出立
清瀬さん同伴の下、
この世界で記念すべき初料理が
完成した。
薄々感付いてはいたが、
この世界には"電気"が存在しなかった。
先程彼女に駄目元で冷蔵庫は
どこにあるのかと聞いたが
"冷蔵庫"という言葉すら
知らなかったようだ。
故に冷凍保存できる材料は皆無で、
"食料庫"と案内された所には
見事なまでに雑草
(清瀬さんは薬草と言い張っていた。)
や、痛みきった野菜類しか無かった。
まあ、痛んでいる野菜と言っても
その部分だけ排除すれば
使えない事も無い。
私はある程度工夫して
順調に料理を終えた。
「できましたよ。」
私は出来立ての料理を
居間に運んでいく。
「すごいわ!あのざっ・・・薬草が
こんな見た目になるなんて!」
今雑草って言いかけなかったか?
「工夫次第で、食材は無限の可能性を
秘めているのですよ。」
今回調理した物が
食材と言えるのかどうかは別だが。
「お待たせ。それじゃ頂きましょう。」
「わぁ・・・美味しそう。」
目を輝かせている彼女。
並べられた料理を一つ一つ見て、
少し顔を近づける。
香りを楽しんでいるようだ。
「今日は夏バテ防止にも効く、
茄子に味噌の味付けを
してみました。」
「え?茄子??」
「あの紫色の実の事です。
あれは茄子と言って、私の世界でも
夏には旬の野菜として
好んで食べられていました。」
「あれ?・・・これは?」
目を輝かせながら
料理を見ていた清瀬さんは
料理に添えられていた
汁物料理を指差した。
これは彼女が居間に
ちゃぶ台等を出して色々と
用意してくれている時に
余分に取り過ぎた味噌で作ったものだ。
「味噌汁と言います。
味噌をゆっくり湯に溶かして
味を調節した汁物料理です。
今回は出汁が用意出来なかったので、
それほど良い味では無いと思いますが
やはり夏には汗をかきますので、
塩分補給に味噌汁は最適だと思い、
作ってみました。」
「えんぶ・・・?
ん~・・・難しい事は分からないけど、
泥水じゃないのね?」
ど、泥水って・・・。
「それじゃ、いただきましょ!」
清瀬さんはにこやかに言うと、
両手を胸の前に合わせた。
「「いただきます。」」
この世界でも食事前の"いただきます"は
日本と共通らしい。
食器もお椀や箸がある事から、
日本とそう違わない世界
なのかもしれない。
「何これ!おいひい~!」
「お気に召してもらえて何よりです。」
頬を擦りながら、
幸せそうな笑顔を浮かべている。
みるみる料理が彼女の胃袋の中に
収まっていき、
あっという間に平らげてしまった。
「あー!美味しかった!
こんなに美味しいもの
食べたの初めて!」
「お粗末様です。」
満面の笑みを浮かべ、
清瀬さんはちゃぶ台に身を乗り出した。
かなり興奮してるようで、
凄い目が輝いている。
「ねえ!アンタってこんな料理
他にも作れるの?!」
「え?・・・まぁ材料があれば
多少は・・・。」
「材料?!
じゃあ今から人里に行くわよ!」
「えっ?今からですか?」
「当たり前じゃない!
こここから人里までは往復で
半日はかかるのよ!
早くしないとみんな
帰っちゃうじゃん!」
「は、はぁ・・・。」
「早く用意してね!
アンタの用意できたらすぐ行くから!」
どうやら相当気に入ったみたいだ。
私の料理をこんなにも
喜んでくれる人がいる。
私の心境は
うれしい半面、少し複雑だった。
こんな簡素な料理で喜ぶと言う事。
それはつまり、
普段から彼女はまともな食事を
口にしていないと言う事だ。
それにこの神社には
彼女以外の人間に未だに
出会わ無いのもおかしい。
もしかしたら彼女の両親はもう・・・。
いや、深く考えるのはよそう。
「何してるの?!
早く行くわよ!」
「あ、はい!」
私は様々な疑問を
頭から振り払い、
眩しい程の笑顔を振り撒く
彼女の後を追った。




