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先程の鍛練では最後の最後で情けないことになってしまった。
けれどあまり落ち込んでもいられず(軍師に再三注意されたし、柳栄様から祠苑様に告げ口されてしまう可能性もあるから)次に活かそうと気持ちを切り替えてしばらく。普段通りに木簡処理をする私と軍師のもとへ、普段とは少々様相の異なる木簡の山が届けられた。
「軍師、こちらは?」
今まで私が軍師の仕事を手伝う中で、このようなことは初めてだ。
基本的にその日処理を必要とする木簡は朝一番に文殿や紅殿から届けられ、それに軍師が目を通して判を押したり文章を追加したり。更にそれを私が決められた場所に届けることで一つの流れになっている。急な追加分が来ることもあるが、それはあったとしても日に五つほどでこれほど大量ではない。
それに木簡全てに金の紐がくくられているのも気になるところだ。
「あぁ、ようやく来たか。玲湶、そこにある木簡の内容はお前も頭に入れておけ」
「……こちらに積まれているもの全て、ですか?」
これまでの木簡整理の中でも一応は内容に目を通していたのだが(そうでなければどんな資料が必要か分からない)、こうして改めて指示されたのは初めてだ。
「そうだ。志宇も近く軍議――遠征に関する説明があると言っていただろう。軍議についてはどこまで理解している?」
「確か戦略は大筋を軍師がお考えになられ、軍議で細々とした変更点を確認していくと聞きましたが…」
「そうだ。軍議までに俺が策を練り、それに他の武官達の目を通すことでより確実なものとする。
お前は補佐官なのだから、策の大筋を知らんなどあり得んことだろう?」
確かにその通りだろう。
軍議は矜牙軍師が主体となって行うもので、補佐官の私は彼の傍に立つ。軍師補佐官が軍略について何も知らないなどと、木偶の坊もいいところだ。
「この木簡は俺が策を練るために必要と考えた資料だ。これから普段の決済は数が減り、遠征の計画のためにさく時間が多くなる。
遠征に関わるものには全てその紐がついているから、必ず全て目を通すようにして内容を忘れるなよ」
「かしこまりました」
「それと、俺はお前の意見も取り入れていくつもりだ」
「は………私の、ですか?」
思わず問い返した私に矜牙軍師は口の端をつり上げた。
何かを試すような色と、同時に企むようでもあるそれ。
「武官の意見は貴重だ。俺は戦いがからきしだからな。策を練ったとして毎回実際に戦う者の意見で修正される箇所が多い。だが予めお前に話を聞いておけばある程度はそれも少なくなるだろう。
長々と軍議を開いても思考が回らなくなるだけで役には立たん。己の意見だけを押し通すつもりはないが、俺はなるべくそういうものを手短に終わらせたい。その役に立て、玲湶」
軍師の言っていることは確かに分かる。
要は無駄をなくすためだ。恐らく私が何かを進言したとしてそれが完璧に反映されることはなく、無価値なものなら矜牙軍師は躊躇いなく切って捨てるだろう。
けれど、それでも緊張するというか焦るというか、それは仕方がない事だと思う。
「ど、努力致します…」
「ふん、こういった内容には自信のない返答ばかりだな」
それはその、結局のところ私は戦いを得手としているし、戦術に関しては殆ど無知と言っていいためだ。
科挙の内容には戦略に関するものは皆無。まあ科挙は文官を登用するためのものであるためそれは仕方がないと言える。
対して武挙は違うかと言われればそれも微妙だ。武挙で問われるのはいくつかの書物にされているような有名な戦略についてで、それも内容を記憶しているかどうかの単純な暗記問題。そもそも基本的に武官に取り立てられたものは一般武官としてしばらく働き、その中で更に戦術を学んで位も上がっていくため武官になって数ヵ月程度の私にそのような知識があるわけもない。自分一人のための戦術なら柳栄様との戦いの経験で何となく体も動くし行動の予測もたてられるが、大勢の人間が動く軍略など問題外もいいところだ。
しかしそれを言っても仕方がない。結果的に申し訳ありませんと頭を下げれば、軍師は呆れたような顔をした。
「お前は少し反抗と言うか……もう少し言葉を重ねろ」
「言葉、ですか……?」
何が言いたいのか把握できず首を傾げればため息が返ってくる。
「別にお前達新人武官が軍略にさして詳しくないことは知っている。知っているが、言わねば分からんこともあるだろう。きちんとお前の考えやその背景を言えと言っているんだ」
「………努力いたします」
確かに言われてみればそうかもしれない。
私は知らないことが多く、だからこそ全てをそんなものかと納得したり鵜呑みにしてしまうから。それに上官の言葉には基本的に逆らったりしないものという意識が頭の中にあるため、軍師の言うようなことは不得手だ。でも折角矜牙軍師がこう言ってくれたのだし、これから少しは改善していった方が良いのだろう。勿論、基本としては上官に絶対服従ではあるが。
「ならいい。玲湶、こっちの木簡を届けてきたら暫くさっき言ったものを見ていろ。そこの卓を使っていい」
「かしこまりました」
陽の高さで判断する限り、時刻はもうすぐ昼時。
出来るなら昼食までに少なくとも現在置かれているものは全て頭に入れてしまいたい。急いで行った方がよさそうだ。
そしてどうにかその目標を達成できた私を、卓を挟んだ向こう側に座る柳栄様は微笑ましそうに見つめおかずの肉団子を咀嚼した(ちなみに軍では毎日食事が無料で支給される)。
「なんか二人が並んでるところ、いつ見てもにやけちゃうな」
「そう、でしょうか?何かおかしなところでもありますか?」
「放っておけ。馬鹿の相手をするだけ無駄だ」
「そういうところが、特に微笑ましくていいね」
矜牙軍師にバッサリと切られても柳栄様の笑顔が曇る様子はない。
ここ数日連続で共に昼食をとっているわけだが、どうもお二人はいつもこのような様子で楽しく過ごせている様だった。
初期にはそれはもう胃がキリキリとした痛みを訴えてきていた私だが、今となってはさすがに慣れてきた。今日も曖昧な笑みを浮かべつつ何となく会話を流すだけだ。
「そう言えば今日から矜牙のところに運ばれる結界外の情報を見させてもらってるんだって?」
「はい。今のところは地形の把握だけで精一杯ですが…」
「頑張ってるみたいだね。地形を覚えたら他の隊の鍛錬を見せてもらうといいよ。
どの隊にどんな戦い方をする人間がいるのか、それを頭に入れておくと色々捗るから。配置とか考えやすいし、乱戦になったとき対処がしやすい」
なるほど。確かに私が把握しているのは火鉾の隊員のみ。他の隊については全くの未知数だ。
ふむふむと頷きながら片付いた食器を片づけていけば、同時に食べ終えた柳栄様も同じようにする。
それを受け取り取り敢えず端に避け茶の準備だけをしてもう一度席に着けば、未だ食事中の矜牙軍師から不可解な目線を投げかけられた。
「お前たちはどうしてそう食事が早い…」
「そりゃあ軍人だし。ゆっくり食べてたら襲われたとき大変でしょ?」
「ここに敵襲があるとでも?」
「いやー、大切なことは普段からって言うじゃないか。ね、玲湶?」
こちらに話をふられても。
「そうですね……確かに気をつけてはいますが、もう癖になってしまって。あまり下品になりすぎないようには気をつけているのですが」
「別に玲湶の食べ方は下品じゃないよ?祠苑の教育が行き届いているからそこらのご令嬢なんて目じゃないくらいだしね」
「ありがとうございます」
礼儀作法を褒められるのは嬉しい。
そういったものは汚らしい浮浪児だった私に、ひとつひとつ祠苑様が教えてくれたものだから。
「………こいつはいつもこうなのか?」
「まあ大体ね。自分を褒められるより祠苑が褒められた方が喜ぶんだ」
矜牙軍師に呆れた顔をされてしまったのは恥ずかしかったが。
けれど私の家族である祠苑様は本当に素晴らしい方だし、何より、そう、家族、を褒められるのは、うれしいことだと思うのだ。
「――戦い方と言えば、まだ朝のことについて聞いていないぞ」
朝の事、というのはやはり鍛錬についてだろう。
けれどどうして私がああいった対応に出たかについてはすでに答えたはずだ。他になにがあっただろう。
首を傾げればそれにつられて何故か柳栄様まで同じように首を傾げる。その様子に軍師は眉間にしわをよせた。
「柳栄、わざとらしい動作は止めろ。
俺が聞きたいのはお前の跳躍力と力についてだ。いくら軍属と言えど女であるお前に、俺を抱え跳び上がる程の力があるとは普通考えられん」
「あぁ、その説明はまだだったんだ。確かに理由を聞いておかないと気になることだよね。矜牙なんて実際に抱えられたわけだし。あはは、あの時のギョッとした顔、初めてみたなぁ」
「五月蝿い」
嫌そうな顔をする矜牙軍師。
やはり必要なこととは言え男性にとって女に抱えられるなど恥なのだろうか。祠苑様も避けた方がいいと以前仰っていた。
「そうですね、確かに私はこのように貧弱な体つきをしていますから、疑問に思われるのも無理はないかと思います」
「玲湶、貧弱の使い方がなんか違うと思うよ」
「そうでしょうか?」
大して筋肉もない、軍人としては情けない限りの身体だということを表そうと思ったのだが、どうもズレているらしく首を傾げる。
「柳栄には構わんでいい。さっさと続けろ」
「そうでしたね。説明と言っても私自身確かなことは分かっていないのですが、どうやら私の天威によるもののようなのです」
「天威?」
「玲湶は俺みたいに天術が苦手なんだけど、俺と違って天威は十分あるんだ。
だからそれが天術として外に放出されない代わりに内に向かって働いているんじゃないか、っていうのが俺と祠苑の見解」
私の身体の事については祠苑様も柳栄様も頭を悩ませてくれて、その結果がこれだった。
私には天術の才能がサッパリ無いため、体内の天威の動きすら掴むことが出来ない。それは天威が殆どない柳栄様も同様だ。
だから私が身体を動かす時に祠苑様に私の天威の動きを探ってもらって、どうやら戦闘時に身体に力を入れるとそこに天威の力が溜まるようになっているらしいことが判明した。実際のところこれが真実なのか分からないが、まあ他に説明の手段がないため仕方がない。
その事を治癒能力の上昇についても付け加えながら柳栄様と共に説明してみれば、若干不審そうではあるものの矜牙軍師は頷いてくれた。
「あまり聞いたことのない話だが、まあ実際に目にすれば否定も出来んな」
「あれだけ高く跳べばね。それも抱えられて」
柳栄様の言葉に軍師の眉間のしわが現れる。やはり抱えるのは少し避けた方が良さそうだ。
そして夕の鍛練の時刻になり、私は矜牙軍師と相対するという初めての状況に臨んでいる。
私達を取り囲むのは今朝の鍛練で協力してくれた永莉と志宇大佐(碧羅と飛瑛は仕事があるらしい)。
若干二人の表情がやつれて見えるのは、相当柳栄様にしごかれた結果なのだろうか。
「では始めるか。玲湶、何かあれば言え」
しかしそんな周囲を意に介さず(無視、とも言うかもしれない)矜牙軍師はこちらを見つめた。そこに些かも気負う様子はなく、軍師の自らの天術に対する自信のようなものが窺える。
私は一度しかそれを見たことはないが、確かにそれも納得だ。それだけの力を矜牙軍師は持っていた。
「……では、まずは矜牙軍師が咄嗟に張ることのできる結界をお願いします。私が攻撃しますので、それを防いでいただきたいのです」
「なるほど、朝の再現ということか」
無言で頷く。
朝の鍛練では私が無理矢理防ぐに留めたが、実際のところあれで正解だったのか。それを確かめるためにも、これからのためにも再現は必要だ。
「勿論もしも結界を破壊してしまいましたら軍師に攻撃が当たる前に止めますので、ご安心ください」
「ほう?そんなことを言うということは、自信があるようだな?」
試すように言われて困ってしまう。
一応私にもそれなりに自負はある。あまり謙遜しすぎると逆に不遜に感じられるし、朱家のための力は私の誇りだから。
けれど今回ばかりはどんな態度をとるべきか。私としても現時点では軍師の結界を破れるという絶対的な自信はないし、しかし逆に破れないという諦めもない。
「誠心誠意努力いたします」
結局私はそう言うだけに留めた。
軍師は不敵に唇の端だけを持ち上げ、いつでも来いということだろう、軽く顎をしゃくった。
まずは天具を使わず自分の身体だけで試してみようと軍師の指示に従う形で構えをとるが――
「どうした?さっさとしろ」
…………どうしよう。やりにくい。
冷静に考えて矜牙軍師は私の直属の上司な訳で、私の護衛対象だ。そんな人を攻撃するなんて、本末転倒ではないか。それに軍師補佐の任についてそれなりの日々が過ぎ、目の前の彼が従うべき相手であることが身体に染み付いてきている。
だからこそ構えをとったはいいものの、私はその場から動けないでいた。
「おい、まだか」
軍師がちょっと苛々している。寄り始めた眉間に動かなければと思うのだが、如何せん身体が…
「玲湶様、軍師は祠苑様の敵――」
ヒュ、と何を考えるでもなく身体が動いた。
どうにか反応できたらしい相手の張る結界を全力で打ち砕く。僅かに抵抗を感じはしたが、どうということはない。このまま首を、意識を命を刈り取り、私の家族に敵意を示したことを死後の世界で後悔すればいい。
「ではありませんよ」
「…………っ!」
すんでのところでどうにか手を止めることができた。目前に迫った首筋を私の手が掴むまで、あと数瞬も無かっただろう。ふ、と詰めていた息を吐き出せば同時に纏う殺意も霧散する気がした。
落ち着け自分。ただの虚言に熱くなりすぎだ。
ゆっくりと手をおろし目の前の彼を見つめれば、その人は強張った笑みらしきものを浮かべた。
「永莉 、貴様………いい度胸だな?」
「申し訳ありません。軍師がどうにも早く済ませてしまいたいようでしたので、私なりに知恵をしぼってみたのですがお気に召されなかったようですね」
「わざとらしく嘘を吐くな。どう考えてもわざとだろうが」
「きょ、矜牙軍師、申し訳ありません…」
カラカラに渇いた喉でどうにか謝罪を述べれば微妙な目線を返された。
赤い瞳から降り注ぐ無言の呆れが痛い。自然と身体が縮こまる気がする。
「お前は実家のこととなると我を失うのか」
「申し訳ありません……」
「玲湶様だけでなく私を含め、朱家の者は皆そういうものなのです。
ですのである一定の条件を軍師が満たさない限り仕方がありませんよ」
「一定の条件?」
矜牙軍師は訝しげに眉をひそめたが、それに永莉が口を割ることはない。勿論私も。
何故ならそれは朱家の秘密だから。一族以外でそれを知るものが存在してはならないのだ。
「ま、まあ仕切り直しするとしましょう。
あれですね、軍師の結界はかなり簡単に破られちゃいましたね」
「煩いぞ志宇。こいつは規格外なのだから仕方がないだろう」
そうは言っているが矜牙軍師はどことなく悔しそうに見える。
「いえ、護衛が護衛対象よりも弱くては話になりませんから、こうでなければならないのです。それに軍師の結界は素晴らしかったですよ」
「粉々にした本人に言われても俺は機嫌を直さんぞ」
そ、それはそうかもしれない…
けれど彼の結界が強靭だったのは事実だ。
「確かに私は素手で破壊することが出来ましたが、志宇大佐では天具を使わなければ不可能です。永莉は天具で二撃、と言ったところでしょうか。
その他の火鉾の隊員では割ることすら難しくなるような代物ですので、位を持たぬ者やただ在籍している一般兵では話にもなりません」
「…………」
「……?」
「そうですね、確かに玲湶様の仰る通りかと」
何故だろう、永莉以外の二人がこちらを見て固まっている。
私が何かおかしなことを言ったのかとも思ったが、永莉は肯定してくれているし自分としても他者の強さを読み違えることはあまりないはずだ。
「れ、玲湶…?」
「どうかいたしましたか、志宇大佐?」
「………いや、なんでもない。俺の聞き間違いだったんだな、きっと」
申し訳なさそうな顔で大佐が謝ってくるが、まずその理由が分からない。
しかもそう言う彼は混乱の極地のような顔をしているから尚更だ。
「お前がそういったことを言うのは意外だな」
ただ軍師だけは面白そうな顔でそう笑う。そういったことを言う、とは何だろう。
「何か間違いがあったでしょうか?」
「いや、別に構わん。あながち間違いとも言えんからな」
「軍師、玲湶様に誉められたことで機嫌が直ったようですね。よかったです」
「黙れ」
「聞き間違いじゃないのか?玲湶が?あんなことを……?」
場が一気に騒がしくなってしまった。
と言うか結局のところ誰も私に説明してくれないのだが、これは自分で考えろということなのだろうか。
一人悶々としていればどうやら一応の落ち着きを取り戻したらしく周囲が静かになる。と言うか永莉と志宇大佐がいなくなっていた。天術の気配がしたから恐らく吹き飛ばされたのだろう。
「続けるぞ玲湶」
「……かしこまりました」
恐らく二人が消えた件に関しては触れない方が賢明だ。そう思って思考をそらす。
二人ともそれなりの実力者なので特に問題もないだろうし。
「先程の感覚で大体のことは分かりました。恐らく朝の場面であの術に頼っていた場合、将軍に破壊されてしまっていたかと」
「……まあ、お前に破壊されたのだからそうだろうな」
「ですがそれはあの結界ならば、という話です。軍師がもしも結界に属性をつけていたならば結果は変わったかもしれません」
天術は火、水、風、土という四つの属性と、それ以外の無属性というものに分けられる。
人により属性の向き不向きなどもあり、また一般的に無属性よりも属性のある天術の方が強力とされているのだ。
「属性か。簡単な無属性の結界が張りやすいことからそうしたが、やはり属性があった方がいいのか?」
「恐らくそうかと。矜牙軍師は属性の得意、不得意などはあるのでしょうか?」
「いや、どれもそれなりに扱える」
恐らく軍師の言うそれなり、というのは言葉通りの意味ではないだろう。きっとすべての属性を同等に、最高の力で扱えるに違いない。
つい羨ましさと尊敬からじっと矜牙軍師を見つめれば、彼は気まずそうに目をそらした。
「なら次は属性をつけるか」
「いえ、それには及びません。先程の結界であの強度ですから、属性をつけた結界どこまで防ぐことができるかは予測できます。二度手間にもなってしまいますし…」
「だからお前は気を遣いすぎると……まあいい。ならば次はどうする?これで終いか?」
まだ軍師の仕事は残っているし、私も遠征前になるべく多くの情報を頭に入れておきたい。だから早めに終わらせるべきなのだが…
「いえ、申し訳ありませんがもう少しお付き合いいただけますか?」
「構わん。好きにしろ」
「では軍師の力すべてを使った、最も硬い結界を張っていただいてもよろしいですか?
そして出来ればその持続時間も把握しておきたいのですが…」
どちらも軍師に無駄に力を使わせてしまう内容だ。それに後者は時間もとってしまう。
けれど矜牙軍師は私の要望に鷹揚に頷いた。
「わかった。ではまず強度からだな。
それと玲湶、明日の午後は他の隊の訓練を見てもらう。水掩は俺が、木癒と隠土は志宇が案内するが……都合がつかなくてな、金衛は悪いが一人だ」
「いえ、むしろ気を遣っていただいて、申し訳ない限りです」
「気にするな。部下のことだからな」
……何と言うか、酷く面映ゆかった。
いい加減慣れなければと思うのだが、どうにも矜牙軍師の私に対する部下扱いにいつまでも浮かれてしまう自分がいる。今朝もそれである意味失敗したと言うのに、困ったことだ。
「光栄、です。……ではその、始めてもよろしいでしょうか」
どうにか気持ちを平常に保とうと、私はついそらしてしまいそうになる瞳に力を込めた。




