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ジョゼ自身もそうだが、オペレーターは全員に本当の意味での自由はない。
彼女達は資産である以上は損なうような真似は出来ない。
ジョゼ自身の認識では常に首輪とリードが付いている状態なのだ。
それが一つ増えたとしてもそこまで大きな影響はない。 だから、負けても困る程度で済むのだ。
そんな理由で負けてもそこまで大きな問題はないが、だからといって負けても良いとは欠片も思っていない。
負ける事は相手に対して屈服する事を意味する。 常に鎖に繋がれているジョゼとしてはそれはあまり愉快な事ではなかった。 しかも同じ相手――正確にはチームだが――に負けるのは許容できない。
特に今回は自分から当たりに行ったのだ。 ここで負ける訳にはいかなかった。
――差し当たってはここを片付ける事かな?
ベリアルには前回の借りは返した。 残りはヨシナリだが、彼は反応炉の処理の為に上空だ。
ボランティア達に足止めはさせているが、長くは保たないだろう。
最終的に突破はされるだろうが、破壊まではしばらくかかるはずだった。
アメリアはレギュレーションを守れと言った。
つまり裏を返せばそれを逸脱しなければ何をしても良いのだ。
だから、今回に関してはルールが許容する全ての行動を行った。
ボランティアに混ざった「猟犬」達はいい仕事をしてくれると期待している。
勝てないまでも足止め程度は余裕だろう。
その間にここを片付けて地上の高ランクプレイヤーを狩り取りに行くのだ。
残りは一人。 ユウヤというプレイヤーだけ。
戦闘スタイル、これまでの総合評価等を参照しても手強いが勝てない相手ではない。
ただ、事前にジョゼの情報を仕入れてきていたのか、対策はしっかりと練れている。
大振りの大剣は防御にのみ使用して散弾砲と電磁鞭の組み合わせ。
こちらを懐に入れない立ち回りは、短剣の間合いまで入れてしまうと負けると理解してるからだ。
鞭を奪って詰みだと思ったが下がりながら散弾砲と加速だけでこちらの攻撃を捌く。
――でもそれだけじゃ勝てないよ。
よく凌いでいるが完全に防御に振っているからこそ成立している状況でしかない。
つまり相手の防御が飽和した瞬間に終わる。 ジョゼとしてはさっさと片付けて次に行きたい気持ちが強く、そろそろ諦めろと少しだけ鬱陶しく感じていた。
ユウヤは電磁鞭の再生を待ってまた散弾砲との組み合わせで粘るつもりのようだが、その時間をくれてやるつもりはない。
ふわわというプレイヤーもやっていたが、磁界を展開すればこういった真似もできるのだ。
ジョゼの機体の周囲に短剣と長剣がドローンのように動き出す。
ユウヤは不味いと判断したのか背の大剣を抜く。 良い判断だ。
射出。 高速回転する短剣を躱し、大砲のように真っすぐに飛んだ大剣を受け止める。
押し込む力が消えていない点からこのままだと不味いと切っ先を逸らした判断も良い。
ただ、ジョゼ相手にそれだけの隙を晒してしまえば致命的だが。
ユウヤが大剣を押しのけた頃には既にジョゼは背後。 後は剣で胴を軽く薙いで終了だ。
『――チッ、結局こうなるのか』
呟きを拾うがジョゼはご愁傷様としか思わなかったが、ユウヤの口調には悔しさの類が感じられない。
嫌な感じがする。 何か見落としたのかと警戒心が持ち上がるが、それは少しだけ遅かった。
瞬間、機体の動きが止まる。 正確には速度が遅くなったのだ。
強力な重力異常。 粘液の中に沈められたような感覚。 身動きが取れない。
何とか脱しようとしたが、完全に捕まってしまってどうにもならなかった。
ズンと機体に衝撃。 真上から飛んで来た機体が腕に展開したエネルギーランスによる突進攻撃をまともに喰らったジョゼは何が起こったのかを理解する間もなく機体が爆散。 脱落となった。
「は、はは、はーっはっはっは! ざまぁみろ! 散々、僕に恥をかかせやがって! ――あー、すっきりした」
重力異常が解除され、身動きが取れるようになったユウヤは珍しく感情を露わにするタヂカラオに視線を向けていた。
視線に気づいたタヂカラオは冷静になったのかふぅと小さく息を吐く。
「いや、助かったよ。 あのポジションじゃないと決まらなかった」
「見事に消えていたな。 最初から狙っていたのか?」
「狙ってはいたけけど、君達が勝つならそれはそれで問題はなかったからね」
敵機との交戦中、ユウヤがふと上に視線を向けた時、小さな光が見えたのだ。
何だと拡大するとそこにはタヂカラオのトガクシが壁に張り付いていた。
気配が完全に消えている事にも驚きだったが、位置的に何をしようとしているのかを察したユウヤは敵機が上を背にした状態になるように誘導したのだ。
さて、タヂカラオは何をしたのか? ここまで情報が出れば簡単に推測できる。
彼はここへ先に来ていたのだ。 恐らくは施設部分が地表に露出したタイミングで即座に突入。
タヂカラオは追いつめられた敵機がここに誘い込む事を読んで先回りをし、待ち伏せていた。
だからといって完全なステルス機ではないトガクシにそんな真似はできるのだろうか?
スペック的には不可能だが、手がない訳ではなかった。
タヂカラオは機体の動力を完全にダウンさせたのだ。
そうすれば目視しない限りその辺に落ちている木石と変わらない。
ある意味では完全なステルスといえる。 この筒状の空間の天井付近に張り付き、彼はじっと待っていたのだ。 敵が隙を晒すその時を。
手段に関しては動きが鈍った点からも分かるようにエネルギーリングだ。
あの武装は攻撃手段であると同時に潜った相手の動きを一定時間鈍くする効果がある。
加えてリングは発射後、広がっていく性質を持っているのでこの地形では非常に効果的だ。
勝ちが見えて油断し切っており、目の前のユウヤに完全に意識を向け、視線も外れている状態。
「これだけの好条件が揃ってるんだ。 外す訳がないだろう? 後はそのままとどめだ」
よっぽど嬉しかったのかタヂカラオはやや興奮気味だった。
本人の言う通り、絡め取ってしまえば後はそのまま仕留めに行くだけだ。
位置も真上である以上、真っすぐに急降下して一突きで終わりだった。
「まぁ、仕留められなかったのは俺達の落ち度だ。 俺から言う事はねぇな」
「獲物を横取りしたと怒らないでいてくれるだけでありがたいよ」
タヂカラオはそう言って肩を竦めた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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