第五章 悪魔の新たな罠
「また、お前か!」
レオンが剣を構えた。
悪魔は窓の外で笑っていた。
「安心しろ。今日は戦うつもりはない」
「じゃあ、何をしに来たの?」
ひかるが尋ねる。
悪魔はゆっくりと指を鳴らした。
すると、部屋の中央に黒い鏡が現れた。
鏡の中には、一人の少女が映っていた。
見知らぬ少女だった。
ベッドに横たわり、静かに目を閉じている。
レオンの表情が変わった。
「……まさか」
悪魔は笑った。
「そうだ。カインが昔、救おうとした人間の少女だ」
セラが息を呑んだ。
「でも、その子は……」
「死んだと思っていたのか?」
悪魔は不気味に微笑んだ。
「彼女の魂は、今も闇の中に囚われている」
レオンは震える声で尋ねた。
「……本当なのか?」
「信じるかどうかは、お前次第だ」
悪魔は鏡に手を触れた。
少女の姿が、ゆっくりと消えていく。
「カインは今も、彼女を救いたいと願っている」
ひかるは悪魔を睨んだ。
「それで、私たちに何をさせたいの?」
「簡単なことだ」
悪魔は笑った。
「お前たちが契約すれば、少女の魂を解放してやろう」
レオンが息を呑む。
「……やめろ」
悪魔は続けた。
「ひかる。お前は誰かを助けたいのだろう?」
「……」
「ならば、カインも、あの少女も救える。お前の命一つでな」
ひかるの胸が苦しくなった。
誰かを助けられるかもしれない。
でも、そのために自分の命を差し出すなんて。
ひかるは目を閉じた。
そして、前作でアリヤと交わした約束を思い出した。
――二人で生きるんだから。
ひかるは、ゆっくりと首を横に振った。
「……契約しない」
悪魔の笑顔が消えた。
「何?」
「私は誰かを助けたい。でも、自分が死んだら、アリヤも悲しむ。セラもレオンも悲しむ」
ひかるはまっすぐに悪魔を見た。
「だから、自分の命を差し出すような契約はしない!」
アリヤも隣に立った。
「私も同じよ!」
悪魔は舌打ちした。
「相変わらず、面倒な娘たちだ」
そのとき、レオンが静かに口を開いた。
「……悪魔」
「何だ?」
「お前の言葉を、もう信用するつもりはない」
レオンは剣を構えた。
「少女の魂が本当に囚われているのなら、僕たちは自分たちで確かめる」
悪魔の表情が歪んだ。
「……後悔するぞ」
黒い鏡が砕け散る。
悪魔の姿も、霧のように消えていった。
静けさが戻った部屋で、ひかるは小さく息を吐いた。
「……怖かった」
セラが優しく肩に手を置いた。
「よく頑張ったわ」
レオンはひかるを見つめた。
「ありがとう」
「え?」
「君のおかげで、思い出したよ」
レオンは微笑んだ。
「誰かを救いたいと思うことと、悪魔の言いなりになることは違うんだって」
ひかるは嬉しそうに笑った。
「うん!」




