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終わりと始まりのプロローグ

よろしくお願いします!


 エンゲージメモリー・オンライン。

 通称《EMO》。最近では数々のVRゲームが発表、販売されているが昔からあるVRMMORPGこそ《EMO》だ。

 《EMO》ではプレイヤーは現実の性別と同じキャラクターを動かしてプレイする。レベルと言った概念は無く、代わりにスキルや自身の身体能力の高さがゲームに影響する。

 そして俺も《EMO》のプレイヤーの一人だ。


 俺の名前は倉敷 景光……17歳。

 プレイヤーネームはカゲミツ。

 三年前のサービス当初からプレイしている。

 この《EMO》ではある意味で有名だった。


「……また無断で動画がアップしてるよ」


 俺は無断で投稿された動画を又しても見つけていた。どうやら俺がPvPをしている時だ。

 PvPとはプレイヤーとプレイヤー同士が互いに戦い合うことを意味する。最近では大半のゲームにこのPvPのコンテンツが含まれる。


「えっと……コメントは……」


 俺は無断投稿された動画のコメントを見る。

 そのコメント欄には予想通りの事が書かれていた。


『やっぱりチーターだろコイツ』

『反射速度が普通の比じゃない!』

『運営もコイツのアカウント消せよな』

『機械だろ……どう見ても機械だろ』

『ホロウライト先生も頑張るね』


 と他にも色々なコメントが書いてあった。

 確かに俺の動きは速いがチートやバクを使っているわけではない。実力でこの力を発揮しているだけだが、何故か俺はチーター扱いをされる。

 ……運営からも調査されたし。

 因みにホロウライト先生は俺の異名。

 誰がそう呼び出してから名前が付いた。


「はぁ……何でこうなるだろう」


 最近は本当にチーター認定が多い。

 事あるごとに「チーターや!」と言うプレイヤーが増えている気がする。確かにチートを使うプレイヤーもいるのだろう。

 少しはチーター扱いされる人の気持ちを考えて欲しいもんだ。


「いいや……もう何も考えなくても……」


 俺はそう呟いつVR機を起動させた。

 Personal Nerveを略して『PN』

 それが今のVR機の名前である。

 この『PN』はヘッドギア型の形状から進化を遂げ、ヘッドホンのような耳の横に丸みを帯びた機会を装着して、脳波を読み取り、逆に脳に伝わる電気信号を送ることが出来る。

『PN』使用者は睡眠状態に移行する代わりに、夢のような感覚でゲームをプレイする。起きた時に記憶を忘れることなどはあり得ないし、ゲームで死んでも現実の自分自身に影響することは皆無で安全な代物だ。


「ゲームスタート!」


 俺の言葉を『PN』が読み取り、《EMO》を起動させ、俺の意識は薄っすらと消えた。


 ***


 俺が目を開けると既にそこはゲームの中。

 先程までの狭い部屋ではない。

 見渡す限りに広がる青空。

 中世を思わす石畳の道と煉瓦の家。

 俺はその中を歩いていた。


「今日は誰が相手なんだろう」


 そう呟きながら目的の場所に辿り着く。

 PvP専用エリア。

 基本的にここでしかPvPは行えない。

 街などの共通エリアでは戦闘行為が禁止されているため、他の方法だと街の外に行って正式ではいがPvPを行う事が出来る。

 このPvP専用エリアでは公式に決められたルールがあり、モンスターなどに邪魔されることもない。その為、PvPを行うかさいはここを使うプレイヤーが大半を占めている。

 俺は決められた場所で待っていると、一人の男性プレイヤーが声をかけてきた。


「あの……ホロウライト先生ですよね?」

「そうですけど?」

「……俺とPvPをしてもらえませんか?」

「いいですよ」


 俺は直ぐに目の前の男性プレイヤーにPvPの申請を申し込んだ。男性プレイヤーはその申請を許可して、システムカウントが流れる。

 戦闘開始まで30秒。

 その間に準備をしなければならない。

 このPvPのルールは他人のHPを全て削った方の勝利となる。死んだ時のデメリットはこのPvP専用エリア限定で無くなり、復活もその場で自動的に復活される親切設計。

 ……システムカウントが残り15秒を切る。

 男性プレイヤーは腰に添えていた鞘から、刀身が煌めくロングソードを取り出した。

 PvP時は装備の効果やステータスは無効になり、お互いに装備は初期装備と同じステータスになる。その為、超高レアリティの装備を着込んでいても、その装備のステータスは初期装備と同じになってしまう。

 ……プレイヤースキル。

 それがこのPvPの勝利を決める鍵となる。


 システムカウントが5秒を切った。

 ……3、2……。

 ゆっくりとシステムの声がその場に響く。

 目の前にいる男性プレイヤーは緊張なのか、固唾を飲み込む音が耳に聞こえた。

 システムカウントが1秒になる。

 その瞬間にブザー音が響いた。

 俺と男性プレイヤーの真上に「スタート!」の文字が浮かび上がりPvPが始まった。


「せぁぁぁぁぁぁっ!」


 先ず攻撃を繰り出したのは男性プレイヤー。

 俺に向かってロングソードを真上に構え、垂直に向かって剣を振り下ろす。

 それを俺はゆっくりと避けて、男性プレイヤーの背後に近づき剣を抜いた。

 俺の剣は『小竜景光』と言う名前の短刀。

 そして俺の職業は暗殺者だ。


「ハァァァァァァァッ!」


 俺は男性の背後から剣を振り下ろした。

 男性プレイヤーは俺が剣を避けた事は見えていたが、その次に俺が何処に移動しているかまでは見えなかったらしい。俺の剣が、男性プレイヤーの背後を切り裂いた。

 男性プレイヤーのHPが少し削れる。


「くそ! この野郎!」

「……っ!」


 男性プレイヤーは剣を水平に構えた。

 神々しい輝きを放つ。

 スキルを発動した時に発生するエフェクト。

 男性プレイヤーはスキルを発動していた。

 片手剣専用スキル『クルスブレイド』

 左右、上下を切る四連撃スキル。

 男性プレイヤーは俺に向かって四連撃の剣撃を放つが、俺はそれを全て避けた。


「す、全て避けただと!?」


 男性プレイヤーは当たると思っていたのか、俺が『クルスブレイド』の全ての剣撃を避けた事に反射的に驚いて言葉を漏らした。

 俺は驚いていた男性プレイヤーに容赦なく短刀を振るう。

 左から右へ短刀を切りつける。

 男性プレイヤーはそれを避けようとするが、その瞬間に俺は男性プレイヤーの頬を狙うように右足を伸ばし力強く蹴り込んだ。

 蹴りを食らった男性プレイヤーは後方へ吹き飛び、俺の追撃を食らう事になった。

 男性プレイヤーが剣を振るうと、俺はそれを避け、男性プレイヤーが剣を振った隙に空かさず短刀を振り下ろす。逆に俺が短刀を振り下ろし、男性プレイヤーがそれを避けたら、その避けた隙に蹴りや拳を加え込んだ。


「はぁはぁ……なんで当たらない」


 男性プレイヤーは未だに、俺に向かって攻撃を当てれてない。いや、俺が男性プレイヤーの攻撃を全て読んで避けているからだった。

 俺はPvPを終わらせる為にスキルを使う。

 暗殺者専用スキル『シャドウアクセル』

 使用者の敏捷力を最大まで高める代わりに、防御力を全て捨てる諸刃の剣。


「終わりだ……」


 俺の身体中を黒い靄が包み込む。

 その瞬間、雷鳴のような速さで俺は男性プレイヤーの側に駆け出した。


「……ば、バカな」

「結構、強かったよ」


 俺は男性プレイヤーの頸に短刀を振った。

 男性プレイヤーの頸から血の色をしたポリゴンが吹き出し、男性プレイヤーのHPは一瞬にして無くなり、男性プレイヤーは倒れた。

 俺が進んだ道から砂煙が舞い上がる。

 俺の真上にwinnerが表示された。


「ふぅ……」


 先ほど負けた男性プレイヤーは下を俯いたまま、俺の前から姿を消していた。

 余りにもショックだったのだろう。

 俺は再び他の対戦者を待つ。


「……誰も来ないな」


 周りに人がいないわけではない。

 PvP専用エリアには多くのプレイヤーがいるが、誰もが俺の側に近寄って来ない。先ほどのPvPを見た人は、頑なに俺にPvPを挑まず、俺の方を遠くから様子を見ている。

 俺はその場に座り込んだ。

 最近はPvPですら楽しく感じない。

 俺はこの2年間。

 ゲームを楽しいとは感じなかった。

 いや、楽しいと感じれなくなっていた。

 あの人とプレイする頃は何でも楽しく感じた。敵に倒されても楽しかった。

 だが、今では何も楽しくない。ダンジョンに行っても……モンスターを倒しても……PvPをしても俺は楽しく感じれなかった。


「はぁ……」


 嫌気がさしため息を吐いた。

 ……そんな時。

 俺の背後に気配らしきものを感じた。

 慌てて俺は後ろを振り返る。

 すると、そこには可愛らしい女性プレイヤーの姿が見えていた。瞳の色は赤色……髪の色も赤色……容姿は高校生くらいだろうか。

 美少女と言っても過言ではない。

 多分、相当レアなキャラクターなのだ。

 この《E M O》のキャラクタークリエイトはランダム作成であり、最初にログインした時にキャラの容姿は勝手に決まってしまう。

 その為、目の前にいる女性プレイヤーのキャラクターは相当なレアキャラになる。


「な、何か用ですか?」


 俺は緊張気味に声を発した。

 ……仕方ないだろ?

 女性プレイヤーと話すのは久し振りだった。


「……貴方がカゲミツ?」

「そうですけど?」

「なら……良かった」


 少女はそう言って嬉しそうに微笑んだ。


「カゲミツ」

「……はい?」

「私と勝負しなさい!」

「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 勝負……勝負ってPvPの事だよな?

 なんでこんな少女が俺に……。


「な、なんで俺なんだ?」

「貴方しかいないのよ……カゲミツ」

「PvPの事は知っているのか?」

「ルールは理解してる。単に貴方を倒せばそれで私の勝ちが決まるんでしょ?」

「……まぁ、それで合ってるよ」


 本当にこの少女は俺に挑みにきたらしい。

 多分、俺の異名も把握済みなんだろう。

 それに先ほどの戦いも見ていたと思う。

 現にPvPをやる前からワクワクしてるし。


「じゃあPvPの申請送るぞ?」

「あ、カゲミツ一ついい?」

「なんだ? チートは使ってないからな」

「それはわかってる。私は貴方に約束して欲しいの。私がこれから言う事を……」


 少女はゆっくりと深呼吸をする。


「カゲミツ。このPvPで私が勝った時は……リアル……現実で私と会ってくれない?」

「……えっ? 現実で会う?」

「うん。私が勝った時だけでいいから」


 俺は少女が冗談を言っていると思い、少女の顔を見つめた。だが、顔を見て俺は確信した。少女は嘘、偽りのない事を言っている。

 真剣に約束を頼み込んでいた。


「……本当に会いたいのか……俺に?」

「会いたい」


 即答だった。

 ……負けたらこの少女と現実で会う。

 相手が現実でどんな人か知らないが、女性という事は変わらない。だが、何歳なのかすら分からない。そんな人に俺は会えるのか?


「やっぱりダメだった?」

「いや……」


 もう仕方がないか……。

 俺は覚悟を決めて少女に静かに頷いた。


「いいよ。俺が負けたら君に会う」

「えっ! ほ、本当にいいの!?」

「あぁ……約束だ」

「うん! なら、早く始めよ!」


 俺は少女にPvPの申請を申し込んだ。

 少女はそれを素早く受託する。

 システムカウントが流れ始める。

 開始まで30秒。


「君の名前は?」

「シオリ。私の名前はシオリよ」

「シオリか……いい名前だ」

「そう言われたのは久し振りよ」


 可愛らしくシオリは微笑む。

 その笑みが……強烈に可愛らしかった。

 ……可愛い。

 いやいやいや。早まるな俺。

 相手は何歳か分からないんだぞ……。


「残り5秒か……」


 それを合図に俺とシオリは剣を抜いた。

 シオリは少し大きめのロングソード。

 俺は先程と同じ担当の『小竜景光』

 システムカウントが0秒を切った。

『スタート』の文字が浮かび上がる。

 その瞬間にシオリは俺に向かって駆け出す。

 剣を真っ直ぐに構えながら突っ込んでくる。

 シオリの剣が俺の届く瞬間、俺は身体を捻らせてシオリの真横に移動する。


「……ッ!?」


 だが、俺は後方に吹き飛ばされた。

 シオリの蹴りが飛んできたのだ。

 俺はその蹴りを間一髪のところで両手で防ぎ、反動で後方に吹き飛んでいた。


「な、なんだ今の動き……」


 完璧に俺の行動を読んでいた。

 ……やってやろうじゃねぇか!

 俺は剣を替えスキルを発動させる。

 暗殺者専用スキル『シャドウアクセル』

 俺の身体を黒い靄が包み込む。


「セァァァァッ!」


 俺は高速化したまま剣を替え駆け出す。

 シオリはその動きに圧倒され驚きを上げる。

 俺の短刀がシオリに振り下ろされた。

 ……しかしシオリに当たる事は無かった。

 代わりに鈍い金属音が鳴り響く。


「防いだ!?」

「はぁぁぁぁぁぁ!」

「……っ! 間に合わない!」


 俺の剣を防いだシオリは、俺に出来た隙を見逃さず、剣を振るった。だが、その剣は俺には当たる事はなかった。避けたのではない。俺はその剣を強制的に躱したのだ。

 暗殺者専用スキル『シャドウスケイル』

 敏捷力が高いほど敵の攻撃を躱す。

 確率ではあるが、自分が避けなくてもシステムアシストが勝手に攻撃を躱すのだ。

 そして今の俺の敏捷力は膨大。

 確率的には7割の確率で敵の攻撃を躱す。

 だが、秒数に限界があり、『シャドウスケイル』は約30秒間しか持たないのだ。

 勝負はこの30秒間に勝負を決める。


「セァァァァ!」


 俺は直ぐにシオリに向かって短刀を振るう。

 だが、シオリはそれを簡単に防いだ。

 ……あり得ない。

 今の俺の速度は目では追えないはず。

 感覚でしか頼りにならない程の速度だった。


「くそ! なんで防げる!?」


 俺は焦りを覚えながら攻撃を繰り出す。

 しかし、どれもこれもシオリに防がれる。

 逆に攻撃に一点に集中している影響で、シオリの攻撃を自分で避ける事が出来なかった。

『シャドウスケイル』のおかげで俺はシオリに剣を振るわれても当たる事はない。だが、『シャドウスケイル』の効果が切れた時……それが俺の負けを意味することになる。

 残り……15秒。

 それが俺に残された時間だった。


「セァァァァッ!」


 俺は猛攻撃を開始した。

 短刀を強烈に何度も振るった。

 しかしシオリのHPが削れる事はない。


「いい加減に当たれよな!」


 俺は短刀をシオリに構えた。

 暗殺者専用スキル『幻影斬』

 短刀で敵に斬りつけ、尚且つ短刀の影にも攻撃の当たり判定が加わる特殊スキル。

 影の刃がシオリに襲いかかる。


「セァァァァ!」

「……っ!」


 俺の攻撃をシオリは剣でガードする。

 しかし、今の俺の攻撃は『幻影斬』を使用した効果で影すら攻撃判定になる。

 シオリが剣で俺の短刀を防ぐが、短刀の影の刃がシオリに牙を突きつけHPを削った。


「セァァァァ! セァァァァ!」

「くっ……」


 俺は何度も短刀を振るった。

 シオリのHPを全て削る勢いで……。

 しかし、それでもシオリのHPはゼロにならない。『幻影斬』の本当の使い道は短刀で攻撃し、更に影の刃の追加ダメージを狙うためのスキルだ。シオリには影の刃の追加ダメージしか食らってない為、HPの減少は微々たるものでしかなかった。

 ……残り5秒か。

 俺は深呼吸をして短刀を静かに前に構える。

 既に『幻影斬』の効果は消えている。

 それでも俺はスキルを発動した。

 ーー暗殺者専用スキル『ダークネスペイン』

 俺の短刀を黒い靄が包み込む。

 そこから俺はシオリに駆け出した。


「セァァァァ!」


『ダークネスペイン』が発動する。

 短刀の12連撃がシオリを襲った。

 左右、上下……ありとあらゆる方向から俺の短刀の剣撃がシオリに向かって飛んだ。

 既に短刀の速度は現実ではあり得ない。

 ゲームだからこそ出せる速さ。

 だが、それすらもシオリは防いだ。

 鈍い金属音がその場に轟く。

 俺はそれを見て唖然した。いや……目の前の人を俺は心の中で恐れていたのだ。

 不可能。それしか言いようがない。

 俺は諦めたようにシオリを見つめた。

 その時。

 俺はシオリに起きた少しの変化に気づいた。


「……なんだ…………あの赤いオーラ」


 シオリは全身を赤いオーラで覆われていた。

 その姿は鬼神そのもの……。

 俺がシオリを見つめていると、


「終わりね……カゲミツ」

「あぁ……」


 その言葉が聞こえた時。

 俺のHPはシオリの斬撃に寄ってゼロになる。

 視界が薄暗い闇の中に消えて行った。


 ……これが俺の久しぶりの敗北だった。


不定期更新です。

週に1〜2回は更新します。

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