第9話 疲弊
王都では、またしてもあの忌々しい地雷屋による被害が増え始めていた。
足の負傷や精神的なストレスを伴う爆発が、あちこちの路地裏や広場で再び頻発する。
これまで同様の魔力量を持ったものに加え、魔力量が減らされた『薄い魔力の塊』が混在するようになったのだ。
それは威力は低いものの、大きな脅威に隠れて警戒の目をかいくぐり、確実に小さな恐怖をばら撒いていた。
「報告しますっ、またです……!」
騎士団の作戦本部として使われている一室に、報告を抱えた部下が慌ただしく飛び込んできた。
私は山積みの調書から顔を上げ、険しい視線を向ける。
「被害の状況は?」
「はい……大通りにて、通行人が足元を負傷する被害が新たに発生しました。幸いにも、軽傷で済んではいるのですが……」
部下は歯噛みしながら、苦渋に満ちた表情を浮かべた。
「……見えづらくなったことで、『魔力視』の見落としが相次いでいるのね」
「左様であります。巡回の『魔力視』の技量はバラツキがあり……、練度の低い者では薄い魔力を捉えきるのは難しく……。正確に感知するためには、精度の高い『魔力視』を使える者でなければ難しい状態です」
そこで言葉を切ると、部下はさらに暗い顔で口を動かした。
「それに加えて……見落とした巡回の者たち自身が、被害に遭うケースも出始めております」
「なんですって……」
「そのせいで現場の者たちの士気は著しく低下しています。『精度の高い魔力視を使える者だけで巡回すべきだ』『恐ろしくて、巡回になんて出たくない』と口にする者まで現れる始末で……」
部屋にいた事務官たちが、一様に頭を抱えて重い沈黙に包まれる。
これまでよりも威力は下がったといえど、それでも足の指程度は吹き飛ぶレベルだ。
爆発に伴う痛みや、もしもっと威力の大きいものに当たってしまったらという恐怖……。
それを考えると責めることなど到底できなかった。
圧倒的な人手不足。そして、精鋭の頭数不足。
警戒を強めれば強めるほど、地雷屋はこちらのリソースの隙を的確に突いてくる。
このままでは後手に回るばかりか、王都の治安そのものがジリジリと削り取られてしまう。
「……なら、僕も現場に出よう」
静まり返った部屋に、よく通る落ち着いた声が響いた。
窓際の机で書類に目を通していたエドワード殿下が、すっと立ち上がる。その端正な顔立ちには、揺るぎない決意の色が浮かんでいた。
「殿下、しかしそれは――!」
私が慌てて制止しようとすると、彼はふっと優しく、しかし強い光を宿した青い瞳を私に向けた。
「危険だからと王宮の奥に引っ込んでいるわけにはいかないよ。それに、城内を警戒しても仕方がない」
エドワード殿下はそう言うと、静かに話を続けた。
「実は『魔力視』の話を聞いてからというもの、警戒のため王宮内でも常に『魔力視』を展開した状態で生活していたんだ。だが……城内で『魔力の塊』を捉えたことは、一度もない」
「……たしかに王城の敷地内では、一度も被害者は出ておりません」
「ああ。恐らく、犯人は城内の人間ではない。……そして、簡単には城内へ出入りできるような者でもないのだろう」
エドワードの冷静な分析に、私はハッとさせられた。
もちろんリスクを考えて城の中で犯行を犯していない可能性だってある。
しかし、これだけ派手に暴れておいて、さらにわざわざ新たな方法を使ってまで犯行を続けるような犯人だ。
もし城に出入りできるのでは、まず間違いなく城内にも仕掛けていたはずだ。
そう考えれば、王宮内はセーフゾーンと仮定して、普段から城に出入りできる人間は容疑者から外し、私たちのリソースは全て外部の捜査に集中させることができる。
「外部の人間……。だとすれば、ますます夜会や裏路地の酒場を渡り歩いているという『みみ』という少女の線が濃厚になりますね」
「その通りだ。僕の『魔力視』の精度なら、『薄い魔力の塊』であっても確実に看破できる。これ以上被害を増やすわけにはいかないし、直接現場に出てその尻尾を掴む方がよっぽど効率的だ」
エドワードの言葉と決意に、反対する理由はもうどこにもなかった。彼はただのお飾りの王族ではなく、並み外れた魔力と実力を持つ魔法の使い手なのだから。
「分かりました……。ですが、くれぐれもお気をつけくださいませ。私もすぐに手配を整え、あなたと共に捜査の陣頭指揮を執ります」
「ああ、頼りにしてるよ、エレノア」
王国の精鋭である王子自らが、最前線の捜査へと身を投じる――。
それは私たちにとって大きなリスクを孕んだ一手であると同時に、見えざる敵を追い詰めるための、反撃の狼煙でもあった。
☆ミ
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※この作品はAIたんとの共同執筆となります。




