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――俺は何でこんな所にいるんだろうか?
ヨシナリは少し遠い目で空を見上げた。
正確には空ではなく「思金神」のユニオンホームの天井なのだが。
タカミムスビとの約束で演習に参加する事となったのだ。
さて、この演習に関しては事前にタヂカラオから説明を受けていた。
ヒラ――要は大量に居る階級が最下層のメンバーが昇格する為の試験がメインで、その後は各階層の昇格条件を満たした者の昇格試験となる。
「そこは分かったんですけど、こんな身内向けのイベントに俺みたいな部外者を混ぜて何をさせるつもりですか?」
質問をぶつけたのは隣のタヂカラオだ。 小さく肩を竦めて見せる。
「今回の昇格試験の内容が試験官との模擬戦なんだ。 対象者相手にこちらが用意したチームと戦闘、君の仕事はその試験官チームとして対象者の相手をして評価しろって事みたいだよ」
話を聞くだけで角が立ちそうな内容だと気が滅入る。
倒すだけならまだ気楽ではあるが、その結果が昇格に関わってくるとなると話が違う。
特に上位のメンバーともなるとサポートの質にも差が出る。 昇格させられればいいが、下手に低評価を付けて逆恨みされても面倒だと思ったからだ。
「あんまり大きい声じゃ言えないんだけど、一部のメンバーに忖度している疑惑があってね。 タカミムスビさんの狙いとしてはそういった余計なノイズを排除する意味でも試験的に部外者を試験官に採用して様子を見たいって考えがあるみたいだ」
「――それで俺ですか。 まぁ、報酬は既に貰ってるので真剣にやりますけど、何かあった時にはフォローは期待してもいいんですよね?」
「そこはタカミムスビさん次第だね。 あの人を怒らせるとここでやって行けなくなるからわざわざ呼び出したって体になっている君に何かをするとは考え難いと思うよ」
言いながらタヂカラオが行こうと促し、それについて歩く。
行先は試験官の控室だ。 歩きながらタヂカラオが話を続ける。
彼によるとユニオン対抗戦を意識して十人でのチームで試験に当たるらしい。
ビルの一つに入りエレベーターで上層階へ。
通された部屋では複数のプレイヤーが待っており、中には見覚えのある顔もいた。
「よく来ましたね。 歓迎しますよ」
そういって笑みを浮かべたのは霧ヶ峰だ。
「先日はどうも。 今日はよろしくお願いします」
「はい、いいお返事です。 さて、ここに居るメンバーが今回の試験官となります。 簡単に紹介していきましょう。 タヂカラオに関してはもう知っているので省略するとして、彼女の事も知っていますね。 二軍所属のイソシン」
浅黒い肌に金髪。 後、胸が凄かった。
ヨシナリの語彙ではギャルとしか形容できない見た目だった。
「ハロー? イソシンでーす。 よろしくね?」
「どうもです」
前回のイベント戦で世話になった事もあってアバターは初見だが声は覚えていた。
回復特化の機体という珍しいビルドは印象深い。
「次は四軍所属の密迹」
広い肩幅に盛り上がった筋肉とマッシブな印象を受けるアバターだった。
服装は法衣に三度笠。 何故か腕を組んで目を閉じていた。
「どうもです」
「――――うむ」
寝てはいないようで小さく頷いた。
その後は巻きで紹介され、一通りの挨拶を済ませたのだが、一から九軍までの人員が一人ずつ配置されているようだ。 十軍だけが居なかった事もあってその枠にヨシナリが据えられているといった所だろう。
四軍の密迹までは全員Aランクだったが、五軍以下はランカーではない。
一応、いない訳ではないのだが、選出されたメンバーがそうだっただけという話だが、層の厚さはよく分かる。
「――そして私、霧ヶ峰を加えた十名でそれぞれの試験に対応していく事となります。 現在は十軍昇格試験の最中なのでその間にポジションや動きの簡単な打ち合わせを行いたいと思います」
霧ヶ峰を指揮官にタヂカラオが支援、密迹は前衛。
イソシンは後衛、後は得意の戦い方からポジションを割り振る。
「ヨシナリさんは遊撃をお願いします。 機体特性的に好きに動いた方がやり易いでしょう? まぁ、外様なので密な連携ができるかの不安があるのでここは割り切って好きにしてください」
「そういう事なら助かります」
ヨシナリとしても正直、タヂカラオ以外とはまともな連携ができるとは思っていなかった事もあって好きにできるのはありがたいと思っていた。
「戦闘方式は10対10の対抗戦方式ってことで良いんですよね?」
「はい、我々はそうですよ」
霧ヶ峰の言い方に引っかかる物を感じる。
――というより言葉通りに受け取るならかなり不利な戦いを強いられそうな予感がする。
「まさかとは思いますけど、相手は昇格の候補者全員って事だったりしますか?」
「はい、察しが良くて助かります」
「マジかー」
どの程度の人数が候補に挙がるのかは不明だが、口振りから10人で済む訳がない。
恐らくは二倍から三倍強の戦力差は覚悟した方が良さそうだった。
「さて、打ち合わせはここまでにして観戦でもしましょうか」
そういって霧ヶ峰がウインドウを操作すると現在行われている戦闘映像が映し出される。
凄まじい数の機体が市街地内で激しい戦闘を繰り広げていた。
「200対200の大規模戦を5セット行い、戦闘中の撃破数、武器の消費量、ポジショニング等の要因を加味してヒラから昇格させるかを決定する形になります」
要は試験対象は2000人もいるという事だ。
受ける数も桁外れだが、これだけの人数を見なければならない試験官の苦労も凄まじい。
「2000人って切りの良い数ですが、絞ってるんですか?」
「はい、2000が上限なので予選のような物を行ってこの数字です。 本来の希望者は倍以上はいますよ」
4000から5000といった所だろうか、そこから半分以下に絞って更に今回の試験で絞る、と。
「合格者はどれぐらいですか?」
「これに関しては試験官の裁量次第ですね。 十軍のメンバーになる事もあって彼等に一任しています。 多ければ100前後、少なければ10ぐらいなので、その時次第といった所でしょう」
あぁ、そうなんですねと他人事のようにそう言いたかったが、十軍の人数の多さを考えると九軍への昇格を希望する者の数をあまり想像したくなかったからだ。
――まぁ、負けても咎められる事もないからいいか。
真面目にはやるつもりではあったが、それ以上に現在建造中のジェネシスフレームが気になって仕方がなかったからだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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