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残夏の園(改訂版)  作者: ずんだもち
二章 軋轢
24/26

一族

ーー回想 清瀬陽菜視点ーー



私は普段通り、

境内の掃除に勤しんでいた。

山頂に位置していることもあり、

この神社には定期的に開かれる

妖怪四部族会議の時以外は、

他人が訪れる事はまず無い。


さしてゴミが落ちてるわけでもなく、

ただ暇潰しに掃除をしているだけだ。


「き、清瀬さん!」


いきなり背後から声をかけられ、

私は少し驚いたが、

振り向いた時、それ以上に驚いた。


「ど、どうしたんですか!」


声の主は夜雀族の若者だった。

若者は左肩の肉が無く、

骨がはみ出していた。


滴り落ちる血が痛々しい。


彼は痛め付けられていた。


ーーー自然治癒能力が追い付かないほどに。


「助けてください!」


荒い息も絶え絶えに、

若者は必死に言葉を絞り出す。


聞けば、

夜雀族の里が何者かに襲撃され、

自分は死に物狂いで

助けを求めに来たという。


「わかったわ!

とりあえず貴方を助けるッ!!

手当てするから、こちらに!」


「私は・・・もう駄目で・・・す。

それ・・・よ・・・り、

里・・・を!里を!」


肩を貸そうとした

私の手を痛いぐらい握る。


「あなた夜雀族でしょ!?

自己治癒力高いんでしょ!?

簡単に諦めないで!」


ーーー夜雀族の自然治癒能力が追い付かない。


有り得ない事態に私の気は動転していた。


「頼みます・・・!

一刻もはやく!よ・・・っ!」


若者が言葉を最後まで

言い終わる事はなかった。

地面に若者の顔が転がる。


恐る恐る若者を見ると、あるべき所に

ソレは無かった。


ーーー首が!


「!!」


私は咄嗟の出来事に呆然とした。

先程まで必死に助けを

求めてきた人物が、

急に動かなくなった。


初めて直面する、人の死。


「う・・・ぁ。」


何をすればいいのか解らない。

巫女として彼を弔うのが先?

里がどうとか言ってたけど・・・。


冷静を失った私は

意味もなく若者の頭を持ち上げた。

生暖かい"生首(それ)"は、

思ったよりも断然重たい。


「!!」


悪寒が走り、

急いでその場から飛び退く。


数秒もしないうちに、

私が立っていた場所に

鋭利な無数の刃物が降り注いだ。


誰かいる!


しかもそいつは私を殺そうとしている!


しかし、

私がそう気付いた時にはもう遅かった。


「ヒヒヒ・・・盗った。」


男の声。


目の前に無数のナイフが現れる。


・・・あ、やば・・・・。


堪らず目を閉じる。

肉に刃物が刺さる音が

何度も何度も木霊する。


「・・・あ、あれ?」


ーーー激痛は無い。


・・・私は生きていた。いや、

"助けられていた"。


恐る恐る目を開けてみると、


「あ、あなた!」


若者の身体が私を庇うように

真正面にあった。


"夜雀族は短命だが、

治癒能力に長けている"


胴と首が離れても尚、

彼は巫女である私を守ったのだ。


自分達の里を守る

唯一の"希望の光"。


こんな所で死なす訳にはいかない、

若者の最後の意地だった。


「ど、どうして!?」


身体に触れると、

役目を終えた若者の身体は

勢いよく地面に倒れた。


びちゃり、と。

血の海に若者の胴体が倒れる。


「ヒヒヒ・・・。死んだ?死んだ?」


下卑た笑み。


「あ、あなたは!」


茂みの奥、

木陰の中に、男が一人現れた。

覆面をしており、

顔は確認できなかった。


人間族か、小鬼族。

はたまた妖狐族のような体格の男だった。



「巫女に助けを求めるのは

誤算だったねえ・・・ヒヒヒ!」


男はそれだけ吐き捨てると、

山の奥に消えていった。


急に来た重症の夜雀族、

それを殺した男。


「舞さんが危ない!!」


私は夜雀族の里に急いだ。


ーーーーー

夜雀族の里。


辺りには血生臭い臭いと

ものが燃える臭い、

そして人が燃える臭いが入り交じり、

見るも躊躇うような状態だった。


「グオオオオオォォォォ!!」


「い、いやぁぁあああ!?」


鬼は夜雀族の女性を捕まえ、

髪を掴んだ。


「ヒヒヒ!

いい声で泣きやがる・・・!


お前もあいつらと

同じようにしてやっからよォ!」


鬼を従えた男が指した方向には、

夜雀族の女性の死体が

大量に積んであった。


どれもこれも身体に

乱暴を受けた跡があり、

乳房は噛み千切られ、股は裂け、

腕は切り落とされている。


「ひいいいいい! 」


女性はこれから自分に

降りかかる災難を想像し、

悲鳴をあげた。


「お願いします!なんでも!

なんでもしますから!

殺さないで下さい!」


女性の必死の懇願には訳があった。

腹の中に子供がいたのだ。


「なんでもだとぉ?」


下卑た笑みを覆面の下に浮かべた男は

鬼に何か命令する。


鬼は醜い顔を更に醜く歪めた。


「お腹の!

お腹の中に子供がいるんです!」


夜雀族の女性は必死だった。

自分一人の命じゃない。


「じゃあこいつを殺せ。」


女性は目を見開いた。

連れてこられた男は、自分の夫だった。


手に包丁が握らされる。


「どうした?殺せないのか?」


男は私達の関係を

知っているようだった。


鬼は私の手を握り、

夫の喉に切っ先を向ける。


血みどろの夫は、ゆっくりと頷いた。


ーーー殺してくれ。



そんな!私にはできない!

私に、貴方を殺すなんて!


嫌々と首を振った彼女だったが、

最悪の手応えを彼女は

全身で感じた。


「う・・・、あ?」


夫が力なく崩れ落ちる。


なんで!?なんでっ!!


「あーあ。健気だねえ。

自分から刺さりにいっちゃったよ」


周りの鬼達は下品に笑い始めた。


「そ、そんな・・・。」


もうすぐ生まれる子供、

早く抱いてやりたい、

そう話していた夫が、どうして。


「何て顔しやがるんだ?

次はお前だぞ?」


・・・え?


「は、話が・・・ちがっ!」


「ヒヒヒ!おーいみんなぁ!

こいつは、この男を殺したかぁ!」


そう言って鬼は夫の顔を踏みつける。


「グオオオオオォォォォ!」

「グオオオオオォォォォ!」

「グオオオオオォォォォ!」


「そうだ。勝手に自分から

刺さりに来ただけだな!」


残酷な笑みを浮かべる男と鬼達。


「そ、そんな!」


「じゃあ続き、始めようや。」


鬼の下品な笑い声が木霊する里で、

女性は絶望した。


清瀬陽菜が夜雀族の里に着いたのは

それから数十分後の事だった。



ーー清瀬陽菜視点ーー


私は夜雀族の里にようやく

着くことができた。


神通力"転移の術"は自分に使えない。

だから私は神社から全速力でこの里に来た。


里は、凄惨な状況だった。

夜雀族は鬼に蹂躙され、

好き放題やられている。


里全体が血生臭い。


私は式神を駆使し、

迫りくる鬼どもを退治していく。


鬼といっても、下等な部類(言葉すら喋れない)だったので、

大抵の鬼は私の式神が

消してくれている。


私はその内の下衆一匹を取っ捕まえた。


「あんたの!あんたのボスはどこよ!」


術で顔だけにした醜い鬼を見下す。


「グオオオオオォォォォ!」


首を左右に振り、

自分は知らないと

しらをきっているようだが、

問い詰めてる時間はない。


「使えない木偶の坊ね!」


私は指を軽く鳴らした。


すると鬼の頭の上から

消えたはずの鬼の身体が

細切れにされて降り注いだ。


私は背後から聞こえる断末魔をよそに、

族長の家へ向かった。


「舞さん!」


勢いよく扉を開ける。

そこには信じられない光景が

広がっていた。


広い部屋。その至るところに

夜雀族の死体が転がっていた。

部屋の中央、

鬼達が異様に集まっている所からは、

女性の叫び声が聞こえる。


その声の主は・・・・。


私の中で、何かが切れた。


「てめぇら何してんだぁぁぁぁあ!」


私の声に気づいて鬼どもが

何匹か向かってくる。


私は用意していた札を

鬼達に張り付けていく。


「・・・グア?」


必死に剥がそうとする鬼。


「滅ッッ!」


私の号令と共に、

札が勢いよく燃え上がった。


「グオオオオオォォォォ!?」


醜い悲鳴を上げる鬼は、

堪らず仲間に助けを求めようと近づく。


「グオオオオオォォォォ!?」


火は鬼から鬼へと燃え移る。


「畜生!てめえら!ずらかれ!」


神社で私を襲った男が言葉を発すると、

鬼達はどかどかと建物から出ていった。


「待てやああああああ!」


私が声を張り上げても、

奴等は戻ってこなかった。


「だ、大丈夫ですか!」


「は、はる・・・なちゃ・・・ん。」


鬼の精液でベトベトに

なっている女性を助け起こす。


やっぱり舞さんだ。


「わたし・・・わた・・・し。」


「しゃべらないで!

もうすぐ救助がくるから!」


ここにくる途中、式神で助けを呼んだ。

そろそろくるはずだ。


「でも、わた・・・し、

勇樹さんを・・・ッ!!」


沢見勇樹(さわみゆうき)

舞さんの旦那さんだ。


勇樹さんは隅に積まれていた。


死体と一緒に積まれていた。


・・・まだ息はある!



「舞さん!大丈夫!生きてます!」


舞さんが何か言おうとしたとき、

部屋に白服の格好をした人が

大勢入って来る。


道中で式神に呼ばせた

人里の診療所医師達だ。


「大丈夫ですか!

すぐ診療所に連れていって

あげますからね!」


舞さんと勇樹さんが、

担架で運ばれていく。


「うぅっ・・・!」


小さなうめき声をあげた舞さんを見て、

診療所の人は顔を青ざめた。


「お、おい!急げ !」

「了解!」


医師を見送り、

私は再度里を見回した。


悲惨だ。


至るところに黒煙がたちこめ、

死の臭いが辺りに充満している。


人里から駆け付けた人々は、

涙を流しながら

夜雀族を弔っていた。


人間族と夜雀族は

あの事件から決定的な溝がある。


だが、その溝があっても尚、

人間族は夜雀族の死を自分の事のように哀しみ、

命ある者を助けようとする。


私は人間族だけど、贔屓目抜きにしても

そんな彼等を誇りに思った。

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