第3話 聖女の伝承
「エレノア、少し疲れているのではないか?」
白薔薇が飾られたテラスの一角。
午後の柔らかな日差しの中、第一王子であるエドワードは、目の前に座る婚約者の顔を覗き込んだ。
綺麗に整えられた金髪に、聡明なサファイアの瞳。誰もが羨む端正な容姿を持った王子であり、心から愛する婚約者。
彼はカップに注がれた紅茶に口をつけ、優しく微笑んだ。
「城下で起きている例の連続爆破事件……『地雷屋』の件だろう? 君が責任感を強く持って取り組んでいるのは知っているが、あまり自分を追い詰めないでほしい。君が倒れてしまったら、僕が悲しむ」
「……ありがとうございます、エドワード殿下。お心遣いに感謝します」
私は胸のつかえを隠すように、そっと微笑みで返した。
彼に心配をかけまいとは思うものの、被害者の悲惨な姿や、未だ掴めない犯人の影が脳裏から離れない。
婚約者同士の親睦を深めるためのお茶会だというのに、私の気持ちは重く沈んでいた。
そんな私を見かねたのか、エドワードはカップをソーサーに置くと真剣な瞳で切り出した。
「実は……私も事件について調べていたんだが、『禁書庫』で少し気になる情報を見つけてね」
「!」
王家に連なるものだけが閲覧できる『禁書庫』。
禁書指定された文書や、古くから伝わる古文書、歴史関連の文献などが保管されているというが、そんな所まで調べていたとは。
相変わらず、穏やかな見た目と違って中身は行動力の塊だ。
「一体、どんな情報なのでしょうか」
「『聖女』に関する記録だよ」
「――聖女、ですか?」
私は思わず首をかしげた。
聖女といえば、神殿に祀られ、人々を癒やす奇跡の力を持つ存在として誰もが知っている。
歴史上でも困窮する民を救う愛の象徴として度々登場し、この国でも多くの人々に敬われ信仰されている。
だがそれは、あくまでお伽噺であり、伝説上の存在だ。
果たして本当に実在するかどうかは疑わしい。
「聖女と、今回の事件にどのような繋がりが……?」
「それがね」
エドワードの表情が、わずかに険しくなる。
「古い伝承の記録によれば……『聖女』とは、人々の魔力を集め、その莫大なエネルギーを変換して『奇跡』を起こす存在なのだそうだ」
「人々……他者の魔力を、集めて……?」
「そう。自らの力ではなく、周囲の人間から魔力を譲り受け、それらを燃料にして強大な現象を引き起こす……いわば”一種の魔力炉”のようなものだね」
エドワードのその言葉を聞いた瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。
(――《《複数名の魔力が混ざり合った》》かのように歪で、事件ごとに毎回異なる魔力)
「……まさか」
「どう? ……少しは役に立てたかな、エレノア?」
エドワードはサファイアの瞳を細め、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ええ、大きなヒントかもしれません。……ありがとうございます、殿下」
私は胸のざわめきを押し隠しながら、エドワードに礼を返す。
「そう言ってもらえると調べた甲斐があったよ。それで、これからどうするつもりだい?」
エドワードが興味深そうに身を乗り出す。
「そうですね……。魔力を集めて奇跡――遠隔で魔法を発動する仕組みがあるのだとしたら、やはり一番怪しいのは、人々の信仰を集める場所です」
私はカップを静かにソーサーへと戻し、まっすぐに彼を見据えた。
「私はこれから、聖女を信仰している教会をあたってみます。神聖な場所の裏に、何か隠された秘密がないか、直接調べてみる価値はありそうです」
「……なるほど、教会か。あそこは信者から信頼されているぶん、外部の人間が踏み込みにくいからな」
エドワードは面白そうに顎に手を当てると、すぐに満足げに頷いた。
「いいだろう。それじゃあ、僕も引き続き『禁書庫』で聖女に関する記録や、似たような事件の過去例がないかを探ってみるよ」
「殿下も、あまり無理なさらないでくださいね」
「はは、君に言われたくはないさ。お互い、せいぜい忙しく動き回ろうじゃないか」
エドワードは片目をウインクさせると、立ち上がって私に手を差し伸べた。
その頼もしい姿に、沈み切っていた心の奥から、ふっと確かな闘志が灯っていくのを感じる。
王都を揺るがす連続爆破事件。
――必ず解決してみせる。
私はエドワードの手を取って立ち上がり、静かに決意を新たにするのだった。
☆ミ
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※この作品はAIたんとの共同執筆となります。




