↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/15

第8話 悪党一味

 アジトは夜逃げした貴族の別荘跡だという。

 外見はまあ予想通りだった。

 昔は小洒落ていたと思われる鉄柵は赤錆に覆われ、ところどころ破損している。

 庭の池は泥で埋まり、怪しげな生き物が俺たちを見て逃げた。あれが、今日からの同居人らしい。

 ただ感心なことに、庭は薬草畑として耕されていた。

 屋敷は二階建てで、小汚い色のツタで覆われている。外壁は剥がれ落ち、一階には焼け跡まである。

 それでも、屋根が無事だったのが救いだ。

「フェルのねぐらの方がマシなんじゃないか?」

 リリスが顔をしかめた。フェルは、隣にいる。

「姐さん、見てくれは悪いが、中はそう悪くはありませんぜ」

 ギルが言った。コイツは手下どものまとめ役だ。

 他の二人の名は忘れた。デブとヒゲ面と呼んでいる。その方がなぜか連中は喜ぶ。

 あてがわれた部屋は二階だ。

 二階には、北向きの部屋を含めて十室ある。俺は一番右の南に面した部屋だ。その隣がリリス、そしてフェル。

 部屋の中は、ギルが言うよう、そう悪くない。ベッドにはシーツが敷かれている。どこかからかっぱらってきたのだろう。

 そしてデスクや棚、衣装箪笥《いしょうだんす》まである。

 俺に疑問がわいた。なぜ債権者たちは、これらの家具を売り払わなかったのだ?前の持ち主は本当に夜逃げしたのか?

 馬鹿どもが知らない"裏"がありそうな気がした。

「あのー、ボス、相談があるんですが聞いていただけやすか?」

 ギルが恐る恐る切り出した。

「なんだ?」

「一階をですね、アッシらのねぐらに使わせてもらっても、かまわねえでしょうか?」

 不安げに俺を見上げる。

 拒否すれば連中は野宿だ。それはさすがにかわいそうだ。

「構わない。一階はお前たちが工夫して使え。だが、二階には用もなく上がるな。見かけたら殺す」

 俺は念のため最低限の線引きは徹底しておいた。

 しばらく迷宮で稼ぐことになるだろう。王都の中級宿は引き払った。

 手下とは便利なものだ。金も払っていないのに、かいがいしく働いてくれる。

もちろん、連中にも見返りはある。

 俺たちが迷宮から持ち帰る品を換金するのは手下どもの仕事だ。その際、いくらか抜いているはずだ。それでも俺たちでやるより高い買い値がついた。

 そして何より、俺という後ろ盾だ。


 俺たちが、アジトに住み着いて二週間ほど経った夜だ。

 デブが血まみれになって担ぎ込まれた。

 ずっと対立していたゴロツキ一味“狂鬼(マッドデビル)”にやられたという。ちなみに手下たちの組織名は、“無慈悲な殺戮”だそうだ。初めて聞かされた時、リリスと二人で腹を抱えて笑った。

 二つの組織の力はこれまで均衡していたが、俺がボスとナンバー2を殺したことでバランスが崩れた。デブが半殺しにされたのは、連中がついに仕掛けてきたのだ。

「ご、後生だ。ボス。ポーションを使ってくだせえ」

 デブが、か細い声で訴える。失礼な奴だ。今、フェルが治療しているだろう。

 新しい術式のおかげで詠唱は早くなったが、治療の腕はまだまだまずい。しかも、痛み止めの処置を忘れている。

 だからこそ、まあ、いい練習台だ。

「あのクソども。もうがまんならねえ!」

 扉の外では、ギルとヒゲ面がダンビラを抱えて息巻いていた。二人だけで殴り込むつもりらしい。

「おい。やめとけ。お前らじゃ、血まみれが増えるだけだ。誰が世話すると思っている?」

「しかし、ボス、このままじゃ、俺たち食いぱぐれちまうぜ!」

 ヒゲ面が食ってかかってきやがった。俺は力任せに蹴り飛ばしてやった。

「三日待て。それですべて終わらせてやる」


 三日後の夜、この界隈のゴロツキの親分衆の会合がある。そこに“狂鬼”のボス、バンスも参加する。

 当夜、俺はギルに“果たし状”を持たせ、会合の場となる店へやった。

 ギルは俺の指示通り、他の親分衆の目の前で果たし状をバンスに叩きつけた。

 こうなると、バンスも親分衆の手前、逃げるわけにはいかない。

「おいギル。ガキの使い走りかぁ?人間、落ちぶれたかあねぇな。いいぜ、そのガキ、一丁可愛がってやるよ」

 そう余裕を見せたそうだ。とにかく相手はガキ一人だ。他の親分衆に臆病者とは思われたくない。バンスはあえて防具もつけず、バカ長い剣一本を持って店の外に出てきた。

 外の暗がりには、弓を持った俺がいた。

「おいおい、小僧お!果たし状たあ、ずいぶん舐めたマネしてくれるじゃねえか!俺の名は”剛剣のバンス”様だ。これまで何人殺したか知っているか?最初は十九の時だ。”皆殺しのザック”って奴がいやがった。そいつを・・・」

 俺はヤッコさんの長口上を矢で終わらせた。俺が矢を放つと、剛剣のバンス様は、額に矢を突き立てて大の字になった。俺はバンスの死体に近づき、貴重な矢を抜き取った。深く刺さっていたため、申し訳ないがヤッコさんの顔を踏みつけて抜くしかなかった。

 歓楽街の店だが、中は悪くない造りだった。椅子やテーブルも安物ではない。

 外の様子を見ていたのであろう親分たちが、複雑な顔で俺を迎える。

「俺の席はあるか?」

 俺は親分衆を見回した。

「そ、そこに座んな。兄弟。すぐに片付けさせるぜ」

 おそらく仕切り役の年長の男が空いている席を指した。さっきまでバンスが座っていた席だ。

 俺を受け入れた方が得策と判断したのだ。

「まずは乾杯だ。今日からアンタとは五分《ごぶ》の盃だ。いいな?」

 別の男が引き継いだ。

「いや。俺はお前らと杯を交わす気はない」

 一気に場が冷めた。俺が反目に回るとも受け取れる。外にはバンスの死体が転がっている。警戒と恐怖が交差する。

「お前らと杯を交わすのは、そいつだ」

 俺は立たされたままのギルをアゴで指した。

「“無慈悲な殺戮”を仕切るジャックナイフのギルだ。切れたら何をしでかすか分からない恐ろしい奴だ。怒らせない方がいいぜ」

 俺は適当に通名《とおりな》をつけてやった。

 急遽、ジャックナイフの通名を背負わされたギルは、口を開けて俺を見ている。

「俺はお前らのシノギに口をだすつもりはない。俺の役分は、そうだな、お前らが他所《よそ》ともめた時、手を貸す、でどうだ?」

 親分衆に安どの空気が広がる。

「おい。ジャックナイフのギルに席を作ってやれ!新しい兄弟と相談役に乾杯だ!」

 さっきの男が改めて怒鳴った。


 宴は長く続いた。さっそくバンスのシマをどう分けるかで盛り上がっている。ギルは、売春宿のシノギに一枚噛ませろ、と食い下がっていた。

 皆が酔いつぶれる頃、一人の女が、ねっとりとした視線を送ってきた。

 三十がらみだろうか。吊り上がった目に薄い唇。上品とは言えないが、男を惹きつける顔をしている。

 細身の身体だが、やせているわけではない。胸と腰は、ほど良く発達している。

「あれは誰だ?」

俺はギルに尋ねた。

「ここのマダムでさあ。ジュネという名で、バンスの情婦《いろ》でした」

 大した女だと思った。

 男を失った直後だというのに、さっそく次の男に唾をつけようとしている。しかも、自分の男を殺した相手にだ。

 もちろん色恋ではない。新しい後ろ盾を欲しがっているのだ。

 ジュネは俺に二階に上がるよう目配せをした。私室でもあるのだろう。親分衆はすっかり酔いつぶれている。

 俺は彼女の形の良い腰を見ながら二階へ上がった。

 さみしい未亡人には、添い寝の相手が必要だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。