↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

12話目 入学試験

窓から差し込む日の光と、鳥の声で信仁は目を覚ます。

少し痺れる右腕に目をやると、気持ち良さそうに寝ている咲月。

少し間をあけて昨晩一緒に寝たことを思い出す。


「そうだった、一緒に寝たんだった」

「ん、んん……」


ふと漏らした言葉に咲月が目を覚ます。


「おはよう。落ち着いて眠れたか?」

「もうぐっすり」

「今日は入学試験だから準備を始めよう」

「うん。お互い受かるように頑張ろうね」


一度咲月は自分の部屋に戻り、俺も動きやすい服に着替える。

階段を降りているとキッチンから何か音が聞こえる。

咲月が朝食を作ってるのか?

それにしては部屋に戻ってからかなり早いな。


「どうしたの?」

「いや、何でもない」


後ろから聞こえる咲月の声に信仁は振り向く。

咲月は階段の途中で足を止めていた信仁を不思議に思った。

咲月が首をかしげる。

どうやら、キッチンにいるのは咲月ではないようだ。

つまり、この家で信仁と咲月以外となると、一人しかいない。


「あ、二人ともおはようございます。今日もいい天気ですね」


窓から入り込んでくる太陽の光をバックにいい笑顔で挨拶をするルシエル。

今まさに手に持っている昨日買ったコーヒーカップをテーブルに置こうとしているところに、信仁たちが降りてきた。

テーブルには朝食が並べられ、後は二人が座るだけになっていた。

ここまで来ると、信仁としては神と言うより執事に思えてくる。

しかし、朝食を用意してくれたことには素直に感謝する。


「ああ、おはよう……」

「おはようございます。ルシエルさんも料理されるんですね」

「ええ、それなりに」

「神って食事必要なのか?」

「必要はありませんが、娯楽の一つだと思っていただければ」


実際、天界にはそんなに娯楽は少ない。

そのため、各々が自分なりの時間を潰す趣味を持っていることが多い。

中には下界の姿の移り変わりを気長に眺めているような神もいる。


「ささ、早く召し上がってください。準備ができしだい、学園へ向かいますよ」

「おう」

「はい」


三人は早々に食事を終え、最後の身支度を整える。

とは言うものの、大したものは持っていない。

いつのまにか用意されていた三人分の身分証明書、タオル、飲み物、バスケット──中身は咲月のサンドイッチ──。

全てルシエルの空間魔法で作った異空間に保管する。

なにかと便利そうな魔法だが、制御が難しくて信仁と咲月にはまだできない。


「そろそろ行くか」

「いいよ」

「行きましょう」


準備は万端、信仁はこの入学試験で自分がどのくらいの場所にいるのか見定めるつもりである。

ルシエルいわく、信仁のコアの数と質は世界でもトップクラス。咲月も上位であることは間違いない。

ただ、そうであるから強いわけではない。

どんなに切れる刀でも、どんなに強い銃でも、使う人間の技術が伴わなければただの鉄屑《てつくず》に過ぎない。

それぞれの動きがどこまで通用するか、きちんと知っておくべきだ。




昨日と比べて圧倒的に大通りを行き交う日との数が多い。

それも、信仁たちと同世代の人がほとんどだ。

さらに、学園内に入ると、いよいよ大所帯。

咲月とはぐれないよう、信仁の手は自然と咲月の手を握る。

そんな信仁の自然な優しさが、咲月は好きだった。


「それにしても人が多いね」

「それはこの学園が世界的に名門校ですから」

「これだけでかければ当然か」

「ちょっと不安になってきた……」

「まぁ、やるだけやってみようぜ」


咲月の心配は合格だけではなかった。

これだけ多いとクラスの数も増える。

当然、信仁と別クラスになる可能性も出てくる。

信じていないわけではないが、ここは異世界、咲月の以上の美貌を持つ人がいてもおかしくない。

信仁が自分を置いて、知らない内にその人のところへ行ってしまうかもしれないと、そんなことが頭の片隅をよぎる。

すぐに考えを振り払うが、離すまいと強く手を握る。


「入学試験の受験希望者はこちらにお並びくださーい!」

「押さないで、順番に受付をしてください!」

「申し訳ございません。そちらには入らないようお願いします!」


自由に動き回る人を並ばせようと、複数人の制服を着た生徒が声を張り上げる。

腕の腕章には、この世界の文字で『生徒会』と書いてある。

この学園にも生徒会という組織が存在していた。


「大変そうだな」

「私はしたことないけど、入学試験の手伝いまでしてるんだね」

「いろんな行事ができるのも生徒会がいてこそだからな、感謝しないと」


体育祭、生徒総会等は生徒会があってこそ成り立つ。彼らの存在なしにはうまく回らないだろう。


「では、私は少し寄るところがあるので少し席を外します。結果は見ずともわかりますから」

「あんまりプレッシャーかけないでください」

「さっさと行け」


ルシエルは微笑むと校舎の方へ足を進める。

すぐに人混みに埋もれ、姿が見えなくなる。


「次の方どうぞ」


ようやく順番が回ってきた。

身分証を見せ、受付の人の前に置いてある水晶に、自分の魔力を登録すれば完了。


「入学試験、頑張って下さい」


軽く会釈して横を通り過ぎ、指示された場所へ進む。

たどり着いたのは講堂だろうか。広々とした空間に、行列ができている。

列の先をたどると、金属製の四角い箱に手を置いているのが見えた。

すると、そこに魔方陣が浮かび上がる。

数秒で消え、記録係らしき人がなにかを書いている。

ここは、コアの質と数の測定会場らしい。


「今更だけど、これ普通に受けていいのか?俺たちのコアの数ってかなり異常だろ?」

「あ、そういえばそうだっけ。もしかしたら騒ぎになるかも」


この入学試験を受ける人間は、ほとんどが三個か四個。多くても五個だ。

普通は成人で三個だから、レベルはかなり高い。

対して信仁は九個、咲月は六つ。

信仁に関しては伝説級だ。

騒ぎにならないはずがない。

しかし、着々と順番は巡り、遂に順番が来る。


「ここに手を置いて、魔力を放出してください」


ここまで来たからにはもうどうにもならない。

ダメもとで手を置き、言われた通り魔力を放出する。

例によって魔方陣が輝る。

すると、空気中に『ナンバー』と『レベル』の文字が浮かび上がった。

察するに数と質を表すんだろう。

その横にある数字は……


ナンバー………4

レベル……………5


自分が知っているのとは違う数字だった。

レベルに関しては基準はわからないが、ナンバーはコアの数だと思っていた。

しかし、実際は九個。大きく変わっている。


「はい、4個と……レベルが5ですね」

「あの、こってなんの数字ですか?」

「コアの数と質に決まってるじゃないですか。……次の方どうぞ」


何を言ってるんだという風に返された。

どうやらナンバーはコアの数、レベルはコアの質で間違いなさそうだ。

ただ、それが事実ならますますおかしい。

しかし、そんな疑問は直ぐに解消する。

信仁たちが騒がれるのを心配しているのに気づいて、尚且つ《なおか》水晶に浮かび上がる数値を短時間で偽造できる人───人ではないが───なんて限られてる。


「ルシエルか」

「だね」


測定が終わって、歩いてきた咲月が信仁の独り言に答える。

咲月も信仁と同じ数値が出た。

気を回してくれるのはありがたいが、なにか一言《ひとこと》言ってほしいのが本音である。

ともあれ、一応受験中の身であるため勝手な行動はせず、次の場所へ移る。

流れの行き着いた先は、闘技場。

野球場より一回り小さいドーム型の闘技場が三つある。


「最終試験、だね」

「ああ、気合い入れていこう」


なし崩しに試験を受けることになったが、この試験に本気で挑む者も少なくない。

半端な覚悟でいくと痛い目を見のは間違いない。

なら、全力で自分をぶつけるだけである。

意識を切り替え、受付へ向かう。


「対戦形式を選んでください。ソロ、ペア、パーティーお好きにどうぞ」


対戦には三つの形式がある。

一対一の『ソロ』、二対二の『ペア』、三~四人同士の『パーティー』。

ソロは純粋に己の力量《りきりょう》が現れるが気楽に戦えて、自分の身を守る必要があるため中途半端な力を持ったやつはいない。

ペアは一番難しいといわれる形式。二人しかいないため、どちらかが崩れれば一方的に不利になる。しかし、お互いの弱点を補いあい、息の合った連携ができれば、相手からすればかなり厄介だ。

パーティーはそれぞれの役割に専念できる利点があり、前衛、魔法支援、回復が基本。人数が増えれば、これに新たな役割や前衛を増やしたりと、やり方はチームによって様々だ。

そして、二人が選ぶ形式は考えるまでもなく───


「「ペアで」」


すぐに決まった。

ペアの対戦会場は真ん中の闘技場。

この形式を選ぶ人は少ないが、ソロやパーティーに比べればの話だ。

控え室にはかなりの人数がいて、思い思いに準備をしている。

二人もストレッチをして体をほぐしていると、あることに気づく。


「やっぱり咲月は異世界でも目立つな」

「んー、あんまりじろじろ見られるのは慣れないけどね」


咲月は苦笑しながら言う。

実際、咲月はこの会場の中でもからりレベルは高い。

元の世界でも遊びに行く先々で声をかけられていた。遊園地などはナンパに、街では芸能スカウトされることも多々あった。

そして、ここでも咲月に言い寄ってくる輩《やから》はいるようだ。


「おお、なんと美しい。まるで荒野に咲く一輪のはなのようだ」

「このように美しい花ならディーク様にお似合いでしょう」


ディークと呼ばれたその男は咲月を見つめ、近づいてきた。

信仁より少し身長が高く、しかし、信仁などいないかのように咲月から視線をそらさない。

顔は整っていて、少し長めの金髪を後ろで束ねている。

そして、半歩後ろにいるもう一人の黒い服の男はおそらく執事。

ディークよりも長身で、無表情によりいっそう圧を感じる。

身なりからして、ディークが金持ちなのは間違いない。

しかし、ここにいると言うことはそれなりに強いと思って良いだろう。


「この出会いは運命。私と一緒に永遠の時を過ごしましょう」

「え、えーっと……」


ディークは咲月の手を取り、聞いていて恥ずかしくなるような台詞を言う。

突然のことに咲月は戸惑い、何も言えずに微妙な顔をする。

そして、ディークは手の甲に口づけをしようとした。

が、その手はあっさりと払われた。

信仁だ。


「なにしてんだ?」


信仁に独占欲なんてない。

だが、急に出てきてやつに彼女を口説かれて黙っていられるほどお人好しではない。


ディークは一瞬、何をされたのか分からなかった。

自分の手が叩かれた。誰に?視界に入り込んだ同い年くらいの少年に。

思考が一瞬止まった。だが、それも本当に一瞬。


「貴様、一体誰にそのような態度をとっているか分かっているのか?」

「相手のことを考えない、その程度の奴ってことは分かった」


表情に出てしまうほど、咲月はさっきの行動は不快だった。

今までにないタイプの人間であり、初対面でいきなり手の甲にキスをしようとするなんて、咲月からすれば気持ちが悪いことこの上ない。

信仁が手を出していなければ、キスされる前に咲月がひっぱたいていただろう。


「マルドム」

「はっ」


ディークがそう呼ぶと執事が前に出てきた。執事の名前はマルドムというらしい。

ディークは数歩下がり、完全に位置が入れ替わる。

信仁と対峙するマルドムは、やはり大きい。

見上げながら次の行動を少し待つ。


殺気。


一瞬で無《む》から膨れ上がったそれを感じた刹那、マルドムが揺らいだ視界の端に黒いものが入る。

ほとんど防衛本能。瞬時に全身に魔力を込めて身体強化し、頭を防御する姿勢をとった。

頭を守ると同時に腕に衝撃が走る。


「信仁!」


咲月が声を上げる。

信仁が受けた攻撃は、蹴りだ。それも、目で追いかけるのが難しいほどの速さ。

身体強化をしたため怪我こそはしなかったが、かなり強い。

足を受け止めつつ、睨み返す。


「ほう、この蹴りを止めますか」

「何しやがる」

「あなたの罪に対する罰です」

「罪?」

「そう、ディーク様を侮辱した罪です」


この国にそんな法律があるはずはないが、この執事のディークに対する忠誠心はかなり強い。

そして、マルドム自身もただ者ではないようだ。


「なら、俺の女神様に手をだしたそいつにも罰が必要だ……な!」


防御のために踏ん張っていた右足を軸に、マルドムの脇腹へ蹴りを放つ。

しかし、信仁の足は何も捕らえずに振り抜かれる。

大きくバックステップをしたマルドムは、ディークの横に並ぶ。


「ディーク様、そちらの少年、基礎こそはでたらめですが、簡単にやれる相手ではないようです」


ディークは驚いた。

自分よりも強く、自分の気に入らないやつをことごとくねじ伏せてきたマルドムに、一発の蹴りでそう言わせた。

信仁自身はそれこそ喧嘩はしないが、それを補うほどのコアを持っている。今の二人にはそれを知る由《よし》もないが、マルドムはそれを朧気《おぼろげ》に感じ取った。


「………名前を聞こう」

「信仁、今川だ」

「咲月、水無瀬です」


こちらの世界に合わせて、名前から先に言う。


「私はフィリオン伯爵家の長男ディーク・フィリオン」

「執事のマルドム・ハーツです。以後お見知りおきを」

「名前、覚えておくぞ」


そう言い残し、去っていった。

二人がいなくなって身体強化を解くと、膝をついた。

蹴りを喰らった瞬間、本当なら腰を抜かしていたが、身体強化のおかげで倒れなかった。

咲月が慌てて駆け寄る。


「大丈夫!?」

「あ、ああ。けどあの執事、ただもんじゃないぞ……」

「…………ありがとね」

「なにが?」

「助けに入ってくれたこと」


咲月としても自分のために体を張ってくれるのは嬉しい。それが自分の好きな人ならもっとだ。

今までもナンパにあったときは自分ですることもあったけど、信仁がいるときは必ず追い払ってくれた。

やはり咲月は自分を守ろうとしてくれる、優しい信仁が心の底から好きなのである。


「なんだ、そんなことか。気にするな」

「でも、嬉しかったし、格好よかったよ」

「あー、うん……そうか……あんがと」


誉められるのは嬉しいが、照れる信仁。


「でも、『女神様』は少し恥ずかしかったかな」

「あっ!いや、それは……!」


さっきは勢いで言ってしまっていた。

落ち着いて思い返せばディーク程ではないにしても、かなり恥ずかしい。

しかし、誤魔化しのしょうがないため、諦めて方を落とす。


「助けてくれてありがとう、私の『王子様』……」

「っ!?」


咲月が耳元で囁く。

驚いて咲月の顔を見た。

そこにある笑顔は、恥ずかしそうだけどどこか楽しそうで、嬉しそうで。

おあいこのつもりで言った咲月の台詞は、信仁をドキドキさせるには十分過ぎた。


「これでおあいこ」

「そう、だな……」


そんなやり取りをしているうちに、信仁の体に力が入るようになる。


「よし、もう大丈夫だ」

「でも、驚いた」

「あんなやつもいるんだな」

「世界が違えば人も様々だね」

「正直あの二人とは当たりたくない」


立ち上がって服についた埃《ほこり》を払っていると、扉から生徒が入ってくる。

その手には少し大きめの水晶を持っており、部屋の中心にある台の上に置いた。


「今から対戦表を掲示します!見落としのないように注意してください!」


そう言った直後、水晶から四方向に画像が空中投影される。

さっきまで騒がしかった部屋が、よりいっそうざわめく。

信仁たちも対戦表を見るために近づく。

そして、驚愕した。


「おいおい、マジかよ……」

「こんなことってある?」


先ほどの信仁の願いも虚しく、信仁たちの相手は……



入学試験対戦部門 形式『ペア』


第一試合目


ディーク・フィリオン

マルドム・ハーツ


対


シンジ・イマガワ

サツキ・ミナセ



さっきの貴族の息子とその執事だった。

何組もある中で、ピンポイントで当たるのは運が良いのか悪いのか。

しかし、もう変えることはできない。


「なっちまったもんは仕方ない、全力で相手してやろうぜ」

「うん、私たちの力を見せてあげる」


意気込んで部屋を出ると、グラウンドへ向かう。

二人に初めて闘志がみなぎった瞬間であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。