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ヴルトムは苦笑して肩を竦めて見せる。
「まぁ、そんな話があるってだけだ。 あくまで噂だよ」
「嫌な話だなぁ」
このゲームを素直に楽しんでいる身としては余りそういった薄暗い話は聞いていて気持ちのいい物ではなかった。
「そういや、お前はどんな感じなんだ?」
「もうBには上がってるんだけど、やっぱ簡単にはいかねぇな」
Aから落ちたようなプレイヤーも多く、勝率が安定しない。
勝てない訳ではないのだが、まだまだだと痛感させられる。
「そうなのか?」
「あぁ、俺の機体って基本的に陸戦機だからスピードで引っかき回しに来る相手とはやっぱり相性が悪いな」
特に陸戦機の処理に慣れたプレイヤーは手強い。
マルメル自身、それなりに場数を踏んで射撃も安定してきた事もあって狙った場所に当てる自信もあったのだ。 だが――
「やっぱりエンジェルフレーム以上とのタイマンになると機動性の差がモロに出る」
空中と地上だと挙動の幅が違う事もあってどうしても不利を強いられる。
特に昇格を急いでハイグレードマッチに潜るとそれが顕著だ。
「そういや、お前らハイグレードマッチをやってんのか。 ジェネシスフレームと当たるのとか俺だったら無理だな」
「格上だと勝利した時のポイントがランク差+1だからAに勝てるなら滅茶苦茶早く上がるぞ」
ふわわやヨシナリがあれほどの早さでランクを駆けあがっているのはそれが理由だ。
シニフィエもやっているらしく、こっちも昇格が早い。
マルメルとしても格上と戦うのは得る物が多い事もあって積極的にハイグレードマッチを行っているが、勝率が安定しない事もあって負けが続くと通常ランク戦に切り替えてバランスを取っていた。
以降のイベント戦も苦しい戦いになるはずだが、進化したヨシナリを筆頭に進んでいくはずだ。
彼の昇格とジェネシスフレームの作成は喜ぶべき事ではあったが、同時に悲しいニュースもあった。
ベリアルの離脱だ。 嫌になった訳でもなく、仲違いした訳でもない。
マルメルの所にもメッセージという形で挨拶が来ていた。
内容は少し難解ではあったが、ユニオンの一員として戦えた事による感謝が綴られており、離脱する事への謝罪も含まれていた。 ここ最近、大規模戦での彼の脱落率が高く、気にしていた事は知っていたので、思う所があったのだろうとマルメルは勝手に思っていた。
元々、単機でこそ輝く彼が、チームの為にと行動しているのは助けられたマルメルとしては非常にありがたいとも思っていたがそれ自体がベリアルの自身の為になるのかはまた別の話だ。
今のままでは停滞してしまうとでも思ったのだろう。
離れるという選択は残念ではあるが、素直に彼の飛躍を祈る事にしたのだ。
――まぁ、寂しいと言えば寂しいけどな。
何だかんだと仲間には優しい男だった事もあってマルメルとしてはいなくなって素直に寂しいと思えるぐらいにはベリアルの事を気に入っていたからだ。
「まぁ、他は他、俺は俺だ。 置いてかれないように頑張りはするけどあんまり比べるとしんどくなるからな」
「そうだな。 まぁ、頑張れよ。 ちなみに金はないから応援しかしないけどな!」
ヴルトムはそう言って笑って見せる。 そんな反応に気楽さを感じてマルメルも笑った。
エンジェルフレームが機体を左右に振りながらエネルギーライフルを連射。
エネルギー次々と飛んでくるがふわわは旋回せずに最小の動きで躱しながら正面突破。
最短距離で間合いを詰め、太刀で一閃。 コックピット部分を中心に胴を横薙ぎに両断。
敵機は碌に抵抗もできずに爆散。
一応、Aランクだったのだが、あまり歯応えがなかったわと思いながら次のランク戦をセッティング。
ヨシナリがAに上がった。 祝うべき所ではあるが少しおいていかれた気持ちになってしまい、更にランク戦に力を入れる事にしたのだ。
ジェネシスフレーム。 このゲームに於ける一つの到達点。
ランカーになってからが本番と捉えられる節もあってB以下のプレイヤーがまず目指す位置だ。
ふわわとしてはジェネシスフレームを手に入れたヨシナリを是非とも味見したいという気持ちもあるが、自分も手に入れるまで我慢するべきなのだろうかの間で迷っていた。
状況は常に進んでいる。 ヨシナリは一足先にランカーになり、イベント戦はその激しさを増す。
ベリアルが去り、戦力的にも大きく変わった。 彼の離脱に関しては特に驚きはない。
精々、ついに来たかぐらいの気持ちだった。
ふわわとしてはベリアルは集団戦闘――特にチーム戦では強みを活かせないと考えていた。
だからと言って向いていないという訳ではなかった。 事実としてこれまでの戦績を見れば貢献度は非常に高いが、彼はチーム戦を意識しすぎる事によって自らの強みを殺してしまっているのだ。
結果、低迷を招いたのは彼自身も自覚していたようでそれを何とかする為に離れる、または距離を置くのはそこまで不思議ではない。 恐らくはしばらくは独りで戦って、仲間がいないソロ時代の勘を取り戻していく事に専心する事だろう。
ふわわとしても気持ちは理解できる事もあって頑張れといった感想しかなく、自分にも似た傾向があるのも理解していた。 だが、彼女がベリアルと決定的に違う点が一つある。
それは求めている物の違い。
ベリアルやヨシナリは純粋な勝利にこだわっているが、ふわわが求めているのは愉しみ。
強い敵と戦いたいという気持ちもあるが、楽しければそれでいいのだ。
ヨシナリに付いて行くとそれが定期的に摂取できる事もあって彼女は「星座盤」に属している。
それにヨシナリ自身もその対象である以上、美味しそうに育ったら真っ先に刈り取れる位置に居続けるという意味もあった。
正直な所、居心地は良いと感じているがベリアル程に情が移っている訳でもないと自己分析しているだけあってあまり心が動かなかったのだ。
だから、何が起こっても離れる理由がなければ居続けるし、何が起こらなくても離れたいと思えば去るだろう。 それぐらいの距離感がふわわにとっては心地がいい。
――ウチはウチで好きにやらせて貰うし、他も好きにしたらえぇんと違う?
内心でそう呟くと次の対戦相手へと意識を集中した。
誤字報告いつもありがとうございます。
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