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敵機は煩わしいと言わんばかりにツガルを一瞥するが、ちらりとベリアルの方を見た。
――何だ?
猛烈に嫌な予感がする。
横回転しながら切り刻みに行ったツガルの突撃を敵機は大きく仰け反って回避。
その躱し方では躱しきれない。 ツガルのブレードはあちこちから伸びているのだ。
機体下部も例外ではない。 当然ながら突き出たブレードが伸びているのだが、接触前に仰け反った勢いを利用して下半身を持ち上げ、所謂オーバーヘッドキックに近い動きで蹴り飛ばす。
「ぐぉ!?」
吹き飛ばされたツガルが立て直す頃には敵機は追撃に入っていた。
割り込むようにベリアルがカバーに入ろうとしていたが、纏めて切り裂くと言わんばかりに大剣を手元に出現させて一閃。 ベリアルは爪を大型化させて白刃取り。
――と同時に機体が背後から貫かれた。
敵機の貫手。 大剣を振り下ろしたと同時に転移で背後に回ったのだ。
「ぐ、なん、だと――」
敵機は拳を握るとそのまま引き抜いた。 風穴が開いたプセウドテイはどうにもならない。
ツガルが機銃を撃ち込むがその頃には敵機は離脱。 僅かに遅れてベリアルの機体が爆散。
敵機はそのままツガルの処理に入ろうとしていたが、曲刃が回転しながら飛んできた。
鬱陶しいと叩き落とした所でふわわが一気に踏み込む。
敵機は剣で迎え撃つが、奪った短剣を使っているふわわの方が回転は上だ。
武器の差がなくなった以上、破損を気にせずに踏み込んでいた。
双方の武器が紫電を放つが両者ともに気にしていない。
敵機は飛び散る紫電を吸収し、ふわわは強化装甲が弾く事で悪影響を無効化していたからだ。
「目がえぇなぁ」
敵機の横薙ぎの一振りを仰け反って躱し、お返しとばかりに刺突。
上半身の動きだけで躱そうとしていたが、不意にふわわの刺突が大きく伸びる。
推進装置を利用して緩急を付けたのだ。 敵機の頭部――人間でいうなら頬を刃が掠める。
ふわわは短剣、敵機は剣と間合いの差があるが接近した場合、その優位は逆転する事となる。
剣の間合いの内側ではまともに触れない。 対するふわわが使う短剣は容易に斬撃を繰り出せるだろう。 敵機の選択は剣を手放す事だった。
拳を固めて殴りに行く。 顎を撃ち抜こうとしていたが、それよりも速くふわわの膝が胴体に入り、敵機が強制的にくの字に曲げられる。 ふわわは短剣を器用に手の中で回転させて首を落としに振り下ろすがそれよりも速く手放した剣が何かに引き寄せられるように上昇して柄が突っ込んで行く。
ふわわは躱さずに機体の口が大きく開く。 柄を噛みつきで止めたのだ。
その隙に敵機は転移で距離を取るがツガルが待ってましたと言わんばかりに突撃。
合わせるようにユウヤも電磁鞭で足を狙った拘束を試みる。
敵機は僅かに足を上げて足首を狙った鞭を躱し、ツガルの突進攻撃を大剣で正面から受け止めた。
――躱さない?
勢いを完全に殺した後、敵機はツガルの機体に爪を立てる。
そこで意図を理解した。 離れろと叫んだが遅い。 放電。
ベリアルが居なくなった事で転移による横槍がないと判断して各個撃破に切り替えたのだろう。
「クソ、またかよ!?」
ツガルは何とか機体を動かそうとするが完全にスタンしたのか反応がない。
敵機の爪が更に食い込み、再度放電。 ツガルの反応がロスト。
中身を完全に焼かれたのだろう。 当然ながらふわわが黙って見ている訳もなく、斬りかかりに行ったが、敵機は動かない。 明らかに誘い込んでいる挙動だ。
ふわわ自身もそれを理解しているが噛み砕いてやると言わんばかりに無視。
間合いに捉えたと同時に短剣が敵機に引き寄せられ、両腕がそれに引っ張られる。
危険と判断して即座に短剣を手放し、背に差さっている液体金属が充填されている柄を指で挟むと即座に投擲。
柄から形成された小さく尖る刃が真っすぐに飛ぶが、敵機は不可視のフィールドを展開。
ふわわの使用する物と同じで磁界を展開して実弾や実体剣などの武器を弾く代物だろう。
同系統の武装を使用するだけあってふわわの武装はこの手の防御兵装に弱い。
あっさりと逸らされる。 ユウヤは舌打ちしながら散弾砲の弾をエネルギー弾に切り替えて発射。
敵機は余裕を持って躱す。 二機落として勝ちを確信したのだろう。 動きに余裕が見える。
――舐めやがって。
ふわわも似た感想を得たのだろう。 挙動がやや前のめりだ。
噛みついて止めた剣を吐き捨て小太刀と液体金属が充填された柄を抜いて同程度の長さのブレードを形成。 正面から斬りかかりに行った。
敵機は引き寄せた短剣に切り替えて正面から迎え撃つ構えだ。
さっきまで逃げ回ってたのが嘘のような強気の姿勢が神経を逆なでする。
ふわわは苛立っているのだろうが、剣の精度自体は変わらないのは凄まじい。
斬撃、刺突、蹴りを織り交ぜた戦い方は目で追うのも難しい物で、これでソルジャータイプなのが信じられないレベルだった。 対する敵機はそれ以上の動きでふわわに正面からの斬り合いに応じる。
斬撃をいなし、刺突を逸らし、蹴りを膝で弾くどころか先に足を出して逆に蹴り飛ばす。
離れた所でカバーに入ろうとしたが――
「悪いんやけど任せて貰ってもええかな?」
「……好きにしろ」
平坦な声だったが、有無を言わせない迫力があった。
気持ちは分からなくもなかった事もあってユウヤは素直に従う。
どちらにせよユウヤとふわわは連携面での相性は余り良くない。
ここは任せて相手の挙動を見極めるべきか。
そういった意味でもここは頷く場面だった。
視線の先では凄まじい攻防が繰り広げられており、状況的には敵機がやや優勢といった所だろうか。
技量面ではふわわの方がやや上に見えるが、反応、性能は敵機の方が上だ。
――後は武器の差か。
ふわわの使っている刀剣はかなり質の良い物なのだが、敵機のは特注品だ。
打ち合えば不利なのは火を見るより明らかだった。 加えて残りの液体金属刃は――考えている間に砕け散る。
動揺したかに見えたが、最初から織り込み済みだったようで振った動きのまま手の力を抜いて柄を投げた。 すっぽ抜けたようにも見える動きだが、柄から僅かに突き出た刃が真っすぐに飛ぶが、敵機は首を傾けるだけで躱す。
ふわわにとってはその隙が欲しかったらしい。 ナインヘッド・ドラゴンを一閃。
転移した刃が敵機を包囲するように出現し――
誤字報告いつもありがとうございます。
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