892
敵のレーザー攻撃にはプロセスが存在する。
太陽のようにエネルギーを放出している本体から周囲の外殻に渡し、そこで収束させて発射だ。
本当にダイソンスフィアのようなコンセプトは人類の宇宙進出を意識した運営の計らいかも知れない。
――とどうでもいい思考を脳裏から蹴り出し、攻撃兆候を読む事に注力。
本体、外殻、収束、発射。
この四つの過程が存在しており、そこを理解していれば邪魔するのは比較的ではあるが容易だった。
少なくとも上で戦った学習個体に比べれば単純な分、まだ戦い易い。
ちなみにロックオンは収束と発射の間に実行される事もあって、警告が出た瞬間に回避に入れば躱せる。
ただ、反応が遅れれば確実に当てて来る事もあって中々に神経を使う。
ロックオン警告。 回避する必要があるのだが、大丈夫そうだった。
ヨシナリを狙っている砲身を担う外殻が次々と破壊される。
グロウモスと霧ヶ峰の狙撃だ。 撃つ前に先制して破壊し、発射を阻止。
マルメルは精密射撃には向かない事もあって、当初のプランであったエネルギーの循環が多い箇所に対して攻撃を仕掛けて破壊し、外殻自体の機能を落とす事に注力。
霧ヶ峰が指示しているのだろう。
視野が広いプレイヤーが後ろにいてくれるのは頼もしいが、あの性格は何とかならないのだろうか?
加速、加速。 徐々に降りてきてはいたが未だにコアはまだ高い位置だ。
注射器と干渉するので変形もできない以上は人型形態で肉薄しなければならない事もあって少しかかる。 それでも徐々に視界一杯に広がり、敵から更に目立つ事になった。
つまりはロックオン警告が一気に数倍に増える。
ベヒモスに割り振っていたリソースをこちらに割いてきたのだ。
脅威度を高く見積もった? それとも単純に近い順に優先している?
エネミーの行動パターンには分からない部分はあるが、今は倒す事だけを考えればいい。
そろそろ使い時かと思った辺りでエネミーの挙動が変化。 外殻の形状が変化。
蜘蛛の巣のような複雑な形状に変わった――が、即座に引き裂かれる。
下から無数のレーザーが飛んで来たからだ。
振り返るとベヒモスがホロスコープを追いかけるように前進しながら外殻に対して火力を集中している。 明らかにヨシナリを進ませる為の援護だ。 ありがたい。
内心で感謝しながらも破壊され、穴が開いた蜘蛛の巣を抜ける。
ここまでくればもう目の前。 切り札を切るならここだ。
注射器を遠隔起動。 充填された薬液が注入され、機体の内部温度が急速に下がっているというエラーメッセージがポップアップしたと同時にパンドラを完全開放。
15――いや、10秒以内に仕留める。 機体の各所からエーテルが噴出。
ホロスコープの全身を覆い。 新たな鎧を形成する。
エーテルの操作は思考制御による造形だ。
パンドラの扱いに対する習熟の問題で全身を覆う程のエーテルを吐き出すと形が安定しない。
常にあのプセウドテイのデザインを維持し続けていたベリアルは本当に凄い奴だと思いながらも今の自分にできる精一杯で制御するのだ。 形状は人型。
両腕に二本のイラをマウント。 腕に取り込む事で接近するまで盾として使用する。
両腕を並べるように立てて防御態勢。 無数のレーザーへの防御とする。
凄まじい数のレーザーが直撃するが、イラの守りを貫けない。
エネミーは即座に手を変えた。 収束しての長時間照射に切り替えたのだ。
重たい衝撃が両腕に伸し掛かる。
便宜上、レーザーと呼称しているが、正確にはレーザーのような何かだ。
放つエネルギーはエーテルに近い性質で質量を備えている。 その所為か凄まじく重いのだ。
勢いが殺される。 ここで足を止めるのは不味い。 たった1秒のロスですら生死にかかわるのだ。
止められる訳には――レーザーが途切れる。 照射している砲身が砕けたのだ。
ベヒモスが被弾しながら蜘蛛の巣状の外殻に頭から突っ込む。 強引に道を開けるつもりのようだ。
だが、蜘蛛の巣に突っ込む事は自ら動きを止める事に他ならない。
ヨシナリを巻き込む形で極太のレーザーが照射。
――ヤバい。
イラの防御なら耐えられるが足が完全に止まる。 躱さないと不味い。
不意に背後でベヒモスが爆散。 レーザーの照射前だった事もあって明らかに不自然だ。
恐らくは自爆したのだろう。 凄まじい爆発が発生し、ホロスコープの背を押す。
僅かに遅れて転移反応。 砲身の近くに何かが現れた。
タイミング的にベヒモスを操っていた中身だ。 一瞬だったがその姿が見えた。
悪魔のようなデザインの機体は忘れもしない。 あのオペレーター機だ。
何で? お前、敵じゃなかったのかよ。 そんな疑問が浮かんだのも刹那。
悪魔型は持っていた長剣で砲身を切断。 だが、レーザーの照射自体は始まっており、射線を変えるだけの効果しかなかったがそれで充分だった。 レーザーはホロスコープを僅かに掠めるだけに終わったからだ。
悪魔型は口元に立てた指を持って行く。 直後、レーザーに呑まれて消滅。
意味は分からなかったが、好都合だ。 コアに接触し、マウントした二本のイラのギミックを展開。
大剣に仕込まれたギミックが唸りを上げる。
「おらぁぁぁぁぁ!!」
それに合わせてヨシナリも吼える。 突き立てたイラが一気に沈み込む。
唸る丸鋸がコアを構成しているよく分からない物を抉り取る。
――思ったよりも脆い。
これは行けるかもしれない。
推進装置を全開にして掘り進んでいる事もあって機体が一気に沈み込む。
全てがコアに呑み込まれた事でエネミーがホロスコープを消化でもしようとしているのか纏わりついて来る。 握るような形でこちらを押し留めるつもりのようだがこの程度では1000%の出力を叩き出したホロスコープを止める事は出来ない。
この構造体は全体が回路のような代物で形が崩れたとしても残りが代替して機能を維持するのだろうが、中心付近がごっそりとなくなるとどうなるのだろうか?
エネルギーの流動、循環がある以上、中心部分がなくなるとそれが大きく滞る。
そんな状態で今のようなパフォーマンスを発揮できるのだろうか?
ヨシナリは無理だと思っていた。 8秒経過。
中心に辿り着いた。 ここだと判断したヨシナリは胸部のエーテルを解除して内部で収束。
エーテルによって闇色に染まったレーザーが敵の中心で炸裂した。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




