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壁から次々と敵機が吐き出され、ライランドへと殺到するが、彼は不動。
両腕の装甲が一部展開。 はっきりと分かるほどに周囲の空間が歪む。
空間歪曲。 それもこれまで見た事がないレベルの強度だ。
敵機が撃ち込んだエネルギー弾やレーザーは全て捻じ曲げられて届かず、実体弾は一応は届いているが傷一つ付いていない。 飛び道具が効果がないと判断した敵機は実体剣、エネルギーブレード等の近接武器を展開して斬りかかるが、間合いに入った瞬間に叩き潰された。
――あれはどうなってるんだ?
ヨシナリの目がおかしくなっていないのなら敵機が拳に吸い込まれているように見える。
シックスセンスでスキャンしても拳に周囲の物に対して影響を及ぼすようなエフェクトは存在しない。
つまり、機体の性能ではなく自前のスキルであの攻撃を成立させているのだ。
敵機の攻撃を捌きながらライランドの動きも視界に入れる。
Sランクの戦闘を間近で見られるのだ。 こんな機会は早々ない。
盗める技術があるなら欠片でもモノにしたい。 そんな気持ちで刮目する。
敵機はエネルギーウイングを噴かして正面から斬り込むと見せかけて旋回。
脇腹を狙っての刺突を狙っていたのだが実体剣の切っ先はいつの間にか突き出された拳に触れて砕け散り、そのまま上半身も粉砕された。 意味が分からない。
どう見てもライランドが無造作に突き出した拳に敵機が当たりに行っているようにしか見えなかったからだ。 敵機の動きよりも明らかにライランドの動きの方が遅い。
――にもかかわらず綺麗にカウンターを決めているのはどういう事だ?
敵機はヨシナリの方にも来ている事もあっていつまでもは見ていられない。
次だ。 次で見極める。 視るべきはライランドが敵機を認識した瞬間だ。
銃撃が通用しないと見るや懲りずに接近戦を挑む敵機。 挙動から旋回して死角に回り込んでの斬撃。
下で戦った敵機よりも挙動がスムーズになっているのは何らかの手段で学習しているからだろうか?
徐々にではあるが明らかに動きが良くなっていっている。
「――おいおい、マジかよ」
思わず呟く。 何が起こるのかが分かっており、ライランドの動きを注視してようやく見えた。
敵のエネルギー流動――特に推進装置関係の動きを見て挙動が読めたと判断する前にライランドは既に動いていた。 敵機が来るであろう場所に拳を軽い動作で振るう。
一瞬後に拳が敵機を捉え、跡形もなく粉砕する。
――いや、そんな事が可能なのか?
目の当たりにしてもなお信じられなかったが、ヨシナリの考えが正しければベリアルがあっさりやられた事にも納得がいく。
先読み。 それもとんでもない精度の。
ライランドは敵が動いたと同時に敵が来る位置に拳を置いているのだ。
結果、傍から見れば敵機は勝手に殴られに行っているように見える。
見えているのに理解ができない。 これがアメリカのSランクプレイヤー。
機体性能だけではない隔絶した何かがあった。
何より恐ろしいのはその場から一歩も動かずにこれだけの事をやってのけている点だ。
そしてそれ以上にこんなに強いライランドですらラーガストには勝てなかったのか。
自分ではそれなりの物だと自負していたが、Sランクの領域はまだまだ遠いようだ。
敵がライランドへのターゲット優先度を落としたのかヨシナリとレイノルズへと攻撃を集中しようとした瞬間に動き出した。 腕のシリンダーを解放。
敵機は碌に阻む事も出来ずに攻撃を許してしまい。
ライランドは壁に埋まっている一際大きなコアに拳を叩きつけると三つのシリンダーを叩きつける。
内部で打ち込んだだけあって破壊力も恐ろしい。
一度で放射状の亀裂が走り、二度目で大きく陥没、三度目で大穴が開き、床、天井に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、壁から這い出ようとした敵機が踏みつぶされた虫のように弾けとんだ。
単純な打撃の延長なのに凄まじい破壊力だ。
敵機は数で潰しに行くつもりのようでライランドを囲むが、それも彼の狙いの内だった。
『ヘイ! 良い位置じゃねぇか!』
レイノルズがライランドへと銃口を向ける。
血迷ったかと思ったがそう言う事かと察したヨシナリもアシンメトリーを向けてフルオート射撃。
ライランドには飛び道具がほとんど通らない。 だから巻き込んでも問題がないのだ。
集団戦では囮になって敵のヘイトを完全に引き付けて自分ごと味方に撃たせる。
圧倒的な防御性能があるからできる手段だが、ヨシナリには思いつかない戦い方だ。
やはり、知らない相手と一緒に戦うのは良い。 新しい発見と刺激がある。
ライランドを囲んでいた敵機はヨシナリ達の集中砲火で次々と破壊され、ライランドを盾にしようとした機体は当の本人に叩き潰される。
『レイノルズ。 残り時間は?』
『もう10分もねぇな』
『そうか。 ヨシナリといったな。 お前はここから外へ離脱しろ』
「何をするつもりなんです?」
『こいつを使う』
『ひゅう! ボスのとっておきかよ! 俺のオヤジの車についてるニトロよりやべぇぜ!』
ライランドの腕――正確には肘から下が消失し代わりに巨大な筒のような物が出現した。
空間転移を用いた装備の換装? 腕を交換できるのか。
まだまだ底が見えないなと思いながら交換した腕を見ると元々の腕よりも遥かに大きく太い。
形状からミサイルの類である事が分かったが、とっておきというだけの代物なのだろうか?
表面をさっと見てあるマークが刻まれているのを見て固まった。
「おいおい、マジかよ。 それ――」
危険物である事を示すマーク、ハザードシンボルが刻まれていた。
どう見ても大量破壊兵器の代名詞のような代物によく刻まれているアレだ。
『巻き込まれたくないならさっさと逃げろ。 どの程度破壊できるかは分からんが、それなり以上に効果はあるはずだ。 これで仕留めるつもりだが、そうならなかった場合はお前に任せる』
「分かりました。 ご一緒できてよかったです」
『借りを返しただけだ。 お前達に助けられたからこそ俺はここに立っていられる。 機会があればまた会おう。 ラーガストに会う機会があればよろしく言っておいてくれ』
『じゃあなヨシナリ! また会おうぜ!』
そう言って二人は奥へと向かって行った。
ヨシナリは二人の背を見送った後、踵を返すと外へと飛び出した。
誤字報告いつもありがとうございます。
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