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――お見通しかよ。
確かに霧ヶ峰の言う通りだった。
アイロニーに依頼したブツが間に合った事もあって持って来てはいたのだ。
ただ、リスクが高すぎて本当の緊急時にしか使えない正真正銘の切り札だった。
『流石に本人が居ないので30秒も保たないとは思いますが、使えばどれだけ生きていられますか?』
「……アイロニーには10秒は保証すると言われてますが、最大限に上手くいって15秒といった所でしょう」
『素晴らしい。 ギリギリまで近づいてコアの影響範囲内で使用。 2秒で接触、二本のイラの機能を利用して13秒で解体すれば完璧ですね!』
「完璧じゃねぇよ!? 話聞いてましたか? 時間いっぱいまで使ったら機体が保たないって言いましたよね!?」
『確かに。 では8秒で処理できれば機体も残るのでは? 何の問題もありませんね』
まだまだ大型エネミーは――いや、それ以上にイベント時間がまだまだ残っているのだ。
何が悲しくてほぼ脱落確定の特攻をかまさなければならないのか。
それ以外の手がないなら話は別だが、それをやるぐらいなら増援が来るまで粘った方がマシだった。
「いや、地道に弱点潰して解体しましょうよ。 まだ人数もいますし、粘れば次のサーバーのプレイヤーも来ます。 無理しなくても勝ち目はあるじゃないですか」
『そうなんですけど。 実はタカミムスビさんと賭けをしまして。 増援が来る前にアレを処理できれば私の勝ちなんですよ。 そんな訳でヨシナリさん。 あなたしかいないんです。 私の為に死んでください』
「嫌に決まってるだろうが!」
こんな奴だったのかよとヨシナリは内心で心の距離を大きく取ったのだが、霧ヶ峰は「思金神」の参謀。 こうなる事は最初から分かっていたはずだ。
そんな彼女がこんな提案をしてきた意味を考えるべきだったのかもしれない。
『そうですか。 ところで私の機体なんですけどご存じの通りシックスセンスを内蔵しています』
「はぁ」
『実はですね。 シックスセンスはアップグレードが可能でして、ジェネシスフレームのカスタム依頼の際に申請する事が可能なのです。 所謂、機能拡張なのですが、それを適用するとですね。 武装のライブラリーにアクセスする事で敵機の武装の詳細を即座に割る事ができるようになります。 流石にジェネシスフレームの専用装備は情報収集から入るので初見では時間がかかりますが』
「…………」
それは便利な、便利すぎる機能だった。
霧ヶ峰の話から視界にさえ入れてしまえば既存、もしくは既知である武器の型番とスペックが分かるような類の代物なのだろう。
ジェネシスフレームの専用装備には初見では対応できないらしいが、既存品に対して圧倒的な情報アドバンテージを取れるのはかなり使える機能だ。
『インストール用のソフトは使い切りアイテムなので一度使うとなくなるのですがなんと! な、んと! 一つ未使用の物が私のインベントリに入っているではありませんか!? あぁ、私は使ってるしなぁ。 腐らせるのも勿体ないし、シックスセンスを他に使っている人が居れば有効に使ってくれるんだろうなぁ』
「…………」
『どうせ私は使わないし頑張ってくれる人にあげちゃってもいいかなぁ??』
「…………」
『チラチラ』
――この野郎。
あまりにも露骨すぎる霧ヶ峰の態度に内心でイラっとしたが、それ以上にこれで釣れると思っていると確信している事が悔しかった。 シックスセンス用のアップグレードソフト。
欲しい。 滅茶苦茶欲しい。 敵武装の詳細が早い段階で割れるなら射程を始め攻撃範囲の割り出しが容易になり、初動でかなりの有利が取れる。
加えてジェネシスフレームの専用装備という事なら市販品として出回らない。
少なくとも今は出回っていない。 そういった意味でも霧ヶ峰の提案は魅力的だった。
「……接近するまでの援護は期待しても良いんですよね?」
『勿論ですとも。 我々が全力で援護いたします』
霧ヶ峰の声は満面の笑みである事が分かるほどに弾んでいた。
一体、こいつはタカミムスビとどんな内容の賭けをしたんだろうかと聞きたくなったが、なんだか怖そうだったので止めておいた。 そんな事よりも目の前の敵を屠るのが先だ。
「やりましょう」
『流石はヨシナリさん。 そう言ってくれると思ってました。 期待していますよ』
霧ヶ峰の何処まで本気か分からない言葉を聞きながら意識を集中。
やると決めたら半端はしない。
「マルメル、グロウモスさん。 事情があってあいつに特攻をかける事になりました。 援護して下さい」
「おいおい、マジでどうした? 霧ヶ峰と何か喋ってたみたいだけどそれか絡みか?」
「そんな所だ。 報酬に釣られてホイホイ突っ込む事になった」
「マジかー。 勝算はありそうか?」
「まぁ、最大限上手くいけばって所だ」
恐らく仕留める所までは何とかなりそうだが、生きて帰れるかはかなり怪しい。
「ほ、報酬ってなに?」
「シックスセンス用のアップグレードソフトらしいです。 市販品じゃないみたいなので個人的には是非とも欲しいと思いまして」
「そ、そうなんだ。 じゃあ頑張って援護するね」
グロウモスの探るような質問内容が気になったが、やれる事はやった。
後は行くのみだ。 ヨシナリは一つ深呼吸して腰に搭載した小さな格納ケースからスティック状の注射器のような物を二本取り出す。 一本を首に、もう一本を脇腹に突き刺して固定。
これはアイロニーに依頼した物で充填されているのはユニオン対抗戦の最終局面で使用したあの薬剤だ。 頭部とジェネレーター周りだけを冷やすので持続時間は半分以下になるが、ホロスコープをパンドラの完全駆動に耐える事を可能とする。
取り敢えず、頭部が無事ならシックスセンスは機能し、ジェネレーター周りが無事なら胴体部分がいきなり溶け落ちたりはしない。 手足やフレームの熔解は諦めるしかなかった。
最悪、手足はエーテルで補えば何とでもなる事もあって捨てる事にしたのだ。
まだ投与は開始していない。 機体側からの操作で即座に可能となるが、接近してからだ。
――行くぞ。
「行きます。 報酬は忘れないでくださいよ」
『いつでもどうぞ』
霧ヶ峰の返事を聞いたと同時にホロスコープを急上昇させる。
幸いにも敵の攻撃はベヒモスに集中している事もあってある程度まで接近する事は簡単だ。
ただ、安全圏から飛び出して突出するとそうも行かない。
エネミーは飛び出したホロスコープを黙って近づける訳もなく、無数のロックオン警告がポップアップした。
誤字報告いつもありがとうございます。
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