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残夏の園(改訂版)  作者: ずんだもち
一章 異世界
3/26

目覚め

『まつむ・・・た・・・。』


声がする。


マイクでエコーをかけたような声だ。


『まつむ・・・け・・・。』


何だ?何と言っている?


『松村・・・啓太・・・。』


私の名前?

誰かが私の名前を呼んでいるのか?


『私の声が聞こえますか?』


誰だろうか。

女性の声だが、救急隊の人だろうか?


『きゅ・・・?

いえ、私はそのような者では

ありません。』


む・・・?

何故私の考えた事を?


『それはあなたの心に

直接声を掛けているからです。』


心に直接?どういう事だ?

そんな非現実的な・・・。


『私はあなたに問いました。

"人生をやり直したいか"と。』


女性の声は私の疑問を無視して

言葉を続けた。


『やり直させてあげましょう。

その代わり、あなたには

世界を救ってもらいます。』


・・・はい?


世界を救う?

確かにあの少女はそんな事を

言っていたが・・・。


あれは夢では無かったのか?


『夢ではありません。

あなたが体験した事、

全てが現実です。』


そうか・・・夢では無いのか。


『はい。あなたは会社を解雇され、

駅で放心状態となっていた所に、

私が声を掛けたのです。』


何故、そのような事を?


『あなたには適性がある。

私がそう判断したからです。』


適性?

会社を解雇された私が

一体何の適性があると言うのだ?


『それはこれからのあなた自身が

証明するでしょう。』


女性の声はさも嬉しそうに言った。


『この世界は滅亡の危機に

瀕しています。


あなたにはこの世界を

救ってもらいます。』


この世界?何を言っているんだ?


確かに最近世界情勢が変わって、

戦争やクーデターが

絶えない国があるが・・・。


『ここはあなたの居た世界とは

全く別の世界。


あなたはこの世界を

救わねばならない。』


別の世界だと?

いきなり何を・・・。


『まずは巫女を頼りなさい。

あの娘は力になってくれます。』


巫女?巫女ってあの神社にいる

赤袴の巫女の事か?


『そうです。


・・・そろそろ時間です。

私はこれで失礼します。』


ちょっと待て!


何故私が世界を

救わねばならないんだ?!


訳がわからないぞ!

そもそも別の世界って何だっ!


『今にわかります。


世界を・・・頼みましたよ。』


段々女性の声は遠くなっていく。


おい待て!

一体どういう事だ!


世界を救う?


お前は何を言っているんだ!


「説明しろ!!」

「いたっ!」


私は額に猛烈な痛みを感じた。

どうやら何かが額にぶつかったようだ。


それに今、

先程の女性の声とは違う声が

聞こえたような・・・。


「お、お目覚め?」


声の方向を振り向くと、

そこには額を擦っている

涙目の少女が座っていた。


「説明して欲しいのはアタシの方

なんだけどねっ!」


少女は唇をへの字に曲げながら

呆然とする私の腰から何かを取った。


どうやら額が痛いのは

彼女の額に頭突きをかましてしまった

からかもしれない。


「今取り換えるから、

ちょっと待ってなさいよ!」


少女の手には布のような物が

握られており、

傍らにある桶に入れると

私に向き直った。


「ああ・・・すまない。

もしかしたら、

当ててしまったのだろうか?」


「は?何が?」


見るからに不機嫌な少女に分かるよう、

私は自分の額を指差した。


「当たったわよ!

人が折角看病してあげてたのに!

まさか頭突きされるなんてね!」


「す、すまない・・・。」


私は辺りを見回した。


部屋は木造で出来ており、

私は布団の上に居た。


少し控えめの四角い窓からは

気持ちの良い風が入ってきている。


「あなた、もう気分はいいの?」


少女は桶の中から布を取り出し、

軽く絞ってから私に手渡した。


「あ、ああ・・・ここは?」


受け取った布はひんやりと

気持ちが良く、

私はその布を少し痛みの残る額に

当てた。


私の知り合いにこんな少女は居ない。


私を看病してくれていたそうだが、

病院や警察が

私と繋がりのある人物以外に

私の身柄を引き渡すとは考えにくい。


「神社だけど?

アタシを見てわかんないの?」


少女はそう言って私に

服を見せた。


よく見るとこの娘、

紅白の袴を身に付けていた。


「巫女・・・なのですか?」


確か先程、

あの少女が言っていたな・・・。


「他に何があるのよ?」


少女は呆れ顔になりながらも、

私の言葉を肯定した。


"巫女を頼れ。"


確かにあの少女はそう言っていた。

それがこんな年端もいかない

子供の事だと言うのだろうか?


「それで、君は何故私の

身元引受人に?」


「みも・・・何それ?」


身元引受人の言葉を知らないのか。

なら、この娘の両親がなってくれたの

だろうか?


「そうですね・・・。

分かりやすく言えば、

施設から私を

引き取ってくれた人って意味です。」


少女は首を傾げた。

やはり分からないか。


「あなたは人里で倒れてた所を

人間族がここまで届けてくれたのよ。」


・・・ん?

ヒトザトで倒れてた?


ニンゲンゾク?


「わ、私は施設に居たんじゃ

無いんですか?」


「シセツ?

何を言ってるかわかんないけど、

そんなものここには無いわ。」


ど、どういう事だ?


「そんな事よりアタシの質問にも

答えてよね。


何であなたは倒れてたの?

それに人里のみんなは

あなたの事は全然知らないらしいし。」


倒れていた?

私は確か駅のホームで・・・。


「わからないの?」


頷く。

何がなんだかさっぱり分からない。




「ヒトザトって

何かもわからないですし、

ここが何処かもわからないですね。」


少女は目を見開いた。

よほど驚いたらしい。


「あなた、人里も分からないの!?」


「それは何なのでしょうか?」


「人間族の里よ!

あなた人間族でしょ!?」


「ニンゲンゾクとは・・・?」


「・・・!!」


絶句。

少女は口をあんぐりあけたまま

動かなくなってしまった。


「あの・・・私何か気に障ることでも

言ってしまいましたか?」


私の言葉に少女は我を取り戻し、

ゆっくりと口を開いた。


「あなたは・・・誰?」


その目は先程の少女とは違い、

殺気の篭る、鋭い目付きだった。


「ま、松村啓太(まつむらけいた)

40歳独身です。」


私が自己紹介すると、

少女は更に眉間にシワを寄せた。


「ふざけないで!

あなたのどこが40歳なのよ!


あなたは誰っ!

ちゃんと答えないと殺すわよ!」


少女は私の胸ぐらに

木の棒を押し当てた。


神社の神主さんが祈祷の際、

左右に振るあの棒だ。


というか、

私は外見どうみてもおっさんなのに、

40歳に見えない?


訳がわからない。

それに殺すって・・・。

最近の若い奴は過激な言葉を使うな。


そもそも少女は何故怒っているんだ?


ふと、私は自分の躰に目を落とした。


「・・・!!」


今度は私が驚いた。


無いのだ。

あの中年太りした下っ腹が。


それに腕も筋肉がかなりついていて、

肌もどこか若々しかった。


「ど、どうなって

いるんですか・・・?」


「それは私の台詞よ!」


少女は持つ棒に力を更に込めて、

私に強く押し付けた。


「私にも、何がなんだか

分からないんです。」


「・・・え?」


棒の力が少し弱まった。


ここは、正直に打ち明けるべきか。


「私は目が覚める前、

駅のホームに居ました。


そこで謎の少女に出合い、

意識を失ったかと思うとここで

あなたに出会ったのです。」


「言ってる事の意味が

分からないのだけれど?」


「私も分かりません。

ですが、気付けば私は

ここに居ました。」


「本当に何もわからないのね?」


「はい。」


少女はゆっくりと私から棒を離し、

一息溜め息をついた。


「そう・・・。


人里のみんなもあなたの事知らない

みたいだったし・・・。


悪人でも無さそうね。」


悪人っ?!

そんな風に思われてたのか?!


「ごめんなさいね。

アタシも知らない人だから、

ちょっと警戒しちゃって。」


「は、はぁ・・・。」


「まず人里の事だけど、

"人里"は人間族が住む里よ。

山と山の盆地のような所で

みんな畑を耕したり、

物を作ったりして生活してるの。


次に"人間族"。

人間族はその名の通り人間で、

私やあなたが丁度それになるの。」


人里・・・。

人間族・・・。


この少女は何を言ってるのだろうか?


そもそもそんな里や村は

日本に存在するのだろうか?


少なくとも栃木には

そんな所は無かった筈だ。


もしかしたら別の都道府県に

運ばれたのだろうか?


それとも本当に、

私は異世界にやってきて

しまったのだろうか?


「因みにその人里とやらは、

何県なのですか?」


「ケン・・・?何それ?」


少女はまた、首を傾げた。


その少女の反応に

私は確信してしまった。





私は異世界に来てしまったのだと。

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