第86話 残すための形
崩れる音は、止まらなかった。
遠くで、また一つ。
さらに別の場所で、もう一つ。
順番が壊れる音。
だが。
私の目の前では――
まだ動いている。
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小さな列。
静かに進む。
誰も押さない。
誰も抜かない。
ただ、順番に。
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(……これでいい)
私はその光景を見ていた。
広くない。
強くない。
だが――残る。
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「法律にする、か」
アルヴェリックが隣で言った。
私は頷く。
「ええ」
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「制度ではない」
「ええ」
「管理もしない」
「ええ」
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彼は少しだけ笑った。
「国家らしくないな」
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「国家は」
私は言った。
「全部を扱う必要はありません」
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沈黙。
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彼は続ける。
「だが法律は」
「強い」
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「ええ」
私は頷く。
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「だから」
「形を間違えると壊す」
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沈黙。
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彼は言った。
「どう書く」
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私は少し考えた。
そして。
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「簡単です」
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彼を見る。
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「順番を守れ」
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沈黙。
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アルヴェリックが眉をひそめる。
「それだけか」
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「ええ」
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「曖昧すぎる」
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「ええ」
私は頷く。
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「だから残る」
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沈黙。
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彼は、少しだけ目を閉じた。
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「……具体性がない」
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「具体にすると」
私は言う。
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「壊れます」
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沈黙。
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レオンハルトが、後ろから言った。
「……最低限」
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振り向く。
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「介入の条件は必要だ」
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「ええ」
私は頷く。
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「順番が壊れた時だけ」
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「国家が入る」
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アルヴェリックが言う。
「監視だな」
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「ええ」
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「だが」
彼は続ける。
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「誰が壊れたと判断する」
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沈黙。
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ここが核心。
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「現場です」
私は答えた。
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「現場が判断する」
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ざわめき。
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「それでいいのか?」
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「ええ」
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「なぜ」
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「守るのは現場だからです」
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沈黙。
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アルヴェリックは、長く黙った。
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そして。
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「……責任は国家か」
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「ええ」
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「判断は現場」
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「ええ」
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彼は小さく笑った。
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「面倒だな」
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「ええ」
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「だが」
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彼は空を見た。
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「壊れにくい」
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私は答えなかった。
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もう、分かっているから。
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遠くで。
また一つ。
列が崩れる。
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だが。
ここは動いている。
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アルヴェリックが言った。
「……書くか」
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私は彼を見る。
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「法律に」
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沈黙。
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彼は続ける。
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「順番を」
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その言葉は。
重かった。
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国家が。
順番を。
認める。
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それは。
勝ちではない。
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だが。
残る。
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ミレイアが、小さく笑った。
「……残りました」
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「ええ」
私は頷く。
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順番は。
広がらない。
勝たない。
だが。
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残る。
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アルヴェリックが、最後に言った。
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「だが」
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私は彼を見る。
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「これで終わりではない」
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沈黙。
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「なぜ」
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「守られなければ」
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彼は言う。
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「意味がない」
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遠くで。
また一つ。
列が崩れる。
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私はそれを見る。
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(……終わっていない)
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順番は残る。
だが。
守られるかは――
別だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「順番を法律として残す」という形が見えてきました。
しかし、残すことと守られることは別――ここが最後のテーマになります。
次は「順番が守られるのか」という最終段階へ。
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次話もぜひお楽しみに。




