第三章 『レオンの過去』
その夜。
ひかるとアリヤは、セラとレオンに連れられて、街外れの小さな教会を訪れた。
人のいない礼拝堂には、月明かりが差し込んでいた。
「ここなら、しばらくは安全よ」
セラが言った。
アリヤは指輪を見つめた。
赤い光は弱まっていたが、完全には消えていない。
「……このままだと、どうなるの?」
セラは少し迷ってから答えた。
「指輪の守りの力が、悪魔の力に侵食されているの。このままでは、あなたの心まで悪魔に狙われるかもしれない」
アリヤは俯いた。
「……おばあちゃんの指輪なのに」
ひかるは隣に座った。
「大丈夫。一緒に元に戻す方法を探そう」
「ひかる……」
「きっと方法はあるよ」
そのとき、礼拝堂の奥からレオンが歩いてきた。
「……話しておきたいことがある」
ひかるたちは顔を上げた。
レオンは静かに語り始めた。
かつて、レオンとカインは天界で共に働く天使だった。
カインは優秀で、誰よりも人間を愛していた。
特に、苦しんでいる人間を見過ごせない天使だった。
しかし、ある日、カインが守っていた人間の少女が重い病に倒れた。
カインは必死に救おうとした。
だが、天使には、人間の命や運命を自由に変えることは許されていなかった。
「カインは、その決まりに納得できなかったんだ」
レオンは目を伏せた。
「彼は、少女を救うために禁じられた力に手を伸ばした」
その力は、悪魔のものだった。
カインは悪魔と取引し、少女の病を治そうとした。
しかし、悪魔は約束を破った。
少女は救われず、カイン自身も闇の力に侵されてしまった。
「……そんな」
アリヤは悲しそうに呟いた。
レオンは続けた。
「僕は止めようとした。でも、彼を救う方法が見つからなかった」
カインは天界の掟を破った罪で追放された。
そのとき、レオンは何もできなかった。
「僕は……彼を救えなかった」
レオンの声が震えた。
「ずっと後悔していたんだ」
ひかるは黙って話を聞いていた。
そして、静かに尋ねた。
「レオンは、カインを助けたかったんだよね?」
「……ああ」
「じゃあ、今も助けたい?」
レオンは驚いたように顔を上げた。
「……何?」
ひかるはまっすぐにレオンを見た。
「カインは悪いことをしている。でも、レオンが大切に思っていた人なんでしょう?」
「そうだけど……」
「だったら、助ける方法を探してもいいんじゃないかな」
レオンは苦しそうに首を振った。
「無理だよ。彼はもう堕天使なんだ」
「本当に?」
ひかるの問いに、レオンは言葉を失った。
「まだ何も試してないのに、諦めちゃうの?」
ひかるは優しく笑った。
「私、レオンに教えてもらったよ。誰かを助けるために、自分を犠牲にする必要はないって」
レオンは目を見開いた。
「だから、今度は私たちがレオンを助けたい」
アリヤも頷いた。
「私も。レオンには、何度も助けてもらったから」
セラは静かに微笑んだ。
「……そうね。私たちも、まだ諦める必要はないわ」
レオンはしばらく黙っていた。
そして、小さく笑った。
「……君たちには敵わないな」
その瞳には、少しだけ希望の光が戻っていた。




