896
急上昇で距離を一気に詰める。
コンシャスの機体と今の状態のホロスコープにそこまでの速度差はない。
ジェネシスフレームであるなら天井知らずにスペックを強化する事は可能ではある。
だが、それを扱うプレイヤーの技能には上限があるのだ。
スペックだけを上げたとしてもそれを扱える技量がなければ宝の持ち腐れとなる。
下位フレームでもジェネシスフレームとある程度戦える理由はこれだ。
人間の反応速度、処理能力には限界がある。
ジェネシスフレームに求められるのは機体性能とプレイヤースキルの両立。
どちらかが高すぎても成立しない。
前者が高すぎると性能に振り回され、後者が高すぎると実力が発揮できない。
重要なのは両者の最適化。 それこそが、ランカーが戦う世界で登っていく為に必要な物だとヨシナリは考える。
コンシャスは小刻みに加速と減速を繰り返してこちらに動きを読ませない。
重力制御とエネルギーウイング、機体各所に増設されたスラスターで機動性と旋回性能の強化、挙動で高感度のセンサーシステム装備の機体に対しての備えも怠っていない。
流石はランカー。 正面からだと中々に隙を晒さない。
そしてコンシャスはこれまでに戦った相手とは違うクレバーさがある。
それはなにかというと――コンシャスは銃撃しながら露骨に距離を取り始めたのだ。
パンドラを切った以上、時間制限が出る。
それを理解しているコンシャスは逃げ回る事でこちらの消耗を狙っているのだ。
「逃げないでくださいよ。 もしかして怖かったりしますか?」
『は、その手には乗らねぇよ。 随分な魔改造してるらしいが、お前の機体はキマイラ+でしかない。 そんな無茶苦茶すれば機体が付いていけないのは目に見えてるからなぁ。 俺はこのまま粘ってお前がくたばるのを待ってりゃいい』
全くもってその通りで、それを誤魔化す意味でも軽く煽ったが乗ってこない。
コンシャスは冷静に勝ちだけを狙ってホロスコープの消耗を狙っているのだ。
アシンメトリーで狙い撃とうとするが器用に躱しながら応射。
無理に当てに行かずにこちらを追い払うような撃ち方。 露骨な時間稼ぎだ。
焦らせようという意図は見えているが、そんな事は織り込み済みだった。
仕掛けるタイミングはもう少し先だ。 ヨシナリはパンドラのリミッターを徐々に解放する。
325、350%と徐々に上げる事で速度を調整し、距離を詰めていく。
ポイントは一気に踏まずに段階を置く事だ。 コンシャスは追いつかれそうと悟るとどうするか?
降下するに決まってる。 露骨な時間稼ぎといい、彼はヨシナリの事をしっかりと研究している事は明らかで、パンドラを解放した際の機動を完全に操り切れていない事をよく理解していた。
さて、出力を持て余し気味な相手はどう処理するか?
答えは細かな制御を要求されるシチュエーションに放り込んでやれば自然とボロが出る、だ。
確かにその通りだった。 この状態でビルの隙間を縫うなんて細かな制御は難しい。
直線ならまだしも複雑な軌道で逃げられると捕まえられないだろう。
――市街地に入られれば。
だから狙うのは降下したタイミング。
エネルギー流動を隠して巧妙に動きを悟らせないようにしているが、降下すると分かっていれば前兆をキャッチするのは可能だ。 悟られないように徐々に高度を落としていた事もあって、最終的に地上に降りる事を狙っていたのも明らかだった。
アシンメトリーをマウントしてアトルムとクルックスのバースト射撃で弾をばら撒く事でコンシャスの降下を阻む。 阻止は不可能だが、僅かに足を止めさえすれば充分だ。
そこで一気に加速して先回り。 この為に徐々に出力を上げて行ったのだ。
出力の変化による速度差に慣れる前に先回りできればいい。
そのままコンシャスの真下に移動し、アトルムとクルックスで連射。
彼の機体は機動性に振っている分、耐弾性能はそこまで高くない。
アトルムとクルックスでも充分にダメージは入る。
そうなるとコンシャスの取れる手段はそう多くない。 躱す為に上昇するか、旋回。
後は何らかの手段で防御しながらの正面突破。 後者に関しては可能だとは思うが可能性としては低い。
何故ならコンシャスは勝負したいのではなく、勝ちたいのだ。
その為、リスクの高い行動はとらない。 時間を稼げば勝てると思っているのだ。
なら旋回で強引に展開を進める事も選択肢の優先度としては低い。
そうなると残りは――
「上だよなぁ!」
『なっ!?』
読み通り。 コンシャスよりも早く上昇して先回り。
350%の解放ならホロスコープの方が機動性は上だ。
エネルギーウイングを噴かして横回転しながら蹴りを放つ。
『舐めんじゃねぇ!』
コンシャスは逃げずにブレードを抜いて一閃。
ふわわやモタシラ程ではないが鋭い一撃はホロスコープの膝を綺麗に切断して足を切り飛ばす。
クレイモアの内蔵している脛の部分を狙わないのは流石だが、何の問題もない。
何故なら攻撃に一手使ってくれたからだ。
ヨシナリは蹴りを放つと同時に既にイラの柄に手をかけていた。
回転は止めずに勢いそのままイラを横薙ぎに振るう。 コンシャスは躱せないと判断したのか咄嗟にブレードを持ち上げて受けようとしたが強度が違いすぎる。
イラはそのまま受けたブレードごとコンシャスの機体を両断。
コンシャスが声にならない叫びをあげていたが、機体の爆発と同時にぷっつりと途切れた。
試合終了。 リザルトが表示されるのを確認してヨシナリはふうと力を抜いた。
勝てはしたが簡単な相手ではない。
次は通用しないだろうなと思いながら、脳裏でさっきの動きを反芻する。
蹴りに対してのアクションで対応を決めていた。 迎撃を狙うならそのままイラかアトルムとクルックスでの追撃。
逃げに徹するならパンドラの出力を400まで上げつつ、アシンメトリーで銃撃。
とにかく下に降りるのを阻む事でストレスを溜めてミスを誘発させる方向だったのだが、足一本で勝ちを捥ぎ取れたのは大きい。
確かな手応えと格上を撃破できた事の喜びもあって内心で良しと拳を握る。
さて、次の試合はどうするかなとウインドウを操作しようとしたが、表示がいつもと違っていた。
何だと見てみるとこう記されていた。
Aランクに昇格したと。 それを見て、ついにかと小さく呟いた。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!
現在、BOOKWALKER様にて1500円以上の購入でコイン45%還元キャンペーン中との事です。
パラダイム・パラサイトも対象となっております。
5/7までとの事なのでよろしくお願いします。




