第10話 反撃の狼煙
エドワードの現場参加を皮切りに、エレノアたちの反撃は着実に動き始めていた。
事件の傾向から、『薄い魔力の塊』は、大通りなどの人目につく場所には、殆ど置かれていない事が分かった。
(いくら見えづらいとは言っても警戒の最前線。より多くの巡回の目に触れる機会があるであろう場所は、明確に避けているわね……)
それを踏まえて、すぐに対策は講じられた。
エレノアの采配によって、騎士団の運用体制が組み直されたのである。
『魔力視』の練度が低い者単体での巡回はなくし、代わりに必ず精度の高い者とペアを組むバディ制度へと移行した。
これにより、見落としや巡回中の被災リスクは劇的に改善され、恐怖で崩れかけていた現場の空気も、少しずつその不安を拭い去りつつあった。
さらに、それを決定づけたのは他でもない、第一王子の存在だった。
エドワード殿下が自ら最前線の危険な路地裏の巡回に加わったという事実は、沈みかけていた騎士団の士気を劇的に押し上げたのだ。
王国の第一王子が、自ら危険を冒して兵士たちと同じ泥を歩き、冷たい石畳を見据えている。
その凛とした背中を見た若い兵士たちの間には、「殿下も共闘してくださっている」という安心感が広がると同時に、「私たちも弱音を吐いていられるか」という熱い闘志が再び宿っていた。
現場の統率は見事に引き締まり、騎士団はかつての強靭な組織としての規律を取り戻しつつあった。
「殿下、本日の西地区の巡回も異常なしです」
「ご苦労様。だが、気を抜かないようにしよう。犯人はまだこの王都のどこかに潜んでいる」
部下へとねぎらいの言葉をかけるエドワードの横顔は、紛れもなく信頼できる指揮官のものだった。
そして、現場の士気を立て直し防衛を固めているその裏で、反撃へ転じるための『もう一つの手』を水面下で同時に進めていた。
夜会や酒場の裏で、年若い娘たちに男たちが財を貢いで遊んでいるという『奇妙な遊戯』の噂――その中心にいる少女『みみ』への核心に迫るための極秘の囮捜査である。
彼女はまだ、自分が騎士団や王宮の捜査網にマークされていることを気づいていない。
もし彼女が本当に事件に関係しているのであれば、大々的に捜査や布告をしたりすれば、たちまち姿を眩ませる恐れがある。
だからこそ、この調査は秘密裏に行う必要があった。
騎士団の中でも顔がほとんど割れておらず、潜入捜査に長けている者を選抜し、一般市民や貴族を装って夜会や酒場を遊び歩かせる。
彼女の客として、接触することを試みたのだ。
☆
*
夜の帳が完全に下りた王都を見下ろすように、私たちは静まり返った執務室の窓際に立っていた。
「……そろそろ、動き出している頃だな」
窓の向こうの闇を見据えながら、エドワード殿下が低く呟く。その声音には、事件を終わらせるという強い覚悟が滲んでいた。
私は手元に用意していた書類から目を離し、彼の横顔に視線を向ける。
「えぇ……。うまく、いくでしょうか……?」
私の言葉に、エドワードはふっと硬い表情を緩め、柔らかな笑みを浮かべた。
「必ず成功するさ。エレノア、君のやる事はいつも正しいからね」
「……もったいないお言葉です。私はただ、民の平穏を取り戻し、この王都を守りたいだけですので」
端正な彼の笑顔に気恥ずかしさを覚え、私はおもわず視線をそらして書類を読むふりをする。
ふふ、とエドワードが小さく笑う声が、静かな執務室に響いた。
「書類を読むふりをしても、耳が少し赤くなっているのは隠せていないよ、エレノア」
「っ……! 殿下、からかわないでください。私は真面目に公務を――」
慌てて抗議しようとすると、彼は「すまない、すまない」と楽しげに両手を軽く上げてみせた。しかし、その青い瞳には仲間を、そして私を信頼してくれる確かな温かさが宿っている。
からかわれて悔しいはずなのに、不思議と胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じて、私は小さく息をついた。
――私たちがこうして束の間の穏やかな時間を分かち合っている今この瞬間も、混沌とする王都の闇の中では、私たちの反撃の駒が確実に歩を進めている。
夜会が開かれている邸宅や、喧噪で騒がしい酒場のカウンター。
そこに紛れ込んだ騎士団員たちが、噂の少女『みみ』の影を必死に追っている。
彼女が本当に地雷屋本人なのか、あるいは事件の核心へと繋がる糸口なのか。
その答えが出るのは、そう遠い未来ではないはずだ。
第一部完として、いったんここまでとさせてくださいorz
またいずれ続きが出来たら投稿します。
評価やコメント、ブックマーク頂けますと嬉しいです☆ミ
※この作品はAIたんとの共同執筆となります。




