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霧ヶ峰はふぅと小さく息を吐いた。
先日のタカミムスビのやらかしできつめの説教を行ったのだが、その所為でどうにも行き辛い。
理由は簡単で先日、追加されたルームグッズ――ガチャについてだ。
どうも最高レアの「お楽しみチケット」という謎のアイテム欲しさに狂ったように回し続けたのだが、その際に出た大量のルームグッズを部屋にぶちまけた。
あまりにひどい有様に流石の霧ヶ峰も何だこれはと声を荒げてしまったのだ。
ちなみにタカミムスビは例のチケットを手に入れたのだが、尋ねても意味深に笑うだけで詳細は教えてくれなかった。 反応からかなり良いものだった事は分かる。
取り敢えず部屋は片付けろと言っておいたのだが、インベントリに収納するだけなのだ。
終わっているだろうとフロアに足を踏み入れたのだが――
「……廊下は片付いている」
廊下に並んでいたルームグッズがなくなっており、廊下がすっきりしていた。
この様子なら部屋も問題なさそうだ。 それにほっと胸を撫で下ろすとドアへ近づくと部屋から轟音が響き渡る。 大勢の人間が叫べばこんな感じになるとは思うのだが、ここにそんな大人数が来る予定はない。
何事だと部屋に飛び込んだのだがそこに広がっていたのは――
「タカミムスビ選手、見事なシュゥゥゥゥゥゥト! そしてゴォォォル!! 決まったぁぁぁ!」
タヂカラオがマイクを握りしめ普段の彼とは想像もつかない叫びをあげていた。
部屋の真ん中、執務机の前に空間ができており、サッカーゴールが二つ。
両手の拳を握り、勝利を全身で表現しているタカミムスビと地面に這いつくばってくそおおおおお!と叫んでいるヨシナリ。
そしてゴールの後ろには無数のアバター――ではなく、マネキンのような人型の何かがうおおおと歓声を上げていた。
「はーっはっはっは、いやぁ、すまないねぇ。 また勝ってしまったよ。 えーっと? 私を地面にはいつくばらせてくれるんだったかな? この様子だと気長に待たないといけないなぁ。 さてさて、全敗のヨシナリ君は事前に決めた罰ゲームを行って貰おうかな」
「タカミムスビさん。 お立ち台を持ってきました!」
「おお、気が利くね! さぁ、ヨシナリ君。 着替えもある。 君の情熱を見せて貰おうか?」
「ぐ、クソ、あそこでバックヒールでシュート決められるのとかマジかよ……」
ヨシナリがお立ち台に登るとアバターの服装と見た目が変化。
明らかに女性向けの服装に女性に近い容姿となった彼はファーの付いた扇子を振り回しながら踊り出した。
「ヒュー! 中々にセクシーだねヨシナリ君!」
「サマになってるじゃないか!」
タカミムスビとタヂカラオは大興奮でやけくそのように踊っているヨシナリに対して歓声を上げる。
ヨシナリは羞恥に顔を歪めながらもクネクネとしっかりと踊る。
「クソ! 殺せ! 殺してくれ!!」
屈辱を感じているヨシナリに対して二人は笑い声を上げていた。
「……あなた達は一体、何をやっているですか?」
「ん? あぁ、霧ヶ峰じゃないか。 見ての通り、部屋の整理だ」
「私には遊んでいるようにしか見えませんが?」
「折角、遊べるグッズが大量にあるんだ。 ちょっと触ってみようって事になってね。 負けたら罰ゲームってルールで遊んでたんだ」
アバターにも関わらず頭に血が上るのを感じるが、そこはぐっと堪える。
「私は部屋を片付けなさいと言ったのですが?」
「勿論、片付けるとも。 後でだがね。 あぁ、そうそう、君も参加するといい」
タカミムスビの物言いに思わず眉がつり上がる。
「このルームグッズを使ったお遊びにですか? 何で私が――」
「ちなみに負けたら罰ゲームだ」
「やる訳ないじゃないですか。 何でそんなリスクしかない事を私がしなければならないんですか?」
そもそもここに来たのは後日に行われる「思金神」の合同演習に関する打ち合わせの為だ。
余計な事をしている暇などない。
それを知っているはずのタカミムスビは失望したかのように肩を落とす。
「あっっれぇ? 逃げるのかね? 聞いてくれよタヂカラオにヨシナリ君。 我が思金神の参謀様は負けるのが怖くて尻尾を巻いて逃げるそうだ。 いやはや、嘆かわしい」
「仕方ないですよ。 霧ヶ峰君は堅実派なので負けると分かっている勝負に乗れないんでしょう」
「そうなんですか? 早々に逃げるのは格好悪いですよ」
タカミムスビは憐れむようにそう呟き、タヂカラオは鼻で笑い、ヨシナリは少し見損なったといった視線を向けて来る。 そして煽るようにタカミムスビが指をパチリと鳴らすと背後にいたマネキン達がブーイングを飛ばす。
その理不尽な反応にブチリと脳裏で何かが引き千切れた音がした。
「……そこまで言うなら乗ってあげましょう。 逃げる? この私が? 冗談じゃない!」
「流石は霧ヶ峰だ。 さて、君の罰ゲームはこのマイクロビキニに着替えてセクシーショットの撮影会にしよう。 キュムラス辺りが高く買ってくれるかもしれないな」
「いやいや、タカミムスビさん。 撮影するならここは女教師コスプレさせてセクシーポーズでしょう! ほら、教鞭やらの小道具も揃ってますよ! 後、黒タイツ――いや、ガーターがいいか?」
「お二人とも何を言ってるんですか、罰ゲームは屈辱的な物でなければ意味はありません。 この謎の生物『うまんぼう』の着ぐるみを着せてヒヒーンって鳴かせましょう。 恥ずかしがって半端な事をしたらこの鞭で叩くんです」
――こ、こいつ等。
明らかに霧ヶ峰を負かしていかがわしい罰ゲームを強要する気満々だった。
「勝負は何にするかね? サッカーはさっきやったから次は全員で出来るゲームにしよう」
「ジェンガとかどうです。 ここにありますよ!」
「いいですね! 三回、崩したら負けとかでどうですか?」
霧ヶ峰は不味いと思った。
このままこの三人のペースに巻き込まれると本当にいかがわしい罰ゲームをせざるを得なくなってしまう。 ここは流れを断ち切る意味でも別のゲームを提案するべきだ。
視線をさっと周囲に走らせるとトランプを見つけた。 これだと判断した霧ヶ峰はトランプを拾う。
「これ! これにしましょう! トランプで勝負です!」
三人は顔を見合わせると一斉に笑顔になった。
「いいね。 何にする? 神経衰弱は得意だよ」
「ここは七並べとかどうですか?」
「シンプルにババ抜きか大富豪にしましょうよ」
何でこいつ等はこんなにも楽しそうなんだと思いながら、主導権を取るのは自分だと押しのけるようにポーカーと主張。 三人はまた顔を見合わせると、まぁいいんじゃないかと頷いた。
「共謀してイカサマをされても困るので私がカードを配ります。 構いませんね!」
「構わないとも」
霧ヶ峰が話している間にタヂカラオとヨシナリがルームグッズの山からテーブルと椅子を引っ張り出して並べる。
それぞれが席に着き、霧ヶ峰がカードをシャッフル。
全員にカードを配り始めた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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