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2-25.鍵

ご、ごめんなさい…。

昨日急遽バイトが夜勤に変更されて、夜執筆投稿できなかったです。


気まぐれトーカしますっ!

時は少し遡る。



訓練場は講堂会館を通り過ぎた先にあるのでアレクとアイリス、ランバート、アクアリアの四名は訓練場グランドを目指し歩いていた。


「うはははは!俺の剣の腕は一流なんだぜっ!」

「へーそうなんだー。 その伸びた鼻っ柱叩き折ってやるよ!」

「ははははは! やってみろぉアレク! こっちこそ叩き折ってやるわ!」

「望むところだ!」

「へー 私も一緒に戦ってみたいんですけどいいですか!」

「あ、いえ… アクアリサ殿下とは…」

「そんなこと言わずに! 是非ともその自慢の腕を見せてくださいね!」

「「(オワッタ…)」」


アクアリア王女殿下は意地悪そうな笑みを浮かべ、ランバートがこの世の絶望のような表情をしている。



「ん……?」


そんな会話が飛び交う中、アレクが突然講堂の方を見ながら顎触って考え始めた。


「どうしたんですか?」


アイリスがそれに気づき問い掛ける。


「あ、いや… ちょっと模擬戦前に用でも足していこうかな思ってな」


「じゃ私たち、先に模擬戦グラウンド行ってますね!」


「てめぇアレク!早く来てくれよ!」


「……」


「あぁ… それじゃ!俺ちょっといってくるわ! 先行っててくれ!」


アレクが講堂会館の方に向かって走り去っていった。

その後姿を見ながらアクアリア王女殿下が何か思いふけった表情をしている。



「アクアリア殿下 どうかなされましたか?」

「…あ、いえ。 ちょっと明日の研究説明会のことを考えてただけですよ!」

「研究会ですか… どんな研究会があるんでしょうかね…」

「俺はもう入る研究会決めてるぜ!」

「「え…っ!?」」

「俺は『肉体言語研究会』に入るんだ! 入ってさらに剣の腕を磨くんだぜ!」

「「あ… が、頑張ってくださいね…」」


ランバートが凄く良い笑顔で「どうだ!カッコイイだろ!」と表情で語っている。

それを見て、アイリスとアクアリアが引き気味にランバートに返事を返す。


「と、とりあえずグラウンド行きましょう!」

「そ、そうですね! 早く行きましょう!」


アクアリア王女がいち早く回復し、急いで話題を変えアイリスが便乗する。


「それもそうですね!さぁ行きましょう!」


二人は訓練場へと歩いて行った。




(……あのクセ…まるでコウくんみたいだった…)



そんなことはありえないよね、と思いながらも用足しに走り去っていったアレクの後ろ姿を見る。



「アクアリア王女殿下どうかなされましたか?」


「あ、いえ… それと敬語じゃなくていいですよ!ここでは身分は関係ないのだから!」


「いや…それは不敬に当たるので…」


「私がいい!って言っているので大丈夫ですよ!」


三人はしゃべりながら、再び訓練場へと向かって歩き始めた。




◇◇◇




「…ならお前らも辞めろ! お前らみたいな『弱い者いじめしか出来ないようなチンピラしかこの学園には居ないのか?』って噂が立ったら俺たちの評判まで下がってしまうだろ?」



時は戻る。


アレクは講堂会館の裏で何やら害意ある氣を感知したのだ。その現場に行くと、まさに泥まみれで倒れていた黒髪の青年が起き上がり、罵倒を浴びせてきた蒼色の髪をした男に殴りかかろうとしていた。しかし、その拳は腰が入っておらず、それに遅い。避けられて当たり前の拳を蒼色髪の男が避けてカウンターを黒髪の青年に叩き込み再び地面に倒れ込んだ。


どうしてこうなっているのか理解が出来なかったので、少し様子見をしようと思いアレクは隠れてやり取りを聞いてたのである。


そして確信した。


これはただの一方的暴力(いじめ)だ、と。

それも喧嘩には関係ない彼の身内まで罵倒している。


それに怒ったアレクが声をかけたのだ。




「あぁ? てめぇ何様だよ」


蒼色の髪をした男が突然煽られたことに腹を立てて現れた白髪の青年に言い返す。



「お前こそ何の権限があって、ここでこんないじめ(こと)をしているんだ?」


「はぁ? 無能を甚振って(いたぶって)何が悪いだ」


「そうだぜ!コイツは今年()()()()()()()()なんだよ!」

「俺たちBクラスの生徒には()()()()()()()()()んだよ!」

「それを逆らってきたコイツが悪いんだぜ?」


ただやりたいから、そんなくだらない理由でやっているだけだろ。



「それが赦されるとも…?」


「あぁ赦されるさ!それが実力至上主義の学園(この学園)なんだからな!」


「無能に何をしようが赦されんだよ!」

「そーだそーだ!無能は逆らっちゃいけないルールなんだぜ!」

「Dクラスの、それも最下位の無能をいじめて何が悪い?」



「へー… その理屈が通るなら俺がお前らを()()()()()()()()()()()()んだよな?」


指の骨をポキポキ鳴らしながら威嚇する。


「あ、てめぇ舐めてんのか!」

「そーだ!俺たち四人に勝てると思ってんのか!」

「ここにいるお方を誰だか知ったうえで言ってやがるのか!」


取り巻きどもが何かわめているが無視だ。

しかし取り巻きが喚きだしたことで、蒼色の髪をした男が顎をクイっとあげドヤ顔をしてくる。

…マジでボコってやろうか?


「聞いて驚け!このお方はBクラスのトップであるサザーン様だぞ!」

「次期侯爵家当主様だぞ!」

「闘級2,000越えの序列41位の超超エリート様なんだぞ!」


は?それっぽっちの闘級でイキがるなよ。


「まぁまぁお前ら… そう威嚇してやるな! 私が誰だが解らなかったんだろ?」


蒼色の髪をした男がアレクの前まで歩いてきて、馴れ馴れしく肩をぽんぽんと叩いてくる。

…馴れ馴れしく触ってくるなよ。ボコるぞ?



「貴様も今までの無礼を詫びれは赦してやるぞ?」


「そーだ!さっさと謝ったほうが得だぞ!」

「土下座しろ!さもないとこの無能のようにボコるぞ?」

「おいおい!チビって声でないんじゃないか!」

「「「アハハハハハっ‼」」」


さすがにカチーンときたので、そろそろ黙らせるか。



「Bクラス如きがS()()()()()()()()をボコる? 是非ともやって見せてほしいな…」


「「「「…っ!?」」」」


一斉に視線がアレクの胸元に集まる。

この学園の生徒は自分の身分である『序列とクラス』のバッジを胸ポケットに付けること義務付けされている。当然、このアレクにも、目の前の青年たちの胸にバッジがある。


蒼色髪の青年の胸元のバッジには青色の『B41』と書かれたバッジが、その後ろの金魚のフン(取り巻き)たちにもそれぞれ『B51』『B53』『B68』と彫られた青色のバッジが輝いてる。


ちなみにバッジの色でどのクラスか判断される。


序列1位から10位のSクラス(特待生クラス)所属の『金色バッジ』

序列11位から40位がAクラス(優等生クラス)所属の『赤色バッジ』

序列41位から70位までがBクラス(秀才者クラス)所属の『青色バッジ』

序列71位から100位までがCクラス所属(平凡者クラス)の『緑色バッジ』

序列101位から最下位130位までがDクラス(補欠者クラス)所属の『紫バッジ』


バッジによって強さが異なるのだ。

Sクラスは桁違いの強さを誇る連中のクラスだ。王族や四大公爵家の超エリートたちしか入れない特別なクラスである。まさに雲の上の存在だ。Aクラスに入れれば十分優秀と言えるだろう。その下であるBクラスでも十分すぎるクラスだ。


目の前の青年たちの胸元バッジの色は『青』

Bクラスのバッジ色だ。

確かにかなり優秀な部類に入る奴らなんだろうが、俺には勝てない。


当然ながらアレクは序列七位のSクラス所属の生徒だ。

当然胸元のバッジの色は…


「き、金色バッジ…っ‼」

「や、やべ… Sクラスだ‼」

「ど、ど、どどどどどうしよう…っ‼」


取り巻き共は俺の胸元のバッジを見て完全に怖気ついてしまった。

しかし蒼色髪をした青年は少し気落とされたが、すぐに強気な姿勢に戻った。


「ふ、ふんっ!それがどうした! 『強い者ほど偉い』と定めているのは学園だぞ! つまり…私たちが自分たちより下位クラスであるこの無能を虐めることは即ち、学園容認であるっていうことだ! 何を恐れる必要がある! 学園のルールに逆らっているのは貴様だ!」


「…確かに学園では『強い者ほど偉い』と定めているな」


「そうだろう!なら私がこの無能をどう扱おうが貴様には関係ないはずだ!」


蒼色髪のした青年… いやサザーンは自分が正義とばかりに口を開く。


「でもな。俺たちSクラスにはお前らと違って()()()()が定められているんだよ」


「な、なにを定められているんだ!」


「Sクラスの生徒は全ての生徒の

〝『模範』であらなくてはならない〟

〝『象徴』であらなくてはならない〟

〝誰よりも『強者』でなくてはならない〟

と定められているんだよ」


「そ、それがなんなんだよっ‼」


「つまり… この学園では『強き者ほど偉い』だろ。で最も強き者が集うSクラスの生徒は『すべての生徒の模範』でなければならないと定められている」


「だ、だからっ‼ それがなんなんだよっ‼」


「俺の行いすべてがこの学園では()だと言っているんだよ。俺が『弱い者いじめをするな』と言えばそれが()()()される。俺が『下位クラスの者を見くびることを禁ず』と言えばそれが新しい校則(ルール)となる… 言いたいことはわかるよな?」


この学園では『強い者ほど偉い』と定めている。

それに加えSクラスは『すべての生徒の模範でなければならない』と定められている。

即ち俺の行い全てが容認され、新しい模範生の形であり、新しいルールであり、象徴の姿だ。


「……っ‼」


蒼色髪の青年はそのことにようやく気付いたようで、苦虫を噛み潰したような表情をする。



「で、Bクラスのサザーンくんだったっけ? 俺に何か()()()()()?」


「…っ‼ い、いえ…ありません…」


「そういえばお前らも… 俺のことボコるとか言ってたよな…? やってみろよ!百倍にして返してやっから!」


取り巻き目掛けて威圧を放ちながら煽る。元々俺のバッジだけに怖気ついていただけに、さらに威圧を当てられて完全に戦意損失してしまっていた。



「「「「す、すみませんでしたーーっ!!」」」」


その場で土下座を初めて謝り始めた。

その光景をみたサザーンが舌打ちをしながら去っていく。


「チッ… いくぞ…」


「お、おう…」

「ま、まってくれ!」

「サザーン様…」


蒼色髪の青年が取り巻きを連れて講堂裏から消え去っていった。


あいつらが完全に消えたことを確認してから、地面に倒れこんでこっちを見ている黒髪の青年の方に歩み寄る。そのまま無言で治癒魔法を掛けて顔の傷や腫れを直してやる。さぁ用事は済んだとばかりに、その場を立ち去ろうとするアレクを黒髪の青年が止める。



「ま、待ってください!」

「ん? どした?」

「ど、どうして僕を助けたんですか? ここでは『強い者ほど偉い』…。当たり前のことです!ぼ、僕を助ける必要なんてないはずです!」

「…? おかしなことを言う奴だな。 虐められている奴を助けるのがそんなにおかしなことなのか?」

「お、おかしいです!僕は序列130位の無能です!雑魚です!最下位の無能ですよ! ど、どうして助けるんですか!」

「……そんなに自分を過小評価して楽しいか?」

「え…?」


「そんなに自分(てめえ)の可能性を否定したいのかって聞いてんだよ‼」


アレクが急に怒り出した。

黒髪の青年はなぜ怒り出したのか、訳が分からなかった。



「…お前は何のために学園に入ったんだ?」

「え、えっと… それは……」

「言えないのか?」

「い、いえ… そんなことは…」

「ならはっきり声に出していってみろよ!いつまでなよなよしてんだよ!いい加減気持ちわりぃぞ!」

「う……っ‼」



自分(てめえ)の夢すら口に出せんのか? 

出すのが恥ずかしいか? 

自分の夢はそんなに小さなことなのか?」



アレクの怒号にもにた声に完全に萎縮してしまった黒髪の青年。

それを見ながらアレクが続きを話し出す。



「…自分(てめぇ)の夢すら語れない奴が、自分(てめぇ)の夢が叶うなんて思うなよ…っ‼」


「ぐっ…っ‼‼」


アレクはそのまま立ち去ろうと後ろを向いて歩き出そうとする。



「…よく………たい、…です…」


ボソボソっと聞こえたその声にアレクは後ろを振り返る。



「…なんだって?」



「……なりたい…です…」



「聞こえねーよ!」




「…つ゛よ゛く゛ な゛り゛た゛い゛ですっ‼‼」




「フッ… ようやく言えたじゃねぇかよ… カッコイイ夢じゃないか!」


その言葉に黒髪の青年は驚きを隠せなかった。

めちゃめちゃ恥ずかしかった。きっと言ったらバカにされると思ったから。僕は…弱いし…最下位の無能だし…! きっと「なれるわけないだろ!」とバカにされると思った。



けど、目の前の白髪の青年は違った。

ぼ、僕の夢を…ほ、褒めてくれた…っ‼

みんなにバカにされてきた僕の夢を…っ‼



「…そんなに泣くことか?」


目の前の少年の言われてハッと気づく。

今僕はボロボロと涙が無意識に零れ落ちていることに。



「あ、いや… 違いますっ!こ、これはその…そう!ゴミがはいったからですっ!」

「隠さなくていい。 泣きたい時には思いっきり泣け」

「えっ…?」


苦し紛れの言い訳を言ったけど、すぐに看破され言い返された。

え?泣いてもいいの…?



「これは受け売りだけどな… 男は『泣いて強くなる』んだとさ」


「…っ‼」



「自分の限界を知って嘆いて、戦いに敗れて逃げ回って、悔し涙を流してそうやって男は成長していくんだ。 自分の限界を『そこまでだと』と決めつけてしまっては成長できるもんも出来なくなる。 強い敵に挑戦して、敗北して、敗走して、逃げ回って、泣いて、考えてからまた挑む。 挑み続けることこそが男の成長だ。」



「だから泣いたっていいんだ。悔し涙を流した分だけ強くなる。自分の可能性を、限界を決めつけるなよ。 お前はようやく『()()()()()()()()()()』を手に入れたんだ。あとは鍵を開けるか、持ち腐れにするか、自分(てめえ)の心一つだ」




「強くなる覚悟が決まったら、講堂先にある訓練場に来い。俺はそこで訓練してるからよ」


そう言い残して、白髪の少年は立ち去っていった。




生まれて初めて認められた…


自分の存在を…

こんな弱い自分を…

認めてくれた…



それがすごく嬉しかった。

たったそれだけなのに…。

涙が止まらないほど、嬉しかった。



「そうか… これが僕の…『()』か…っ‼」



黒髪の青年は立ち上がり、涙を泥まみれになった制服の袖で拭う。

眼の周りが泥で汚れてしまったが、それを気にすることはなかった。



ただ強くなりたい!

ようやく僕の夢を認めてくれる人が出来たんだ!

そしてその鍵まで貰ったんだ!

それを生かすも殺すも… 



「僕の心一つだろ!」



なら強くなってやる!

僕は強くなりたいんだ!

強くなって護りたい人がいるんだ!



もう見えなくなってしまった白髪の青年の後を追いかけて青年は走り出した。

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