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――どうしてこうなったんだろう?
タヂカラオにはさっぱり分からなかった。
本来なら部隊を二つに割って近くの拠点二つを偵察。
その種類によって対応を決め、生産拠点であるなら陥落させた後に橋頭堡とし、通信拠点であったなら様子見。 直通の拠点であったなら入念に準備を行ってからじっくりと攻略に入る。
今回に関しては時間をかけて攻略する予定だったのだ。
理由はいくつかあるが、最も大きなものは傭兵として連れて来た者達への報酬を捻出する為。
クリア報酬とは別に撃破したエネミーによって追加報酬があるので、いきなり本丸には攻め込まずにいくつかの拠点を陥落させてからとなっていた。
切り上げの目安は戦力の損耗率で二割から三割落ちた段階で決めに行く、それまでにどれだけ稼げるかの皮算用まで行っていたのだが――蓋を開ければどうだ?
初手でオペレーターの襲撃に遭い、大量のエネミーを嗾けられ、ミサイルの雨で頭を押さえられる。
――何なんだこれは?
浮かぶのはそんな疑問。 タヂカラオは今日のこのイベントを楽しみにしていたのだ。
ヨシナリ達と組んで大規模なミッションに挑む。 人数は規定以下の高い難易度。
作戦立案を任されたタヂカラオは腕の見せ所と張り切っていた。
前回が想定外の結果に終わった事もあって今回はある程度のイレギュラーを織り込んでの内容で、彼なりにリカバリが利くように入念に調整をかけ、ヴルトム達ともこまめに連絡を取り合って資料も送ったのだ。
予定通りにクリアし、今回の参加者全員にちょっといい所を見せてやりたかった。
タヂカラオというプレイヤーは自分の事をそれなり以上に忍耐強く、それなり以上に冷静な人間だと自己評価していたが、そうでもなかったようだ。
入念に立てたプランを開始数秒で台無しにされるのは思った以上に神経を苛んでおり、有り体に言えばキレかけていた。 それにより冷静な思考が難しくなっていたのだ。
考える事は全体の流れではなく、どうやってあの悪魔型の特殊機体を血祭りに上げられるかだった。
現在、場はかなり荒れている。
そんな中、悪魔型は生じた混乱を上手に活かしていると言えるだろう。
巨大な肉の柱から湧いて来る敵性トルーパー。 遠くから徐々に集まって来るエネミー。
敵の目的は包囲殲滅のように見えるが、実際は真逆だろう。
あの敵は戦闘を楽しむより、勝利を味わいたいタイプだ。
何故なら自身の実力に絶対的な自信を持っているが故に過程は問題ないと思っている節がある。
つまり勝利は前提なのだ。 自分がプレイヤーに負ける訳がない。
そんな驕りが見え隠れしている。 系統は違うがタカミムスビと似た空気を感じた。
ならこの状況を作り味方を呼び寄せたという事は負けるかもしれないと思っている証左。
ヨシナリの懸念している強化装備の使用はなくはないが、可能性として低い。
――あの敵の性能はあれで打ち止め。 切り札の類はない、もしくは使えない。
結論、殺せる。
タヂカラオは自分でも驚くほどに苛ついている自覚はあったがこればかりはどうにもならなかった。
それをどうにか抑え込み、獲物を狙う獣のように視界の端で敵機の事を観察し続ける。
――自分の手で仕留める為に。
「うはは、こりゃすげぇ」
マルメルは思わず笑いながらそんな声を漏らす。
天を突く巨大な肉の柱から次々と生えて来る敵機体。
ファンタジーだったら悪魔なのだろうが、現れるのはメカニカルなデザインのトルーパーだ。
何ともシュールといった印象が強い。
次々とその数を増やし、徐々に制空権を奪い取ろうとしているのを黙って見ている訳には行かないので柱を狙いつつリトル・クロコダイルで敵機を処理していく。
視線の先ではアリスが次々とレーザーで敵機を焼き払っている姿が見えた。
この環境下では光学兵器はかなり減衰するにも関わらず効果を発揮しているのは有効射程まで近寄っているからだろう。
ただ、敵の数が増えている点から、溜めの大きな武装は使えないと判断して途中で銃身を切り離し、手数を増やしていた。 自分も負けていられないと思っているのだが、それ以上に敵の核を自分で処理したい気持ちがあったが――
「遠いんだよなぁ……」
300メートル地点。 今のアウグストでは行ける高度ではない。
ハンドレールキャノンでも当てるのは難しい距離だ。
せめて目視できれば――いや、難しいかと内心で首を捻る。
――狙うんならあっちか?
肉の柱がぼんやりと発光しているお陰で周囲の様子が見えるようになっており、空中で火花を散らす複数の機体。 例の悪魔型の機体とそれを追いかけるベリアル達。
敵機は器用に間に他の機体を挟む事で攻撃を挟みながら足りない手数を補っていた。
カカラとアドルファスも仕掛けようとしていたが、距離を取っているのが良くなかったのか敵機に狙われてそちらの処理に追われている。 振り返るとバラバラとミサイルや砲弾が飛んできていた。
基地の攻略に行っていたメンバーが戻って来たのだ。
それにより敵機があちこちに広がり完全に乱戦状態となっていた。
全方位に対しての警戒が必要になった事もあって忙しい。
こんな時、師匠はどう捌いてるのかなと視線をやると――
――やっぱり上手いな。
自分を狙っている機体を即座にキャッチして先制射撃。
近い位置にいる機体は当てに行き、半端な距離は牽制射で躱させた後、当て易い位置に動かす。
乱戦状態を意識して銃身を外してレーザーではなく、エネルギー式の機関銃として使っている。
ホバーを器用に使って地面を滑るように移動して躱すテクニックは真似たいと思って練習はしているのだが、意識しすぎるとエイムが安定しない事もあってまだまだ修行が必要だった。
手が止まっていると怒られそうだったので、マルメルはざっと空を見てどう援護するかを判断。
アリスが手を出し辛い位置――真上や、死角になりそうな位置にいる機体を意識して狙う。
リトル・クロコダイルは攻撃範囲が広い事もあって雑にばら撒いても当たる非常に優秀な武器だ。
――攻撃範囲が広すぎるから誤射には気を付けないとだめだけどな。
今の所、柱に近い味方機の数が少ない事もあって割と自由に撃てるがそろそろ気を付けないと不味そうだった。
「そろそろリトル・クロコダイルは止めときなさい」
「うっす」
似たような事を考えていたのかアリスから注意が入るが、その頃にはもうアノマリーに持ち変えていた。 それを見て少し感心したような息を漏らす。
「へぇ、分かってきてるじゃない」
「そりゃぁもう、師匠に散々叩きこまれたので」
「言ってなさいな」
アリスが付いて来いと言わんばかりに加速したのを見て、マルメルは小さく笑ってその背を追いかけた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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