、難しいなら拘束と敵の気勢を削ぐのが上手い。
元々、野心家であった事もあって前に出たがる――正確にはとどめを刺したがる傾向にあったタヂカラオだったが、ユニオン対抗戦で出張して以来、そういった前のめりが過ぎる行動が抑えられ視野が広がっている。
機体特性的に近~中距離戦と攪乱が得意だった事もあってチーム戦では味方のサポートが最も力を発揮できのだが、今の彼はそれをよく理解しており、積極的にはヨシナリの援護に回っていた。
『もうちょっと切りこめそうですね』
『いいね。 背中は任せてくれよ』
通信から聞こえる会話も楽し気でメンタル面でも余裕がある事が窺える。
素晴らしいと思うと同時にタヂカラオが別人のようになっている有様にやはりヨシナリは他者を変える何かを持っているのだろう。 空は何の問題もなく、寧ろ下の方がフォローを必要とすらしていた。
密迹は問題ないが他はそうでもなかった。 元々、自分達ランカーとヨシナリを軸にして残りは援護に回るというフォーメーションだったのだが、ヨシナリが少し活躍しすぎてしまったらしく引っ張られる形で前に出ているのだ。
気持ちは分からなくもない。 外様が正式メンバーである自分達を喰った活躍をしているのだ。
面白くはないのだろうが、傾向としては余り良くはない。
霧ヶ峰の指示したフォーメーションは地上を密迹、空中をヨシナリに任せ、タヂカラオが囲まれやすい空中のカバー、霧ヶ峰は地上の援護と全体指揮、余裕があれば他にもリソースを割く。
残りのメンバーは霧ヶ峰を中心に要所に配置。
要は身を隠して処理しに来る相手の処理を任せている。
八、九軍の代表は実力的に微妙な事もあって、下手に突っ込ませるよりは警鐘として配置した方がいいと判断しての事だ。
何せこちらはたったの十機しかいない以上、減らされると単純に戦力が一割減ると考えるとリスクは可能な限り減らしておきたい。 既存機を使っているとはいえ、ヨシナリはランカーなのだ。
前に出す事の必然性は理解して欲しい物だと思いながら、捕捉した敵機をライフルで撃ち抜く。
処理しながら敵側の動きを確認。 動きの良い者をピックアップする為だ。
採点係が別で居るにはいるのだが、意見を求められるのは分かり切っていた事もあって使えそうなプレイヤーに関してはチェックしておかなければならない。
――それに――
「あぁ、また居る」
思わず呟いた。 不自然に動きのいいプレイヤー。
チートユーザーだ。 基本的に「思金神」ではチートを使っている時点でかなりの減点対象となる。
少なくとも霧ヶ峰はそうだ。 何ならそのまま弾いても良いレベルで評価が落ちてしまう。
五軍以下なら内容次第なら使っても良いと思う者も多いが、それ以上となるとタカミムスビの意思が反映される事もあってまず上がれない。 何故、低層なら採用されるのか?
答えははっきりしている。 一応は即戦力として使えるからだ。
低層――特に七軍以下は数が多い事もあって即戦力として扱えるプレイヤーはチートユーザーであっても役に立てば良いといったスタンスの者が一定数居る。 そんな連中が胡散臭いプレイヤーを引き上げている事もあって、どうにも低層から上がって来るプレイヤーの質があまりよろしくない。
これは憂慮するべき事なのだが、数が多い事もあって自浄作用が働き辛いのだ。
「思金神」のメンバーは増え続けており、そろそろ50万人に達しようとしていた。
50万人。 笑ってしまう人数だ。 サポート体制を充実させれば人は来やすい事もあって流入が途切れる事は一切ないのは内側にいる霧ヶ峰から見ても凄まじい事だ。
その中から使える者を探し当てて引き上げるのは中々に難しい。
タカミムスビが外から気に入ったプレイヤーを好待遇で引き抜こうとするのはある意味、自然な流れなのかもしれなかった。
――実際、その方が楽ではあるのだろうが、不満は溜まっていく。
下位のメンバーにはタカミムスビを何とかして排除しようという動きもあったが、本人は一切気にしていない。 恐らく追い出されたら追い出されたで構わないと思っている事もあるのだろう。
タカミムスビは自分にとって不要と判断すれば「思金神」ですら平気で切り捨てる。
――まぁ、私は付いて行くけど。
霧ヶ峰はユニオン発足以前から何かと声をかけられており、後の流れを考えれば明らかに機能実装を読んでいた。 いや、知っていたのか?
正直、霧ヶ峰はタカミムスビを運営の回し者か何かと疑っていた時期もあったのだが、その割にはプレイヤーとして真摯にこのゲームに取り組んでいる。
結局、はっきりしなかったので、もうどっちでもいいやと考えるのは止めたのだ。
そんな事を考えながらでも手は勝手に動く。 次々と敵機を撃ち抜いていくのだが――
「――はぁ」
溜息を吐く。 二機――九、八軍代表がやられたのだ。
あれほど足止めに注力しろと言ったのに撃破を優先して前に出過ぎたらしい。
戦力差を考えてもう少し、戦い方を考えて欲しい物だ。 反面、密迹は地上の敵を完全に突破。
空中のヨシナリとタヂカラオもだ。 囲まれ始めた密迹のフォローに入っていた。
好きにやりたいならあれぐらいはやって貰わないと困る。
言い方は悪いが、そうでないならイエスマンに徹する事も重要だと霧ヶ峰は思っていた。
さて、山場は越えた。 敵の数はそろそろ半数を割り込むか。
油断しなければ勝てるなと思いながら次の標的を撃ち抜いた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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