第87話 守るという選択
遠くで崩れる音が、また一つ。
乾いた音。
順番が壊れる音。
それでも。
私の目の前の列は――動いている。
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ゆっくり。
確実に。
誰も押さない。
誰も抜かない。
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(……守っている)
制度ではない。
命令でもない。
人が。
選んでいる。
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「……不思議ですね」
ミレイアが小さく言った。
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「ええ」
私は頷く。
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「全部は壊れてるのに」
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彼女の言葉は正しい。
周囲では崩壊が広がっている。
順番は壊れている。
信じられていない。
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だが。
ここは違う。
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「なぜでしょう」
ミレイアが聞く。
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私は列を見た。
一人。
また一人。
順番を守っている。
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「選んでいるからです」
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沈黙。
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「……選ぶ?」
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「ええ」
私は言った。
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「順番を守るかどうか」
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ミレイアが息を呑む。
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「今までは」
私は続ける。
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「守る前提だった」
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だが今は違う。
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「守るかどうか」
「選ばれている」
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沈黙。
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アルヴェリックが言った。
「……制度ではないな」
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「ええ」
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「意思だ」
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私は頷く。
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その時。
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「……並びます」
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小さな声。
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一人の若い男が。
崩れた列の外から。
こちらを見ていた。
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「……意味、あるんですよね」
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私は答えた。
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「あります」
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短く。
それだけ。
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彼は少し迷って。
そして。
列に入った。
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最後尾。
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誰も何も言わない。
ただ。
前に詰める。
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ミレイアが、静かに言った。
「……増えてます」
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私は頷く。
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戻る者。
選ぶ者。
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だが。
同時に。
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「馬鹿らしい!」
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別の声。
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「並んでられるか!」
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去る者もいる。
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順番を。
捨てる。
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(……分かれる)
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人が。
分かれていく。
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守る者。
守らない者。
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順番は。
全員のものではない。
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アルヴェリックが言った。
「……国家では扱えないな」
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「ええ」
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「全員に強制できない」
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「ええ」
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沈黙。
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「なら」
彼は言う。
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「残るのは」
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私は答えた。
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「選ぶ人の中だけです」
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沈黙。
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それが結論。
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順番は。
広がらない。
強制できない。
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だが。
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残る。
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選ばれた場所に。
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ミレイアが、小さく笑った。
「……きれいですね」
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「ええ」
私は頷く。
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整った列。
静かな動き。
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だが。
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(弱い)
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それもまた。
事実。
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アルヴェリックが言った。
「……法律は」
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私は彼を見る。
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「これを守れるか」
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沈黙。
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それが。
最後の問い。
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残すことはできる。
だが。
守るかどうかは。
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別。
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私は答えなかった。
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なぜなら。
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(答えは一つじゃない)
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順番は。
選ばれる。
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それだけ。
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遠くで。
また一つ。
列が消える。
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だが。
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ここは残る。
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私は空を見た。
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順番は。
弱い。
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だが。
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消えない。
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選ばれる限り。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「順番は選ばれるもの」という結論にたどり着きました。
制度でも命令でもなく、人の意思で残るものとして描かれています。
次は――最終決着。
「国家はこれをどう扱うのか」。
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