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6話目 魔法

「特訓よりも先に体内に魔力があるのを感じられますか?」


目を閉じて、自分の体に意識を集中させる。


「なんとなくだが、わかる」

「何て言うか、今まで感じたことのない何かが体の中を流れる感じです」


液体とも気体とも言えないよく分からないものが体を巡る。

二人は初めて魔力の存在を体で感じた。


「最初は魔力のコントロールから始めます。その流れているものを体の外に放出して下さい」

「放出って、どうやって?」

「感覚で」

「適当ですね」

「仕方ないですよ、普通は成長過程で体が覚えていくものですから」


それにしても適当すぎる。成長過程で覚えていくものだからこそきちんと説明をして欲しい。


「なら、魔力の流れを捕まえることに集中して下さい。自然と体を動かすような感覚でできます」


自分の中を流れる魔力に意識を落とす。

すると、ものの数分で変化が起こる。


「捕まえた!」


最初に声を上げたのは信仁だった。


「確かに、この感覚は説明しにくいな」

「でしょう?」


ほら見ろと言わんばかりのドヤ顔が気にくわないがスルーする。


「強《し》いて言うなら、腕を動かすときの筋肉の使い方を教えるくらい説明しにくいかもな」

「その例えはよく分かりませんが、それはさておき、咲月さんはどうでしょう」


そこそこ頑張って考えたのに軽く流されてしまった。


「……できた!」


少し遅れて咲月も目を開ける。


「おめでとうございます。それにしても飲み込みが速いですね、もっとかかると思っていましたが……」


拍手をしながらではあるが、少し驚いた顔を見せる。


「この分だと魔法もすぐに使えるようになるでしょう」


初めてにしては幸先《さいさき》のいいスタートに少し満足感を覚える。


「次は魔力放出です。流れを捕まえたのであれば簡単にできますよ」


ルシエルは手を少し広げる。

すると、ルシエルを中心に黄緑色の大小様々な大きさの光がいくつも浮かんできた。

その光はたちまち二人を取り囲み、どこまでも広がる。

まるで蛍の光のようなそれは、とても幻想的ですこし魅入ってしまう。

上を見ればプラネタリウムにでも居るかのように錯覚する。


「まぁ、こんな感じです」


ルシエルが手を叩くと、すぐに消えてしまった。


「綺麗なもんだな」


思わず感想を口にする。


「……」


しかしルシエルは今までで一番驚いた顔をしたまま固まった。


「な、なんだよ」


声をかけると「はっ」と我に返る。


「い、いえ、さっきまであんなに酷いことを言っていた信仁さんが急に褒めてくれたので、つい……」

「俺も鬼じゃない、感心したことは素直に褒める」

「これは天変地異の前触れですかね」

「ただ、怒るときは怒るからな」


少し睨みながらそう付け加える。


「それは怖いですね」

「本気で思ってないだろ……」

「あ、分かります?信仁さん、本気で怒ることはなかなかないようですから」

「何でそう言い切れる?」

「雰囲気」

「吹っ飛ばすぞ?」

「やれるものならどうぞ、私これでも神様ですから」

「魔法を覚えたらすぐにでもやってやるさ」


不敵な笑みを浮かべてお互いの目を見る。


「ぷっ、ふふふ」


淡々とどうでもいい会話を続けていると、咲月が笑い出した。


「ごめんなさい、なんだか面白くて」


今の会話の何が面白かったのか分からない信仁とルシエルは不思議そうに咲月を見る。


「なにか面白いところがありましたか?」

「だって、会って一時間くらいしか経ってないのに、もっと前からの知り合いみたいに遠慮が無いから」


言われてみれば、この二人の会話は初対面の会話ではない。

むしろ仲のいい友人と説明されれば納得できる雰囲気である。


「……」

「……」


なんだか釈然としないが、確かにそんな感覚を覚える。


「続き、するか」

「そう、ですね」


そんな2人を見て、咲月はニコニコと笑っていた。


「さっきも言ったとおり、流れを捕まえたら後は簡単です。捕まえた魔力を外に出すことを、強くイメージして下さい」


再び目を閉じ、魔力の流れを意識する。

コツはつかんだため、今度は簡単に捕まえることができた。

ここから、魔力を外に出すことに集中する。

程なくして、二人のまわりにも光の玉が浮かび上がる、が……


「できたけど、俺の少ないな……」

「やらせた私が言うのもなんですけど、この短時間でできただけ凄いと思いますよ?」

「そんなこと言ったら咲月はどうなるんだよ?」


となりを見ると、未だに目を閉じて魔力を放出している。

しかし問題はそこでは無い。


「なんだこれ、多過ぎだろ!?」


神であるルシエルのはともかく、咲月も魔力を扱うのは当然初めてだ。


「いえ、コアが六個も在《あ》ればこのくらいできますよ?ただ、咲月さんのは六個持ちの中でも優れた方のようですけど」


信仁の出た数と言えば、今にも消えてしまいそうな蛍が数匹レベル。

それに対して咲月はルシエルほどではないが、数メートル離れた信仁の近くにまで届いている。

光の輝きも信仁よりは美しく見える。


「ただでさえスポーツ以外で勝ったことないのに魔法まで……流石咲月」

「えへへ、ありがと。信仁に褒められるとやっぱ嬉しい」


咲月は花が咲いたように笑ってそう言う。

この笑顔が見られるだけで、俺も嬉しくなる。

いつまでもこの笑顔を見ていたい。

心の底からそう思った。


「ラブラブなのは分かりましたから、自然と二人の世界に入るのやめて下さい。いい加減非リアから見たらうざいです」


声のトーンが本気で言っているため、慌てて姿勢を正す。

てか、神様にも恋愛の概念あるんだ……


「ここからが本番です。待ちに待った魔法の特訓ですよ」


声のトーンを戻し、フレンドリーなルシエルに戻る。


「大切なのは放出する魔力に使う魔法の強い明確なイメージを加えることです」

「そんな簡単なことでいいのか?」

「簡単って言いますけど、想像できますか?例えば自分の人差し指から炎が出ることとか、人間には少し難しいと思いますけど」


ルシエル の言うとおりこの世界の人間でも、大人になるにつれて生活魔法を覚えていく。いきなり使えるものではない。

例外的に才能のある者はすぐに使えるようになるが、一度の挑戦でできるものではない。


「そうか?ならやってみていいか?」

「あ、それじゃあ私も」

「どうぞどうぞ、もし一回ででできたらヘソで茶を沸かして新しいお茶を注いで差し上げますよ」


ルシエルは、小馬鹿にして笑いながらそんなことを言う。

正直そんなお茶は欲しくないが、見てみるのも面白いかもと思ってしまった。

とりあえず、使ってみることにする。

さっきルシエルが口にしていた、指の先から炎が出るイメージすることにした。


「ま、結果は分かりきってますけどね。いくら魔力放出がすぐにできても魔法までは「お、出た!」「凄い水も出る!」流石に……って、はぁ!?」


信仁の人差し指の先には赤々と燃える炎が、咲月の前に突き出した手のひらからは、水芸のように透明な水が溢れ出している。


「咲月は水にしたのか」

「信仁はやっぱり炎にしたんだ」

「いやいや、さも当然のように魔法使っちゃってるんですか!?」

「この世界では魔法が使えるのが普通なんだろ?」

「だったら何の問題も無いですよね?」

「確かにそうですけど、問題はそこではなくて……」

「簡単に魔法を使ったこと、だろ?」


わざととぼけてみたが、ルシエルが驚いている理由はさっきの説明で分かっている。

ただ、使えるものは使える。それ以上でもそれ以下でもない。


「はい。なぜそうも簡単に?」

「そんなもん、単純明快。俺は普段親父がタバコを吸うから、見慣れてるライターを思い浮かべた」

「私は前に水芸をみたことがあるからそれを」

「咲月はまんまだけど、俺の場合はライターの本体を俺の指に置き換えた、って感じかな」


そう、魔法ではなく科学技術の発達した世界から来た俺達だからこそ考えられたこと。

現代の様々な機械や知識を知っている俺達は、それを活かしていろんな種類の魔法を使うことができると思う。

やっぱり魔法が使えるのは心が躍る。


「そういうものですか…………これはとんでもない逸材を喚んでしまったのかもしれませんね……」

「すまん、最後の方が小さくて聞き取れなかった」


そういうものですか、までは聞こえたが、その後に何か考え込むようにつぶやいた。


「いえ、こっちの話なので大丈夫ですよ」


ちょっと怪しいが、たいしたことなさそうなので気にしないことにした。


「しかし、こうなってくると予定が変わりますね。とりあえず基本の生活魔法がどれくらい使えるか試してみましょう」


それから、いくつかの魔法が使えるか試したが、全て問題なく使えるようだ。

基本となる魔法は火、水、風の三属性。

火魔法は料理や焚き火、暖炉などで、水魔法は洗濯や風呂、風魔法は服を乾かしたりと本当に生活で必要なものばかりだった。


「これならもう町に行くことも学校に通うこともできますね」

「待て、学校?」

「だって高校生でしょ?」


確かに受験に受かって、本来なら楽しい高校生活を送るはずだったが、状況が状況だからもう諦めていた。

例えこっちに学校があっても勉強内容がまったく違うはず。

小中学校をすっ飛ばしてついて行けるわけがない。


「それは元の世界での話だ」

「そもそも文字から違うんじゃないんですか?」

「それなら召喚された時点で、読み、書き、聞き、会話の補正がついてますよ」


今まで長々と話をしていたが、結構大事なことを黙っていやがった。


「それに、学校と言っても魔法学校ですし、この世界の子供は丁度貴方たちと同じくらいの年齢から学校に通うものです。それまでは実家の手伝いとかしてますよ。どうです?一年だけでもこちらの学校で学生ライフをエンジョイしてみませんか?」

「でもお金とかは?」

「心配ありません、解決策はあります」


こっちでの生活はサポートしてくれるはずだから、こいつが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろう。

それに、この世界での常識を学ぶならいろんな人間の集まる学校以外に最適な場所は無い。


「俺はいいけど咲月は?」

「私もいいよ」

「それなら問題ないですね。では早速ここから一番近い都市、『エスワール』までワープしましょう」

「あれ?瞬間移動って次元に負担をかけるんじゃなかった?」

信仁は最初にルシエルが現れたときのことを思い出す。

「いえ、負担をかけるのは他生物の異世界転移です」

「そうだっけ?」

「そうなんです。では……」


すると、二人の目の前からふとルシエルが姿を消す。

何が起こったのか分からずたじろぐ。

だが、すぐにことは起こった。


「行きますよ!」

「な!?後ろだと!?」

「お、なかなかいいリアクションですね」


にこやかに笑うルシエルに肩をつかまれる。

それと同時に足下に魔方陣が現れ、そこに光が浮かぶ。


「なぁ、これって……」

「また、だよね……」


初めてこの世界に来るときに見たのによく似た、いや、まったく同じあの光。

ただ、ルシエルの魔力だからかあの時とは少し違う感覚を覚える。


「ご明察!」


そう言うルシエルの顔が光に包まれるのを見ながら、エスワールに飛んだ。

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