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ニャーコの処理を済ませた敵機は即座にアームガンを展開。
上に向けて発射。 照明弾のような物が尾を引くように上昇し、炸裂し光の粒が風に乗って散って行く。
「で、これか」
「だナ。 滅茶苦茶厄介だったゾ」
ニャーコを処理してから使ったのは接近戦を仕掛けて来る相手がいないと判断しての事だろう。
その後、敵機はマウントしているライフル――ではなくレールガンの類を構える。
機体から発射の為のエネルギーを賄う為にああいった形になったのは分かった。
狙いはポンポン。 照準的に当たるタイミング、角度ではなかったが、嫌な予感がしたのか彼女は即座に盾を構えていた。 発射。 次の瞬間、ポンポンのマーシュマロウが衝撃で大きく仰け反った。
「おいおい、何であの角度で当たるんだ?」
マルメルは納得いかないといった様子で、ヨシナリとしては気持ちは痛いほどによく分かった。
当てる為に少なくない努力をしている彼からすれば同系統の武装をあんな当て方をされれば納得いかないのは無理もない話だ。
ヨシナリは映像を止めて少しだけ戻す。
「こいつが使った照明弾あっただろ」
「あぁ、もしかしてアレでマーキングしてる感じか?」
「そう言う事だ」
次にポンポンの機体をフォーカス。 よく見ると機体の各所に薄く光る何かが付着していた。
暗いお陰で目を凝らすまでもなくよく見える。
単なる目印ではなく、アレが作用して弾体を引き寄せるのだ。
コマ送りにするとそれは顕著で発射された弾体は途中で不自然に角度を変えてポンポンの盾へと命中している。
「汚ねぇ! ほぼ必中じゃねぇか!?」
「特にこの環境とのシナジーがえぐいな」
常に強風が吹き荒れているこの環境は何かを散布するには非常に優れているのだ。
その分、拡散も早まるのだが、この様子だと少しでも付着すれば問題ないらしく、仮にマーキングに失敗したとしても二発、三発と撃ち込めばいい。
――それを差し引いても敵機の技量が凄まじい。
弾道を操れるのも厄介だが、それに依存している風でもなかった。
その証拠にポンポンの僚機が重なる瞬間を狙って撃ちこんでいる。
三枚貫きだ。 照準の手間を軽減しているとはいえ、これは技量が高くなければできない。
「ヨシナリ。 お前ならどう防ぐ? あたしには思いつかなかったゾ」
意見を求められて口を噤む。 正直、難しいと思ったからだ。
風に乗っている上、視認は難しく、シックスセンスでなら辛うじて捉えられるが、そちらに集中してしまうと撃墜されかねない。
「防ぐだけって話なら斥力フィールドや空間歪曲のような物理的に作用するフィールドをアイドリング状態にしておくとかですかね。 それでやり過ごしてフィールド解除か、俺やベリアルみたいなエーテルで機体を覆っているのなら解除して再展開で剥がせはしますが、どっちも誰でもできる事じゃないんで難しいですね」
「だナぁ……。 実体弾を防ぐレベルのフィールド系の防御兵装ってジェネレーターの負荷が強いからあたし的には微妙だったんだんだよナぁ」
実際、ポンポンはその辺を意識して実体盾という選択をしたのだ。
今更そんな事を言われても困るだろうなというのは理解できた。
「ただ、一見すると躱しようのない攻撃に見えますが、実は防ぐ手段があるなら何とかなるんですよ」
「ヨシナリの言う通りだ。 シックスセンスを使えば分かるんだが、発射前にマーキングと銃口の間にラインが見えるから、射線が物理的に見えるゾ」
何処を狙っているかが分かる事もあってポンポンは盾を構えて射線に割り込む事で味方を守っていた。
これはあの盾がある彼女ならではの防ぎ方だ。 それ以上に何の躊躇もなく射線に割り込みに行ける胆力をヨシナリは素晴らしいと思っていた。 受け損なうと即死する以上、かなり神経を使う。
ただ、敵機もそういった相手を想定しているのかポンポンのポジションを意識し、弾体が彼女を躱すような撃ち方に切り替えた。
マルメルが酷ぇと呟き、タヂカラオも思わず顔を顰める。
恐らくはある程度、発射後の過程を弄れるのだろう。
守りたいのなら防衛対象にある程度近くなければ躱されて終わる。
思った以上に厄介な相手だった。 これでエネミーの操作が本領なのだから化け物じみている。
味方が次々と落とされた動揺か、ポンポンの動きが露骨に悪くなった。
ヨシナリは指摘しようか迷ったが、この人数の前でいう内容ではないなと思った事もあって口には出さなかった。 情の深さは間違いなく彼女の美点だが、こういった場面で脆さが露呈する。
これに関してはメンタルの話になるので、かなりデリケートな問題でもあった。
――それよりも凄まじいのはこの先か。
ポンポンの不調を察して畳みかけに行った敵機だったが、回避行動。
理由は地面に突き刺さったライフル弾だ。 ヨシナリは撃った方をフォーカス。
重く独特な足音を響かせながらケイロンの機体が突っ込んで来ており、その背にはスコーピオン・アンタレスを構えたグロウモスが乗っている。
ケイロンの肩に銃身を乗せてしっかりと敵機へと狙いを付けていた。
500近く離れている上、馬上という不安定な状態であの命中精度。
いつ見ても彼女の腕前には驚かされる。
――いや、特筆するべきはその集中力か。
一体、彼女の視界にはどんな世界が広がっているのだろうか――と想像しようとして何故か悪寒がしたのでやめておいた。 敵機は新手に対してマーキングを施すべく照明弾を打ち上げる。
散った光の粒子がグロウモス達に付着。 敵機はすっとレールガンを構えて発射。
二機纏めて撃ち抜くつもりだったのだが、次の瞬間に起こった事象にその場にいた大半のプレイヤーが驚きの声を漏らす。 マルメルは思わず身を乗り出し、ふわわも小さく笑う。
ランカー達も驚いており、ツガルは目を見開き、カカラ達も思わずといった様子で小さく唸る。
ヨシナリも知ってはいたが、実際の目の当たりにすると凄まじいと感じてしまう。
敵機の放った弾体は空中で粉々に砕け散った。 何が起こったのか?
グロウモスが空中で撃ち落としたのだ。 意味が分からない。
どうやれば視認できないスピードで飛んでくる弾体を撃ち落とすなんて芸当ができるんだ?
いや、一応理屈は理解できるのだが、それを差し引いてもこれは――
誤字報告いつもありがとうございます。
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