私だった我は
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我は、真実驚いていた。魔族とは独立独歩の種。強さを尊び、番ですら力で手に入れる。強きものを求め、強きものの子を残し続ける。それこそが人間よりも優れた部分だと、そう思ってきた。
しかし……目の前の少女は、他者との深い友情を築いたというのか。誰かを護るために戦うことを、自分で見出したというのか。しかも、勇者とともに手を取り合ってきたと。
利他的行動こそが人間が持つ力の中で最も尊く、そして魔族には持ち得ないものだと思っていた。
……我が望んだものを、こんな小娘が。
「……魔王様、教えて下さい」
「……なんだ」
「図書館を燃やしたのは誰ですか。あれは魔族にとっても宝だったはずです」
しかも、あれら書物の価値にも気付いているだと……?なんと聡い娘だ。とても並の魔族とは思えぬ。これも勇者とともに旅をした影響なのだろうか。
……勇者との旅、か。つまり勇者は、全てを失ってから初めて真の仲間を得ていたのだな。全く、何という皮肉だろうか。今ここにあやつがおれば、腹底から笑ってやったものを。
「燃やしたのは、元々この王都に住んでいた貴族どもだ。我々に書物の知識を与えまいとし、降伏したのと同時に王都中の本を集め、放火したのだ。我らが王都に乗り込んだときには、既にあの有様だった」
「……そうですか」
白い小娘は特に驚いた様子もなく首肯した。その瞳には理解の色と、深い悲哀が浮かんでいる。自らにとっての宝というだけではなく、共通の財産を失ったことに対して痛みを感じているのか。
……あまりに似ている。かつて私が求めた姿に。
「哀れなお前にも、勇者たちの封印を解く方法を教えてやろう。……我を倒し、新たな魔王となることだ」
「魔王様を……倒す?」
「魔王の封印を解くのに、勇者が倒す必要はない。例えば、お前のような小娘が私を倒し、封印の力を継承すれば良いのだ。そうすれば貴様は、好きな時に好きな者を封印し、また解放することができるようになる」
我はこんな小娘にそれを説明して、一体何を期待しているのだ。まるでこれでは、我を殺せと言っているようではないか。
「でも、それは……」
「先程、お前はなぜ勇者が再封印されることを選んだのか理解できなかったな?その答えは簡単だ。お前が、我よりも、弱いからだ」
「私が……弱いから!?」
小娘の目に敵意が宿った。何故だ、何故私は、小娘の敵意に喜んでいるのだ。何故、勇者を使ってこうも煽る。
「そうだ。お前では力不足で我を倒せぬから、奴はお前と共に生きる道を諦めて再封印されたのだ。あやつは満足して封印されたことだし、きっと今度こそ封印が緩むことは無かろうよ」
小娘の両手に魔力が籠もり、側近たちが自分の身を護るために身構えた。我に似た膨大で、濃密な魔力。なるほど、こやつもそうか。
「……私は悪くない!エリアスを封印したのは魔王様じゃないか!そうだよ!魔王様さえ……!魔王様さえ!!」
そして小娘の得意魔法なのだろう。風属性を纏った破壊魔法を放ってきた。真空乱舞に近いが、規模と威力が段違いだ。
我はそれに同じ量の魔力で風魔法をぶつけて相殺する。あまりの威力で側近の一部が城外に吹き飛ばされ、私のフードがはだけた。
「………っ!?えっ!?ま、魔王様……そのお姿は!?」
この白い髪と肌、そして赤い瞳を晒したのは、いつぶりだろう。
「そう……我もお前と同じアルビノの雌だよ、小娘。誇るがいい。我のフードを剥いだのは、勇者を除けばお前だけだ」
我はそう言い切ると同時に、ただ空気を圧縮しただけの塊を小娘にぶつけ、壁に叩きつけた。背中を強打した小娘は一瞬呼吸が止まるほど苦しいなのに、我を睨みつけることをやめようとしない。その衝撃で、両角が根本から砕き折れた。
魔族を象徴するものを2つも失ったにも関わらず、その目には強い敵意と決意で燃えたまま、自分可愛さから出る涙は一滴も見られない。その力強い姿に非常に強い苛立ちと、同じ量の羨望を抱いた。
…………ああ、そうか。そうだったのか。我は、この小娘に嫉妬したのか。
「アルビノの魔族は体質的に強大な魔力をその身に秘めておるのだ。だから他の魔族も本能的に我らを恐れ、虐げ、遠ざけようとする。だが……同じアルビノであろうと、今の未熟なおぬしでは、我には逆立ちしても勝てはせぬ。我が憎かろうなぁ?小娘。己の非力さが口惜しかろう?」
「うる……さい……っ!アルビノとか……魔王の力とか……っ!そんなの、どうでも、いい!私は、ハンナだ!勇者エリアスの、一番のトモダチだ!勇者の、トモダチが、魔王に負けるなんて、できない!!私はエリアスを解放するんだ!!エリアスも、エリアスの家族も!全部の人間を解放して、ずっとトモダチと一緒に生きるんだ!!」
『ひっく……!ぐすっ……!どうして……!私だって……!私だって、好きでこんな色になったわけじゃないもん……!私だって青い肌がよかったもん……!皆、どうして私をいじめるの……!!』
ああ……なんと気高く、なんと誇り高く……美しいのだ。我が小娘ほどの年の頃は、まだ泣きながら己の無力さを嘆いていたはずだ。どうしてこの強さを、この年頃で得られたのだろう。
「強くなってこい。弱き小娘よ」
「……っ!?」
「我を倒せるようになるまで強くなり、魔王となれ。そうすれば望むものは全て手に入る。お前の愛しい男も、男にとって大事なものも、全てがだ」
なあ、勇者エリアスよ。我もこの小娘のような強さを持てていたならば……我はお前の番になることが、出来たのだろうか。
「……わかりました」
翼も角も失った小娘は、失意とは無縁の強い瞳で我を睨み返した。傷付き、ボロボロになりながらも、その姿は美しかった。
「私、強くなります。この世界を巡って、体も魔法も鍛えて、魔王様よりもずっと強くなります。だから……魔王様も、それまで誰にも負けないでください」
「いらぬ心配だ、弱きアルビノよ。さあ、もう話は終わりだ。負け犬らしく城を去るがいい」
小娘は悔しそうに口元を引き結ぶと、足を引きずりながら謁見の間を去っていった。強化魔法込みとはいえ、あれなら二度と歩けなくなることもあるまい。
後に残されたのは我と、数名の側近、そして小娘の魔法によって穿たれた壁の穴だけだ。
「よいかッ!我の許可なしに、あのアルビノの小娘を害することは絶対に許さんッ!もしあやつの旅先で魔族の手に掛かったときは、貴様らの命令遂行能力が側近に満たぬものとし、相応の処置が下るものと覚悟せよッ!!」
小娘には見せなかった威圧を全開にし、側近共にぶつける。震え上がり、青い肌をさらに青くした側近共は、聞くが早いか全力で飛び立ち、世界中の魔族へアルビノに対する攻撃を禁じるよう伝達を始めた。どのアルビノがハンナなのかを判別することなど、知恵のない魔族には不可能だろうからな。
「さあ……いつか強くなった姿を私に見せてよ、ハンナ」
ついに一人だけになった謁見の間で、素顔の私が笑っていた。
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