第1話 勝者と敗者の出会い
よろしくお願いします!
四月のある日。
季節は春を迎えるが少し肌寒い。
俺は身体を震わせながらベッドから出る。
カーテンを開けると外から鳥の囀りとサラリーマンの声が部屋中に聞こえてきた。
「……今日だよな」
そう……今日は約束の日。
あのPvPでシオリに負けた俺は現実で本当にシオリに会うことになっていたのだ。
そして今日にシオリと現実で顔を合わせる。
……なんか緊張してきた。
女性と出会うと考えると緊張してしまう。
俺がそんな事を考えていると、
コンコンと部屋のドアのノック音が響いた。
「あれ? なんでお兄が起きてるの!?」
「俺が起きてたら悪いのか……」
返事を返す間も無く妹が部屋に入ってくる。
コイツの名前は倉敷 結菜。
今年で16歳を迎え今は高校一年生だ。
「それよりなんで起きてるの?」
「人と少し会う約束をしてるんだよ」
「……お兄……風邪でも引いたの?」
「ちょ! 俺は普通だからな!?」
「だって……ニートのお兄が人と会うなんて……雪でも降ってきそうな事だよ」
そう言いながら結菜は驚いている様子。
……てか地味にニートって言ってるよな?
結菜のやつ俺はニートじゃないのに……。
「結菜……俺、ニートじゃないから」
「嘘はいいよお兄。現にお兄は学校にも行かないし、買い物にもロクに出かけない。ましてや外に出たのは先月くらいでしょ?」
「…………先週出かけたよ」
「どうせ課金なんでしょ」
何故だ……なぜ結菜にバレている!
俺は確かに外に出ない。
いや……学校が面倒くさいからとかではなく……俺は外に出るのが好きではない。言い訳に聞こえるかも知れないが、俺には俺なりの理由があって外に出ないだけなのだ。
……決してニートではないぞ?
「本当に誰かと会うの?」
「ま、まぁ……悪い人ではないと思う」
「……ゲームで知り合った人?」
「あぁ……ゲームで知り合った人だ」
……女性な事は結菜には内緒にしよう。
結菜が知ったら俺は八つ裂きにされる。
「危ない事に巻き込まれないでよ」
「わかってる」
「それと服装はちゃんとして行くこと!」
「了解です。マイシスター!」
俺は結菜に向かって敬礼をする。
「じゃ……私、行くから」
「結菜気をつけて」
「お兄も気をつけて行ってよね」
俺は玄関まで結菜を見送る。
ドンっと玄関の扉が閉じた。
家の中に俺一人が取り残される。
「さて……そろそろ俺も」
結菜が準備してくれた服に着替える。
流石はJK。ファッションセンスが凄い。
今時の男子はこんな服装を着てるんだ。
少しチャラいが結菜が準備してくれた服だ……決して間違いなどは無いだろう。
「じゃあ言ってくる」
俺は玄関のドアを開け静かに呟いた。
震える手を隠し顔を上げる。
綺麗な青空が無限に広がっていた。
***
近所の喫茶店。
シオリとの待ち合わせ場所だ。
どうやらシオリの方も俺の家と近所らしく、この喫茶店が家から近いらしい。
俺は喫茶店に入って行く。
カランカラン。
喫茶店の独特の鈴の音が鳴り響く。
俺を出迎えたのは髭の立派なマスター。
「お客様。お一人様でよろしいですか?」
「いえ……待ち合わせをしてまして……」
俺がそう告げた瞬間に、
「……貴方が……」
「……?」
マスターの視線が鋭くなった。
俺の心臓を射抜くような鋭さの視線。
このマスター……只者じゃないぞ。
元マフィアのような視線だ。
「名前をお聞きしても」
「あ、えっと倉敷 景光です」
「景光様ですか……こちらへどうぞ」
ふぅ……どうやら殺されずに済んだようだ。
しかし、なんでこのマスターはあんなに俺のことを睨んでいたんだろう。まるで変質者や犯罪者を見るかのような視線だった。
「こちらです。ごゆっくり」
マスターは俺を席まで案内し、綺麗にお辞儀をして厨房へと戻っていった。
俺はゆっくりと顔を上げる。
すると、目の前にいた少女を見て俺は呆然とその場に固まってしまう。驚いていた。俺は少女の姿を見て戦慄を感じていたのだ。
「初めましてカゲミツ」
「……き、君にシオリなのか?」
「うん。私の名前は時雨 詩織。貴方をPvPで倒したシオリ本人よ……驚いたかしら?」
驚くレベルじゃない。
まだ可愛いだけなら驚かないが……。
この少女は別だ。可愛い以前に他のものの全ての前提が間違っている気がする。
「えっとシオリ……歳は?」
「今年で12歳になるわね」
「……中学生?」
「惜しくもまだ小学六年生よ」
…………わお……ロリだよ。
小学六年生とか聞いてないんだけど!?
これって犯罪だよね? いや大丈夫なのか?
俺の身体に急に悪寒が走った。
嫌な汗が首筋や掌から溢れ出る。
「立ってないで座ったらカゲミツ?」
「あ、あぁ……」
俺は進められるがまま席に座る。
「……あの詩織」
「なに? 告白なら断るわよ」
「違うから! 俺、ロリコンじゃないから!」
「そう? 男性の半分は大体がロリコンよ」
おい……そんなに多くないだろう。
まぁ、ラノベ作家とか漫画とかの大半はロリコンだと俺も思っていることだが……。
俺はロリコンではない。
何度も言うが俺はロリコンではない。
「それよりロリミツ」
「誰がロリミツだ!」
「貴方の名前をまだ聞いてないんだけど?」
「あぁ……そう言えば知ってなかったな」
俺はゆっくりと詩織の目を見つめる。
「俺の名前は倉敷 景光だ」
「……へぇ。現実でも同じ名前なんだ」
「詩織の方こそ同じだろ……」
どうやらここだけは少し似ているらしい。
現実の名前をカタカナに直しただけなんて意外に多いかもしれない。
それにしても詩織が小学生とは……。
結菜にバレたら本当に殺されそう。
……急に罪悪感が……。
「なぁ詩織。これって犯罪じゃないよな?」
「何言ってるのよ景光」
バカなのと言いたげな詩織。
ですよね……大丈夫だよね。
よし! そうとなれば……。
「聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「なに? 好きなタイプとか?」
「どこの合コンだよ!?」
「じゃあ何よ」
「……なんで俺に会おうと思ったんだ?」
俺が一番気になっていたこと。
なぜ詩織は俺に会いたかったのか。
あんな約束までして俺に会おうなんて言ったんだ。相当な理由があるはずだ。
詩織は少し考えたように顔を顰めた。
「景光に会った理由ね……」
詩織は真っ直ぐ俺を向いて、
「何となくかな」
「へっ?」
「だから何となくって言ってるでしょ」
なんとなくって……ふぁぁぁぁぁ!?
詩織は俺になんとなく会ったのか?
いやいやいや……。
「ほ、本当に何となくなのか?」
「何となくよ」
「……そ、そうでしたか」
詩織が嘘を言っているようにも見えない。
本当に詩織は何となく俺に会ったらしい。先程の俺の気持ちを少しだけ返してくれ。
……恥ずかしい。
「景光……ちょっといい?」
「なんだ改まって?」
「貴方に頼みたいことがあるの」
詩織は先程よりも真剣な表情を見せた。
俺は詩織の言葉に耳を傾ける。
「景光……私とこれからパーティーを組んでくれないかしら」
「……パーティー?」
「私が強くなるまでいいから……」
パーティーね……。
俺は《E M O》でパーティーを組む事に少しだけ抵抗がある。何と言っても俺はこの2年間……誰ともパーティーを組んでない。パーティーを組む相手がいない訳でなく、俺が単に他の人とパーティーを組むのが嫌だった。
「本当に俺とパーティーを組みたいのか?」
「うん。私は景光がいい」
「じゃあ条件がある」
詩織は緊張したように手を組んでいた。
「俺を独りにしないと誓えるか?」
「……独りに?」
「あぁ。何も言わずに俺の前から消えたりしないと誓えるか?」
コレは俺が決めた勝手な条件だ。
飲めないのならパーティーを俺は組まない。
その位に俺の意思は固かった。
「……わかった。その誓い……必ず守る」
「いいのか?」
「当たり前でしょ。私を誰と思ってるのよ」
詩織は少し照れたように強気で叫んだ。
俺の頬が少しだけ緩むのを感じた。
詩織なら俺の前から消えないと……そう実感出来た気がしたからだ。もう、誰も失いたくない。俺の前から人が消えるのは嫌だ。
「なら、コレからよろしくね景光!」
「俺の方こそよろしくな……詩織」
俺と詩織はゆっくりと手を交わした。
少し定期考査がある影響で少しだけ投稿が遅くなるかも知れません。




