第六章 堕天使の涙
三日後。
ひかるたちは、カインが指定した場所へ向かった。
そこは、街外れの古い教会だった。
空は厚い雲に覆われ、冷たい風が吹いている。
教会の扉を開くと、祭壇の前にカインが立っていた。
「……来たか」
レオンは一歩前へ進んだ。
「カイン。話がある」
「今さら何を話す?」
「僕は、君を助けたい」
カインは一瞬、驚いた表情を浮かべた。
しかし、すぐに冷たく笑った。
「助ける? お前が私を?」
「……ああ」
「ふざけるな!」
カインが叫んだ。
黒い翼から、無数の羽根が舞い散る。
羽根は鋭い刃となり、レオンに襲いかかった。
レオンは剣で受け止めた。
「僕は君を見捨てたつもりはなかった!」
「だが、救わなかった!」
「……そうだ」
レオンは剣を下ろした。
「僕は、君を救えなかった」
カインの動きが止まった。
レオンは続けた。
「ずっと後悔していた。どうすればよかったのか、何度も考えた」
「……」
「でも、今ならわかる」
レオンはカインを見つめた。
「僕一人で、すべてを救おうとする必要はなかったんだ」
カインは眉をひそめた。
「何を言っている?」
「助けてほしいと、誰かに頼ればよかった」
その言葉に、カインの表情が揺れた。
ひかるが一歩前へ出た。
「カインさん!」
カインは冷たくひかるを見た。
「……人間が、何の用だ」
「あなたも、本当は誰かを助けたかったんですよね?」
「黙れ」
「でも、助けられなくて、悲しかったんでしょう?」
「黙れと言っている!」
黒い風が吹き荒れた。
セラが結界を張る。
しかし、ひかるは逃げなかった。
アリヤが隣に立つ。
「私も、大切な人を失ったことがあるの」
カインはアリヤを見た。
「……何?」
「おばあちゃんに、もう一度会いたかった。悪魔に頼めば会えるって言われて、信じそうになった」
アリヤは指輪を握りしめた。
「でも、それは違った」
「……」
「大切な人を想う気持ちは、悪魔に利用されるためのものじゃない」
カインの黒い翼が、かすかに震えた。
「……お前たちに、何がわかる」
カインは俯いた。
「私は……あの子を救いたかっただけなのに……」
初めて、その声に悲しみが滲んだ。
レオンはゆっくりと近づいた。
「……わかっている」
「わかるものか……!」
「全部はわからない。でも、君がどれほど苦しんできたのか、知ろうとすることはできる」
カインの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
そのときだった。
教会の奥から、低い笑い声が響いた。
「……感動的だな」
復活した悪魔が姿を現した。
「だが、そろそろ終わりにしようか」
カインが振り返った。
「……何をするつもりだ?」
悪魔は不気味に笑った。
「お前はもう、用済みだ」




