一歩
「つまりあなたは
違う世界から来たって言うのね?」
あれから私は
あの夢の中での少女の話を
事細かく説明した。
到底信じてもらえるとは思わないが、
やれる事はやってみようと思う。
「はい。
信じては貰えないと思うのですが、
事実、私はこの世界に・・・。」
「信じるわ。」
・・・え?
巫女の格好をした少女は
私の言葉を遮り、
そして私の手を強く握った。
「な、何故・・・?
自分でも言うのは何ですが、
かなり突拍子の無い話で
とても信じれる話とは
思わないのですが。」
「でも、あなた。
ここにいるじゃない。」
「た、確かにそうですが・・・。」
「・・・これを見て。
どうせあなた、
"神通力"を知らないでしょ?」
ジンツウリキ?
少女は胸ぐらから紙を取り出すと、
手でその紙を破り始めた。
数分もしない内に、
一枚の正方形の紙は
奇妙な形になった。
「これは・・・?」
「これは"式"と言ってね、
今からこの人形に術を仕込むの。」
これは人形の形だったのか。
言われてみれば人形をしてるような、
そうでも無いような・・・。
「こら!」
「あたっ!」
少女は少し頬を膨らませ、
持っていた棒で私を小突いた。
軽く叩かれたのだが、
案外痛かった。
「今失礼な事思ったでしょ?」
どうやら考えが顔に出ていたらしい。
私は両頬を軽く叩くと
真面目な顔を作って、
彼女に向き直った。
「はて・・・何の事やら?」
惚けてみたが、
少女はやはり不服そうに
私を一瞥し、軽く溜め息をつく。
「あんた・・・以外と言うわね。
まぁ見てなさい!」
少女は持っていた棒と"式"を床に置くと、
何やら呪文のような言葉を唱え出した。
「こ、これは・・・ッ!?」
驚いた。
何故なら少女が呪文を唱え始めると、
床に置いていた"式"が
むくりと起き上がり、
私の膝元まで独りでに歩いてきたのだ。
そして、"式"は私の膝の上に乗ると
ちょこんと正座をして
私を見上げていた。
まるで人形劇の人形のような、
自然な動きだ。
「糸は・・・無いですね。」
「どう?すごいでしょ!」
ドヤ顔で胸を張る少女は
さも嬉しそうに"式"の頭らしき所を
優しく撫でた。
「これはどうやって
動いてるんですか?」
私も試しに頭をつっついてみたが、
"式"は私の手を払い除けた。
「ほら、乱暴にするから!」
「は・・・はぁ。」
「これが神通力の力よ。
この力はまだ初歩的なものだけど、
他にもモノに命を一時的に宿したり、
空を飛んだりする術だってあるのよ?」
「す、すごい・・・。」
つまりこの少女は
私の世界で言う超能力、
"神通力"と言う力を
使うらしい。
「私達はね、
こんな風に色んな力が使えるの。
だからあなたがこの世に
急に降って湧いても
不思議じゃないわ。」
「そう・・・ですか。」
「さっきも言ったけど、
あなたはアタシを捕まえてどうこう
するとも思わないし、しばらくは
ここで生活すればいいわよ。」
・・・え?
「だってあなた、この世界に
いきなり来たんでしょ?
住む家無いでしょ?
野垂れ死にされても寝覚めが悪いし、
この神社にいれば?」
「そ、それは願っても無い
申し出ですが、」
「"ですが、"何よ?」
「そこまで私を信用するのは
何故なんですか?
出会ったばかりの男ですよ?」
私は何故この少女が私の事を
こんなにも信頼してくれているのか
わからなかった。
普通ならいきなり家に
得たいの知れない男が連れ込まれ、
面倒を見ろと言われたら
拒絶するのではないか?
「種明かししちゃうとね、
この神社には結界が張ってあるの。」
「結界?」
「そう。
もしその結界内に"心悪しき者"が
足を踏み入れたら、
天の裁きが起こるの。
でも、あなたには発動しなかったし、
話してみても平凡な人間族だと
思ったから、信用したの。」
『ま、頭は固そうだけどね。』
と、少女は私の頭をぽんぽんと
軽く叩いた。
結界とか天の裁き等は
よく分からないが、
どうやら神社ここに
住まわせてくれるらしい。
「お世話になります。
えっと・・・?」
「ああ!自己紹介まだだったよね!
私は清瀬陽菜!
巫女をやってるか弱い女の子だから!」
自分でか弱いって言ってるよ・・・。
「改めて、よろしくお願いします。」
私は右手を差し出した。
だが、その手を
取られることは無かった。
「あ!御飯作ってるんだった!
ちょっと待ってて!」
清瀬さんは素早く立ち上がると、
慌ただしくこの部屋から
出て行ってしまった。
ーーーその後、私の前に出された
"御飯"と称される"雑草のような何か"は、
とても食えるような品物では無かった。
ただ雑草を茹でただけの
料理とも言えない"何か"を、
清瀬さんは嬉々と頬張っていた。
・・・これはいけない。
精進料理にしては少し行き過ぎている。
「清瀬さん・・・。」
「ふぁに(何)?」
「明日からは私が料理を
作らせて貰ってもいいですか?」
私は炊事を自分が担当すると申し出た。
当然だ。
育ち盛りの清瀬さん程の年頃で、
この料理は悪影響過ぎる。
よくよく見れば、
清瀬さんは全体的に痩せこけていて、
特に胸の辺りには
女性の象徴と呼べるべき箇所が
見当たらない。
「何?私の料理が食べれないっての?」
あからさまに不機嫌になった。
これはちゃんと
はっきり言った方がいいな。
「食べれない事は無いです。
ですがこの料理は栄養が無さ過ぎる。
私はここに来る前に独り暮らしを
していたので、
自炊は人並みに出来ると思います。
大丈夫。
明日は私に任せて下さい。」
「~・・・。
わかった。」
清瀬さんは不服そうだったが、
私は何とか
明日の朝食を作る許可を得た。
そうだ。
子供はよく食べて、
成長しなければならない。
その為にはより良い環境を
作らねばならない。
神社に住まわせてくれるなら、
これぐらいしないと罰が当たってしまう。
さあ、明日からは忙しくなるぞ。
私は心の中で小さく気合いを入れた。




