840
包囲するように出現し、敵機を切り刻まんと殺到する刃だったが展開されたフィールドに阻まれて弾き飛ばされる。 ふわわもそれは織り込み済みだったらしく防がせる事が目的だったようだ。
壁に張り巡らされた通路に着地。
踏ん張る為の足場が欲しかったようだ。 肩の野太刀を掴んで一閃。
速い。 遠目で見ているユウヤからでも手元が霞んで見えた。
縦一閃を敵機は危なげなく躱すが、次の瞬間に横からも斬撃。
――は、マジかよ。
野太刀は二本。 つまりは斬撃を二回繰り出せるのは理解できるが連撃は少し難しかった。
初撃を振り下ろしたと同時にエネルギーウイングを噴かして強引に上体を持ち上げた後に残った野太刀を掴んで振ったのだ。 その際の斬撃を放つ姿勢も同様にエネルギーウイングで矯正。
無茶苦茶な使い方だった。 確かにエネルギーウイングは可動範囲が広い。
特にふわわの物はかなり可動域が広いパーツを選択していたようで腰の辺りから180°稼働して腹の辺りから突き出るような形に動かしたのだ。
確かに理屈の上では可能ではあったが、あのレベルの挙動まで持って行くのはそう簡単にできる事ではなく、簡単に見切れる動きではない。
――はずだったのだが、敵機は大剣で受け止める。
野太刀による神速の斬撃は大剣の硬度を突破できずに半ばで圧し折れた。
妙に澄んだ音がこの縦長の空間に響く。
「うーん、悔しいなぁ。 ここに来て性能差かぁ」
ふわわは軽い口調ではあったが、声音は少し沈んでいた。
ユウヤは助けに入るかで迷ったが、自分が逆の立場ならそれを望まないと判断して手を出さなかった。
実際、最後の一撃は見事な物で、明らかに敵機は反応こそできていたが躱す余裕はなく受けざるを得なかったのだ。
これがもしもかの大剣の防御を突破できる代物であったのなら撃破は成っていただろう。
だが、彼女の刃は砕け散った。 それがふわわというプレイヤーの現在地だ。
最後まで諦めない彼女は野太刀の鞘を射出して牽制を入れた後、正面からの斬り合いを挑む。
凄まじい斬撃の応酬。 だが、ふわわが徐々に押し込まれる。
一撃打ち合う度に武器が欠けていく。 特に液体金属刃はこの手の耐久戦に向いておらず、早々に砕けて散る。 ふわわは即座に持ち替える事で対処していたが、その分後手に回るのだ。
反応速度自体はそこまで大きな開きはなく、押し込まれているのは単純なマシンスペックの差だった。
ついに全ての武器を失ったふわわは素手で捌き始めた。 手の甲で打ち落とし、手の平で捌く。
だが、それも長くは続かず、徐々に切り刻まれ――最後にコックピットを短剣で刺し貫かれた。
「あー、もぅ、悔しいなぁ……」
そう呟いて機体から力が抜ける。 シグナルロスト、撃破されたようだ。
敵機はユウヤに視線を向け、かかって来いと手招き。 ふぅと小さく息を吐いて気持ちを整える。
不思議と気分は落ち着いていた。 普段ならカッと頭に血が上って突っ込んで行く場面なのだが、頭にあるのはあの敵をどうやって葬るかだけだ。
散弾砲を撃ち込んで壁際へ移動。 壁を足場に走る。
機動性だけならそこまでの大きな差はないが、反応速度に天地の開きがある以上は可能な限り相手の動きを制限しなければならないからだ。 壁を地面としておけば少なくとも下から襲われる事はない。
敵機は手数の短剣から剣に切り替えて加速からの斬撃。
散弾砲で牽制を入れながら相手の挙動を制限する。 敵機は躱しながら背後に周りに来た。
背のオディウム=イラで受け止める。 反応速度では勝負にならない。
懐に入られたら負ける。 振り向きながら電磁鞭を横に一閃。
屈んで掻い潜ろうとするところでアケディアを起動。
何処まで効果があるかは怪しかったが、杞憂だったようだ。 敵機の武器の放つ紫電が掻き消える。
同時にユウヤの推進装置も一部が機能不全に陥るが、各所に搭載されているスラスターを噴かして落下速度を殺して近くの通路へと着地。 敵機は壁に剣を突き立てる事で落下を防ぐと足場に跳躍。
追いかけて来る。 散弾砲を実体弾に切り替えて発射。
敵機は両腕を交差して防御。 効果範囲外に出ずに突っ込んで来るのは想定していたが、推進系を麻痺させてこの運動性は想定以上だった。 敵機は接近しながら拳を握る。
どうあっても接近戦で仕留めたいようだ。 ユウヤにも近接攻撃の手段があるが、当てられる気がしない。
散弾砲と電磁鞭の組み合わせで懐に入れずに何とか隙を作ってイラでの一発を狙う。
当たれば一撃で大破まで持っていける自信はあったが、素直に当たってくれるかは非常に怪しかった。
それにアケディアの制限時間がそろそろ近づいている。 考えている間に電磁鞭の間合いまで接近。
下から掬い上げるように振るうと敵機は鞭を掴む。 反応に差がある事は理解していたがここまでか。
敵機は掴んだ鞭を思いっきり引いてユウヤの姿勢を崩しに来たが、鞭を自切して回避。
ここまでだった。 アケディアを停止させ、推進装置を再起動。 通路から空中へと飛び出す。
壁を這うように移動しながら何か使えるものはないかと視線を巡らせると――
――何だ?
ある物を視界が捉えた。
――ふぅ、危ない危ない。
ジョゼは目の前のユウヤを相手にしながらほっと胸を撫で下ろしていた。
サリサが居た事もあって問題ないだろうと正面から行ったら思った以上に手強くなっていて驚いた。
連携面だけなく個々の技量もしっかりと上がっていたのだ。
これはワールドレイドを控えている現状、中々の収穫といえる。
少なくともアメリアは喜ぶだろう。 ジョゼとしてもプレイヤーの成長は様々な意味でも喜ばしいと思っていた。 そもそも彼女達オペレーターの仕事の一つはプレイヤーの強化を促す事なのだ。
強敵として立ちはだかり超えるべき壁として認識させる。
それが実っているのはオペレーターとしての本懐とも言えた。
――賭けをしていなければ。
負ければ脳内チップの権限をアメリアに奪われる事もあって少し必死にならなければならなかったからだ。 少しなのは仮に負けてもそこまで大きな問題はないと思ってもいるからだった。
権限を奪われればジョゼの生殺与奪はアメリアに握られるが、やりすぎてしまうとアメリア自身が不味い事になる。 つまりは生活に不便は発生するが致命的な事にはならないのだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
宣伝
パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。
Kindle Unlimited、BOOKWALKERのサブスク対象にもなっていますのでよろしければ是非!




