14話目 新たな一歩
「あ、やべ……」
「あぁ……」
信仁と咲月が自分達が攻撃した相手がルシエルだと気づいたのは、事の後だった。
「俺、今かなり手応えあったんだけど……」
「私も結構全力で撃っちゃった……」
「ごほっ、ごほっ、急に酷いじゃないですか……ごほっ」
煙の中からいつものルシエルの声が聞こえて一安心する二人。
しかし、かなり本気で攻撃したため、怪我をさせたかもしれないと不安になる二人。
次第に煙が引き、ルシエルのシルエットが浮かび上がる。
「えっ!?」
「マジかよ……」
そこにいたのは無傷のルシエルだった。
ただ、それだけではない。信仁の棒を人差し指で止め、反対の手は何かを握り潰したように閉じられ、少し焦げている。間違いなく咲月の魔法の跡だ。
「ふぅ。驚いたじゃないですか」
「いや、驚くで済むレベルじゃないだろ」
「一応聞きますけど怪我とかは……?」
「ありませんよ?」
痛くも痒くもない、とでも言いたげな表情で返すルシエル。
最初から心配は杞憂だった。
普段からは分からないが、やはり神である。ルシエルからすればこの程度は造作もなく、実害と言えば煙くらいだ。
「やっぱり貴方達、面白いわね」
ルシエルの後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
声の主はひょっこりと顔を出した。
「学園長さん!?」
「そんなに畏まらなくて良いわ。ルーシアって呼んでちょうだい」
「ルシエルの用事ってルーシアさんに合うことだったのか」
「はい。前回、学園を見学しに行ったときから約束をしてました」
「いつの間に……」
信仁達の気づかないところでそこまでしてしまう二人。
どこか性格が似ている二人は、結構息があっている。
おそらくこの組み合わせに勝てる者はいないだろう。
「まぁ、探す必要もなくなったし飯にしようぜ」
「今バスケットを出しますね」
「ルーシアさんもどうです?」
「あら、いいのかしら?」
「たくさん作りましたから、大丈夫ですよ」
「せっかくだし頂くわ」
「はい、是非!」
からかわれるからといって信仁も咲月もルーシアが嫌いなわけではない。
基本的に優しく、どこか雰囲気がルシエルと似ていて安心感があるのだ。
こうしてルーシアも昼食に加わり、一行は中庭へ移動した。
試験中のため人は来ないし、本来は立ち入り禁止だがルーシアが学園長権限で許可を出した。
真ん中にバスケットを置き、咲月のサンドイッチをつまみながら試験の話をする。
「そう言えば聞いたわよ、貴方たち無詠唱魔法が使えるんですってね」
「ルーシアさんは使えないんですか?」
「使えるわけないじゃない。私には経験が足りないわ。貴方たちが特別なだけ」
そう言って笑い、サンドイッチをかじる。
無詠唱ができないからと、特に気にしている様子はない。極一部の人間しかできないため、気にする必要はないのだ。
すると、ルシエルがはっと思い出したように口を開く。
「特別と言えばルーシアさんも特別ですよね」
「どういうことかしら?」
「いろいろ調べさせてもらいましたよ。出生時のコアの保持数は二つ、魔法を使い始めて僅か五年で並みの冒険者以上の実力をつけ、更にこの学園を首席で卒業。その数年後、教育者として再びこの学園に戻り、その実力を買われて学園長に就任。こんな人、なかなかいませんね」
自分のことをすらすらと暴露するルシエルに、目を見開き言葉が詰まるルーシア。
隠していたわけではないし、それなにり有名だという自負もあった。
ただ、数日前にやって来た自分の名前を知らない人物が、昨日の今日でちょっと調べただけでは出てこない情報まで喋った。
得たいの知れない恐怖を覚える。
だが、同時に久々に張り合いのある人物が現れたことに喜びを感じる部分もあった。
「よく調べたわね……貴方いったい何者?」
「ただの保護者です」
「……」
ルシエルはそう言うが、ただ者ではないことを確信するルーシア。
ルシエルはルーシアの要注意人物のリストの上位に入ることとなった。
「ルシエルさん、人のことを勝手に調べるのはあまり感心しませんよ」
「いえ、身近な人間のことは知らないと不安でしょ?」
「そりゃそうだが、やめといた方がいいぞ。そっちの方がまだ彼女ができるぞ」
「事ある毎にその話を持ち出すのはやめてください……」
ルシエルは恨めしそうに信仁を見る。
当の信仁はと言うと日頃のお返しとでも言いたげに、サンドイッチを噛っている。
しかし、信仁がルシエルをからかえるのは独り身であることだけで、その後はいつも通りに信仁が軽くあしらわれる口論が続き、和気あいあいとした空気が流れていった。
ただ、ルーシアだけが心の中で、三人の正体についてあれこれ思考を凝らしているのであった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、日が暮れて、入学試験は幕を閉じた。
翌朝、信仁は窓ガラスを叩く音で目を覚ます。
「誰だ?」
問いかけには何も帰ってこない。その代わりに、小石をぶつけられたように窓ガラスが唸る。
ルシエルの悪戯にしては面白味に欠ける。ちなみに、最初にルシエルが疑われたのは日頃の彼の行いである。
警戒しながら外を見ると、果たして犯人はいた。
「鳩……?」
さっきから窓を叩いていたのは一羽の白い鳩だった。
信仁が近寄ってもジッと目を見つめる。
すると、再び嘴で窓をつつき始めた。先程から響く音の正体は、嘴が窓に当たる音だった。
「これ以上五月蝿くなると近所迷惑だな」
そこそこ大きいこの音は、まだ寝ている人には煩わしい。自分達の近所での評判にも関わるので、追い払おうと窓を開けた。
「うお!?」
少しは驚いて飛んでいくだろうと思っていた信仁は、逃げるどころか部屋に入り込んできた鳩に、逆に驚かされてしまった。
信仁の上を飛び越え、そのままテーブルの上に止まる。
「何だって言うんだよ……ん?」
鳩が答えられるはずもないことを思わず口に漏らした時、信仁はあることに気がつく。
それは、鳩の足に結び付けられた手紙だった。
それを見て、この鳩が伝書鳩であることを理解する信仁。初めて伝書鳩を見る信仁は、逃げずに人のところまで手紙を届けることに感心する。
信仁は手紙をもらう覚えがないと一瞬思ったが、伝書鳩と言う単語であることを思いだし、手紙を開く。
「やっぱり、これは……」
信仁が手紙の内容を確認していると、隣の部屋の扉が開け放たれ、ドタドタと廊下を誰かが駆けてくる音がする。
やがて、足音が信仁の部屋の前で止まると同時に音の主が、これまた勢いよく扉を開けた。
「信仁、これ!」
入ってきたのは嬉しそうな顔で手紙を掲げる咲月だった。
ちなみに、朝一番で咲月の笑顔を見ることができ、一日の活力が湧いてきたのは信仁しか知らないことである。
咲月の表情と声のトーンから、自分と同じ手紙が届いたことを察する信仁。
「あぁ、俺も届いたよ」
「やったぁ!」
嬉しそうに跳び跳ねる咲月を目尻に、もう一度手紙の内容に目を落とす。
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合格通知
以下の者を"メルディオール魔法学園"への入学を認める。
シンジ・イマガワ殿
上記の者は明日の入学式に出席されたし。
ルーシア・アルドレイド学園長
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こうして、新たな学園生活への第一歩を踏み出す信仁と咲月だった。




