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ガスを撒き散らす個体の排除が進み、視界が維持され続けている事もあってそれの姿はよく見えたが、全容は分からない。 直立すると見上げても頭頂部が見えないからだ。
アメリカのSランクが仕留めた個体は数百メートルという事だったが今回はその数倍。
文字通り比較にならないサイズだった。 現れた巨人はゆっくりと足を振り上げる。
遠目には遅い動きだろうが近くではそうもいかない。
たったそれだけの動作で敵味方問わずに数百機の機体が砕け散った。
あまりの迫力に誰も何も言えず、通信が空白のような静寂が生まれる。
そんな中、巨人の足を振り上げた動作がどれだけヤバい結果を招くのかを理解したプレイヤー達は即座に我に返ると動き出す。 ヨシナリもその一人だった。
機体を変形させ、パンドラのリミッターを外しての最大加速。
今は僅かでもあの怪物から距離を取らなければならないからだ。
あんな物が地面に落ちたら発生する衝撃は計り知れない。 巻き込まれたら終わると確信していた。
「タカミムスビさん!」
『もう避難を呼びかけているよ。 ――とはいっても防御に優れた機体でないと厳しいだろうがね」
通信を繋ぎっぱなしだったタカミムスビに警告したが余計なお世話だったようだ。
数十キロ以上は離れたはずなのにサイズ差の所為で近く感じる。
そして足が振り下ろされた。 起こった事象は津波。 土や岩でできた黒に近い灰色の津波。
それが数キロの高さまで大きく伸び、この惑星に存在する全ての存在へと伸し掛かろうとしている。
シックスセンスで見るともっと分かり易い。 簡単に言うと水たまりを強く踏みつけた時に起こる水の動きに似ている。 ただ、規模が違いすぎて水が跳ねるだけといった可愛い物でないが。
規模から被害範囲を予測。 どう頑張っても逃げ場がない。
確実に呑み込まれる。 ホロスコープに防ぐ手段は? ない。
空間歪曲か斥力フィールドがあればまだ低いが生存の可能性はあったが、高機動機のホロスコープは躱す事が前提のビルドだ。 そんな気の利いた代物は積んでいない。
それでも何処かへと逃げなければ――
『そこに居たのか。 動くな。 今助けてやる』
不意に響いた言葉に対して反射的に動きを止めたのは自分でもよく分からなかった。
変換された聞きなれないバリトンの低い声に安心感があったからかもしれない。
空間情報の変動。 何かがホロスコープの後ろに転移して来る。
その姿を確認する前に津波が追い付いた。 地面が、空間自体が縦に揺れる圧倒的な質量の衝突。
呑まれた時点で終わると確信できるそれに対して目の前の機体は腕を盾にするように翳しただけだ。
だが、それだけで確実な死を齎す津波に抗っている。 まるで海を割った聖人、そんな逸話を連想するほどに現実感のない光景だった。
脅威が去り、無傷の機体と現れた何か。 改めてその機体に視線を向ける。
20mクラスの大型機。 巨大な両腕に肘から巨大なシリンダーが三本。
一目で分かる重装甲に飛行は重力制御。
内蔵されているジェネレーターからは巨大すぎるエネルギーを感じる。
頭部には巨大な一本角。 形状、サイズは大きく変わっているが基本的なデザインは変わっていない。
過去の対抗戦で遠目に見た事がある機体だ。
プレイヤーネーム「ライランド」。 アメリカ第三サーバーのSランクだ。
機体を失ったと聞いていたが、どうやって? いや、それ以前に何故ここに?
疑問はいくつかあるが、レーダーを確認すると爆心地の近くは敵味方共に反応が全て消失していたが、離れた位置は思った以上に無事な機体が多い。 どうやら何らかの手段で防いだようだ。
「助かりました。 ありがとうございます」
『いや、こちらも助けて貰った借りがある。 あのマルメルというプレイヤーに自分達はいいからお前を助けてやってくれと頼まれた』
そこまで聞いてあぁと納得した。 どうやら降下直後に助けたプレイヤーがそうだったようだ。
薄っすらとそんな気がしていたのだが、凄い偶然だなと少し驚いてしまった。
タイミング的には噂の大型エネミーを仕留めて撤退している途中だったのだろう。
同時に彼が助けに来てくれた理由に関しても納得した。
「はい、そのマルメル達は――」
『そちらも心配しなくていい。 俺の仲間が守ったはずだ』
ライランドは借りを返したと言わんばかりに会話を切り上げると視界一杯に広がる巨大なエネミー相手に拳を握る。 その背には戦意が燃えている事が機体越しでも分かった。
彼は何も言わずに敵へと向かっていく、それが呼び水になったのか生き残った機体が次々と攻撃を開始。 圧倒的なサイズに怯む者も多かったが、大半が嬉々として突っ込んでいく辺りこのゲームの民度が良い意味で出ていた。 ヨシナリも例に漏れず突っ込む側だ。
ライランドの背を追って一気に加速する。 背後からは無数の支援射撃が飛んできていた。
生き残ったプレイヤー達がばら撒ける物はばら撒けと言わんばかりに全力攻撃を繰り出す。
そんな無数の砲火が飛び交う中、一際目立つものがある。 極太のレーザーだ。
これはと視線をやるとタカミムスビが楽しそうに加速と転移を駆使して突っ込んでいる所だった。
「タカミムスビさん!?」
『このサイズ差だ。 何処へ逃げても何をしても変わらないよ。 ならここは突っ込む場面じゃないかな?』
それよりも早く敵へと接触したライランドが拳を握ると弓のように引く。
呼応するように肘のシリンダー三本が一気にせり上がった。 小さく息を吐く声と共に一撃。
命中と同時にシリンダーが叩きつけられる。 凄まじい轟音と共に巨大なエネミーの外殻に放射状の亀裂が走る。
それだけに終わらず、二発、三発とシリンダーが叩きつけられ、二撃目で亀裂が大きく広がり、三発目で大きく砕けた。 脱落した破片がバラバラと散って行く。
少し離れた所ではタカミムスビが周囲に反射板を従え、全身からレーザーを発射。
一点に集中して巨大な穴を穿ち、開いた傷口を抉るように爪を叩きつけている。
それに続くように次々にプレイヤー達が無謀とも取れる突撃を敢行。
サイズ差にひるむことなく巨大エネミーに取り付こうとしていた。
ヨシナリも攻撃を仕掛けようとしていたが、今の武装では碌な戦果は望めない。
――まずは何処を狙うかの見極めからだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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