種族とは
木々が生い茂る山は
日暮の大合唱が四方から奏でられる。
まだ日も上がって間も無いというのに、
気温は恐ろしく高いように感じた。
私はじっとりと身体にまとわりつく汗を
拭いながら、遥か先に居る
清瀬さんに置いていかれないように
歩を進める事で精一杯だった。
「ちょっとー?遅いよ!
こんなんじゃ
帰る頃には夜になっちゃうでしょ!」
対して清瀬さんは
汗1つかいていない。
あんな華奢な体型をしているのに、
その体力は一体どこから
発揮されるのだろうか?
「す、すみません・・・。」
幸い息は上がっていない。
"柔道が恋人"と公言していた
学生時代に若返ったおかげで
私にも体力はあるようだ。
しかし、身体に
精神が着いていけていない。
「もー・・・。
体力無いなぁ・・・。」
清瀬さんは小走りで私の下に来ると
何かを唱え始めた。
すると青白い光の玉が空中に現れ、
私の身体の中に吸い込まれていく。
「こ、これは?」
何をされたのか
見当もつかない私は、
彼女に説明を求めた。
「神通力"夜雀"よ。」
「夜雀・・・?」
きょとんとする私に
彼女は得意気に無い胸を張る。
「この術は妖怪の夜雀族と
協力して歴代の巫女が作った術なの。
効果は自己治癒能力の促進。
簡単に言えば傷や疲れを
早めに回復できるみたいよ?」
神通力って何でもアリなんだな・・・。
・・・ん?妖怪?
今妖怪って言わなかったか?
「ありがとうございます・・・。
あの、ところで今、妖怪って
清瀬さんは言いましたか?」
「言ったわよ。それが?」
「この世界には、
妖怪も棲んでいるんですか?」
「・・・ああ!
あなたには説明してなかったわね!
そうそう!
この世界には人間だけじゃなくって、
色んな種族が居るのよ!」
「い、色んな種族・・・?」
「そうねー・・・
歩きながら説明するわ。」
「は、はい。」
「まず最初に人間族。
これはアタシやアンタみたいな
人間の事ね。
山の麓の人里で暮らしてるわ。
探求心が強くて、努力家が多いわね。
成人してる人はみんな
"奇跡"を呼び寄せる力を持ってるわ。」
「は、はぁ・・・。」
奇跡・・・?
何か凄そうな能力だな。
「次に夜雀族。
見た目は人間っぽいけど、
背中に肩幅以上の大きい
紫色の翼がある事が特長よ。
自己治癒能力が凄くて、
怪我をしてもすぐに治っちゃうんだ。
・・・その代わり寿命は短いけどね。」
怪我をしても直ぐに治る・・・。
そうか、だからさっきの術名は
"夜雀"なのか。
「他にも鬼族、小鬼族、物付族、
妖狐族って種族があるけど、
また追々説明するわ。」
「お願いします。」
「あ、あとそんなに
畏まらなくていいわよ。
アタシ、そう言うの大っ嫌いだから。」
「わ、わかりました。」
「ほらまた!
いいって言ってるのに!」
「すみません・・・こればっかりは
病気みたいなものなので、
慣れるまで待ってもらえませんか?」
「仕方無いわね。
ちゃんと慣れてよ?
ただでさえ人里でも
鬱陶しいんだから。」
「え?」
「アタシが人間族の中で
唯一の存在って、前教えたでしょ?」
「聞きましたね。」
「巫女はこの世界全ての問題事を
解決したり、
各種族が争わないように
束ねてるからなの。」
「この世界全て・・・ですか?」
「そうよ。
それだけの力を私は持ってるから。」
「凄いですね・・・。」
「それよ!
お陰でみんなから
凄い凄いって言われて、
今じゃ"清瀬様"とか言って
変な宗教があるぐらいなのよ!」
「はあ・・・。
でも嫌なら直接言えば
良いじゃないですか。」
「言えるわけないでしょ!
みんなアタシを心の拠り所にしてるし、
よく色んな物を
捧げ物としてくれるし!
これなくなったら私は
生きていけないの!」
清瀬さんは頭を乱暴に掻きながら
地団駄を踏む。
そうか。
だからあんな山奥の神社に
住んでいる彼女でも
生活出来ていたのか。
正直言って、
神社の立地条件は最悪だ。
神社を出発して大分なるが、
未だに人里は見えない。
参拝の為に
整備されていない道を延々と
往復するのは相当骨が折れる事だろう。
彼女本人は気付いていないようだが、
崇める対象である"清瀬陽菜"が
人里に行くことによって、
人里に住む者はわざわざ登山までして
参拝せずに済む。
だから"清瀬陽菜"が人里に足を運ぶよう、
人間族はこぞって彼女に
お供え物をするのか。
「それなら黙って崇められるしか
無いですね。"清瀬様"。」
「アンタ、わざと言ってるでしょ!」
「痛っ!」
思い切り殴られてしまった。
女の子が拳で殴るか、普通?
「何よその目は!」
「いや、何でも無いです。」
「もう一発希望?」
「いやいやいや!
充分、充分ですって!」
私は殴られた額を擦りながら
ゆっくりと歩を進めた。
もう大分歩いてきたが
まだ山の中腹といったところか。
「それにしても本当に
長い道のりですね。」
ため息が自然と出てしまう。
さっきの術のお陰で大分身体は楽だが
まだまだ歩かなければいけないと思うと
気持ちが落ち込んでしまう。
「何?もう降参?」
にやりと笑った彼女は
片手をゆっくりと挙げた。
「え?な、何を!?」
何かを唱え出した彼女に
私は条件反射で身構えた。
また何か術を掛けられるのか?!
「先に行ってなさい。」
呪文を唱え終わった彼女は
勢いよくてを降り下ろした。
すると辺り一面に
光る模様が映し出された。
「こ、これは?!」
何が起こっているかわからないまま、
私の視界は砂嵐のように乱れた。
「アタシもすぐ行くから。」
その声が終わると同時に、
私の意識は途切れてしまった。
よく意識が途絶える主人公です。




