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せめて、笑顔で

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 もう、脚が言うことを聞かない。身体強化の魔法を使っても歩くのが限界だった。もしかしたら、全部終わった後は反動で歩けなくなるかもしれない。それでも、私は魔王城へ行くことをやめたりはしない。そこに一番大事なトモダチがいるのだから。


「待て!そこの白い羽なし!この先は謁見の間だ!お前のような薄汚れたやつが入っていい場所ではない!」


 仕事熱心な魔族だ。魔王様に命令されてるだけだろうけどね。


「……どいて。中に、トモダチが、いるの」


「トモダチとはなんだ?今中にいるのは魔王様とその側近、そして悪しき勇者のみだ」


 悪しき……勇者……?


 ははっ……そりゃ、大変だ……。


 でもね……。


「そんなの……関係ない……!エリアスが悪い人な訳がない!」


「なんだ、こいつ!?こ、この膨大な魔力は、まるで魔王様の……!?」


「そこをどけ!私は絶対エリアスを護るんだっ!!」


 私はボロボロの体を酷使して、暴風の魔法で周囲の魔族と、謁見の間に繋がる扉を吹き飛ばした。そして、吹き飛ばした先で見たのは……驚いた顔の側近たちと、顔が見えない魔王様と。


「エリアスっ!」


「ハ、ハンナ!?」


 ああ、やっと会えた……!大好きな、私のトモダチ……!


 気が抜けた私は膝から落ちそうになったけど、魔王様の前からすごい疾さで駆けつけてくれたエリアスが、受け止めてくれた。やっぱり、大きくなっても、エリアスの手は温かいんだね。


「駄目じゃないかハンナ!君は重傷なんだぞ!?まだ寝てなくちゃ!」


「えへへ……言ったでしょ、駄目な、魔族だって」


「こ、こんなボロボロのまま、歩いてきたのか!?膝も怪我してるじゃないか!!」


「ううん、もう飛べないから走ってきたんだよ。どう、早かったでしょ?だから言ったんだよ、身体強化の魔法を使えば――」


「馬鹿!!」


 エリアスの腕の中にすっぽりと入った私は、すごく強い力で抱きしめられた。エリアスは震えてた。まるで、私が今すぐに壊れちゃうんじゃないかって、怖がってるみたいに。


「ハンナ……ハンナ!君の目が覚めて良かった!もう目覚めないんじゃないかって、本当に怖かったんだ!無事で良かった……本当に、良かった……ハンナ!」


「うん。私も会いたかったよ、エリアス。だって、大事なトモダチだもん……ね?」


「……ああ!君は僕の一番大切な友達だ!」


 そしてこれからも、ずっと一緒にいようね。絶対に、ずっと。






「良かったではないか、別れの挨拶ができて」


 エリアスの背中から、魔王様の声がした。


「これで心残りなく、再封印されることができるな、勇者よ」


「…………え?」


 …………再……封印……?


「……ああ。もう、思い残すことはない」


 何を……言って……。


「さあ、俺を再封印してくれ、魔王。そして、ハンナの身の安全を保証してくれ……よろしく頼む」




 --------

「どう……して……」


「ハンナ。俺はもう、全部思い出したんだ。世界のために戦ったことも、世界のために戦えなくなったことも……全部だ。だけど……同時に思い出したんだ。俺が、たくさんの魔族たちを手にかけたことも」


「……嫌だよ」


「俺が勇者だってことを知ってる人はいっぱいいる。恨んでる人も。そんなやつがそばにいたら、ハンナまで危険な目に合う。だから……行かなきゃ」


「嫌だよ!!」


 私は無我夢中で抱き着いた。絶対に行かせない……行かせたくない!


「ずっとトモダチって言ったよね!?オウトでもずっと一緒にいようって!!危ないからなんだって言うの!?私が、私が全部守ってあげるから!!私が守るからぁ!!」


「ハンナ……ごめん。もう、決めたんだ。……魔王、やってくれ」


 魔王様は無言で手をひらりと動かすと、エリアスの大きな体がどんどん透けていった。消える……消えてく……!?


「嫌だぁ!!行かないで!!私を一人にしないでよ!!どうして私と一緒にいてくれないの!?トモダチじゃなかったの!?私のことが嫌いになったの!?」


「違うっ!僕がハンナを嫌いになるわけないだろっ!これは君を守るためなんだ!」


「わかんないよエリアス!!私が守るって言ってるじゃないか!!それが無理ならどこまでも逃げようよ!!魔族からも、魔王様からも!!」


「駄目だ、ハンナ!……僕とずっと一緒にいたら、君が世界の敵になる。誰からも愛されない日々を生きるなんて、そんな寂しいこと、させられない。君には幸せになってほしいんだよ」


「エリアスがいればいいの!!エリアスだけがいればいいのに!!この……分からず屋ぁ!!」


 遂にエリアスの顔がほとんど見えなくなる。私はエリアスの瞳を目に焼き付けるように見据えながら、決意した。


「……もういい!!だったら、待ってる!!またエリアスが起きる時まで、ずっと待ってる!!それまで幸せになんて、なってあげない!!不幸な女のままでいてやるんだから!!」


 お別れなんてしたくない。


 けれどお別れするしないのなら、泣いちゃいけない。


「ハンナ!?」


「私を置いてくからだよ!!魔族は人間よりも長生きなんだ!!」


 泣くのは次に会うときにとっておきたいから。


「ずっとずっと待ってるから!だから!!」




 だから。


 お別れはせめて、笑顔で。




「……おやすみなさい、エリアス!絶対に、また、会おうね……!」


「……うん……!おやすみ……ハンナ……!俺、君のことをずっと――」


 彼のきれいな瞳が大きく揺れたのとほぼ同時に、彼の姿は完全に消えて、見えなくなった。




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