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「君の考えはよく分かる。 これまでに得た物を手放したくないんだろう?」
見透かすような物言いはあまり愉快なものではなかったが、タカミムスビの指摘は正しい。
ヨシナリは手放したくない。 いや、手放す気がないのだ。
パンドラとイラ――戦友から受け継いだ愛用の武器を。
だから、ジェネシスフレームを作成するのならこの二つを活かした造りにするつもりだった。
「……お察しの通りです。 俺はあいつ等から貰った物を手放す気はありません」
単純な装備だけの問題だけではない。
このゲームで培った全てを何一つ捨てる事なく抱えていきたいとすら思っていた。
マルメルからは中距離での立ち回り、ふわわやモタシラからは接近戦でのスキル。
ツガルからは空戦機動。
これまで敵味方として戦ってきたプレイヤー達から様々な物を貰ってここまで来たのだ。
ジェネシスフレームはそれが形になった物だと解釈しているヨシナリとしては妥協はしたくなかった。
「いいね。 それでこそだ。 さて、質問への答えだが、表面上は不可能だ。 契約できるのは一社のみ。 ――が、手がない訳ではない。 君は気付いているからこそ私に声をかけたんだろう?」
タカミムスビは小さく笑って続ける。
「ベース機は日本製、外殻は中国、気象兵器はインド、光学兵器はフランス、実弾兵器及び殲滅形態の外装はアメリカ――他にも細かい所は様々なエリアのメーカーに作らせた。 さて、何故そんな真似が可能だと思うかね?」
「……恐らくは他のプレイヤーにオーダーメイドさせた」
「大正解だ。 契約したメーカーはプレイヤーのオーダーには必ず応えてくれる。 それが自機に使用しない装備であったとしても、だ」
実の所、ベリアルからパンドラを使用する為の変換器を貰った時点で察しは付いていたのだ。
そもそもあのパーツはプセウドテイには一切不要の装備だ。
――にも関わらずオーダーできたという事は装備作成の依頼に対しての自由度は極めて高いのではないか? そうヨシナリは思っていた。
同時にそうであったのなら「思金神」が大量のランカーを抱えている理由にも納得がいく。
タカミムスビの思想と噛み合わないプレイヤーを飼っている理由もこれだろう。
「つまり君の狙いは相談なんて気軽な物ではなく、私の――いや、この『思金神』が培ってきた人脈を利用したいという事なんじゃないのかい?」
「お願いできませんか?」
何もかもがお見通しな以上は開き直るのが正解と判断し笑って見せる。
タカミムスビも笑顔になった。
「なるほど。 良いね。 でも、ユニオンメンバーでもない君の為に何故私がそこまでしなくてはいけないのかな? 関係値で考えるなら私と君は赤の他人よりほんの少し上の知り合いレベルだ。 そんな相手にそこまでする義理は私にあるのかな?」
「ありませんね」
即答。 逆の立場なら帰れと言っているかもしれないほどの図々しい頼み事だ。
だから、ヨシナリはこう続けた。
「ただ、投資してくれればその成果であなたを地面に這いつくばらせてあげますよ」
タヂカラオが何を言っているんだこいつと言わんばかりに目を見開く。
それはタカミムスビも同様だったらしく、軽く目を見開くが即座に満面の笑みに変わる。
「はは、ははは、はーっはっはっはっは! わ、私を地面に這いつくばらせてくれるのかい? 君が?」
「はい」
何の躊躇いもなく頷くヨシナリに対してタカミムスビは更に笑う。
笑って笑って笑い続け――ややあって止まった。
「あぁ、笑った笑った。 ここまでストレートに噛みついて来る相手はニニギ以来だ。 気に入ったよ。 いいだろう、メーカーを紹介してあげよう。 ただ、フレームをどこにするのかは自分で決めたまえ。 あくまで外注できるのは装備や武装だけだ。 資金も自分で捻出したまえ」
「それは勿論」
話は終わったと言わんばかりにヨシナリが踵を返そうとしたのだが、タカミムスビが待ちたまえと止める。
「それとは別の話になるのだけど、一つ、いや、二つほど私の個人的な頼みを聞いてくれないかな?」
「はぁ、俺にできる事であればですが」
嫌な感じを覚えたが、タカミムスビは違う違うと手を振る。
「移籍しろなんて事は言わない。 ただ、近い内にユニオン内で演習を行うから参加してくれないか?」
「……はぁ、まぁ、構いませんが、具体的には何をするんですか?」
「あぁ、そんな難しい事は要求しないよ。 こちらが指定した相手と戦ってくれればいい」
口振りから特に問題はなさそうだった事とタヂカラオも特に反応していない点からも頷いても良さそうな提案だった。
「そっちは了解しましたが、残りの一つはなんですか?」
「……ヨシナリ君。 忌憚のない意見を聞きたい。 この部屋に関してどう思うかね?」
「怒らないですか?」
タカミムスビは大きく頷く。
「ゴミ屋敷みたいだと思いました。 いくら何でも散らかり過ぎでしょ」
ヨシナリのストレートな意見にタカミムスビは笑い、視線をタヂカラオへと向けると彼は気まずいと言わんばかりに視線を逸らす。
「実を言うとね。 元々、この部屋には何もなかったんだ」
「はぁ」
言わんとしている事の意味が分からずに相槌を打つ。
「ここ最近、あるルームグッズが実装されたのを知っているかな?」
――あ、嫌な予感がしてきた。
「まさかとは思いますけど例のガチャですか?」
よくよく考えると規模が違うが爆死したマルメルと同じ状況だったからだ。
タカミムスビは机の上で手を組み合わせると沈痛な面持ちで俯く。
「知っているなら話が早い。 最初は軽い好奇心だったんだが、最高レアのお楽しみチケットが気になって気になって仕方なくてね。 出るまで引いてしまったんだよ」
「あ、出したんですね」
「そうなんだ。 で、ここにあるのはその名残なんだが、実は隣の別室にも山ほどあるんだ。 売るか、インベントリに放り込めばいいと思うが折角手に入れた物をそんな形で処分するのは忍びなくてね。 整理を手伝ってくれないか?」
タカミムスビは霧ヶ峰に怒られてしまい知らないと突き放されたと付け加えた。
「あ、すいません。 僕はちょっと用事を思い出し――」
即座に逃げ出そうとしたタヂカラオの肩をヨシナリが無言で掴む。
「タヂカラオさん。 俺達、友達じゃないですか。 一緒に頑張りましょうよ」
「…………この貸しは大きいからね」
「いや、持つべき物は頼れる友人だね! タヂカラオ君、今ほど君を頼もしいと思った事はないよ。 さぁ、取りかかろうか?」
ヨシナリは廊下とこの部屋を埋め尽くしているルームグッズの山を見て小さく息を吐くとやるかと自分を奮い立たせた。
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