第83話 戻らない順番
崩れた列は、戻らなかった。
さっきまでなら。
声をかければ戻った。
理由を示せば整った。
順番は、作り直せた。
だが今は違う。
「……なんでだよ」
誰かが呟く。
列は分かれている。
情報も出ている。
それでも――
動かない。
(……止まったまま)
私は目を細めた。
順番は崩れた。
だが問題はそこではない。
戻らない。
それが問題だ。
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「こっちの方が早い!」
誰かが別の列へ移る。
また一人。
また一人。
列が崩れる。
もう、止まらない。
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「戻れ!」
声が上がる。
だが誰も戻らない。
理由は単純だ。
信じていない。
順番を。
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ミレイアが震える声で言う。
「……戻りません」
「ええ」
私は答える。
冷静に。
だが内側は違う。
(……ここか)
限界。
順番の。
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アルヴェリックが低く言った。
「信頼が切れたな」
「ええ」
私は頷く。
「順番は」
「守る理由が必要」
「ええ」
「それが消えた」
沈黙。
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人は並ばない。
並ぶ意味がないから。
順番は、形ではない。
理由だ。
それが消えた時。
順番はただの列になる。
そして――
壊れる。
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私は前に出た。
「止めて」
声を出す。
だが。
届かない。
音が多すぎる。
そして。
聞こうとしていない。
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(……違う)
今までとは違う。
順番が壊れたのではない。
順番が――
拒否されている。
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「なんで並ばなきゃいけない!」
声が上がる。
「意味がない!」
別の声。
「どうせ後回しだ!」
ざわめき。
怒り。
不満。
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(……感情)
これだ。
順番の敵。
不公平感。
疲労。
疑い。
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私は動いた。
列の中に入る。
一人の男の前に立つ。
「あなた」
「なんだよ」
「何が不満?」
男は一瞬黙る。
そして。
「……分からない」
それが答えだった。
理由が見えない。
だから不満になる。
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私は言った。
「見えないからです」
周囲が少し静まる。
「順番が」
「見えない」
沈黙。
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アルヴェリックが言う。
「可視化か」
「ええ」
私は頷く。
「足りない」
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私は地面に線を引いた。
指で。
「ここから」
「ここまで」
「この順番」
単純な線。
だが。
見える。
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「次は誰だ」
私は聞く。
人が指す。
「あいつ」
「その次は?」
「俺だ」
少しずつ。
順番が。
見える。
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列が。
ゆっくりと。
戻る。
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ミレイアが、息を吐いた。
「……戻ってきてる」
「ええ」
私は頷く。
だが。
(遅い)
そして。
(不安定)
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アルヴェリックが言った。
「……遅すぎる」
「ええ」
「国家では使えない」
私は答えなかった。
その通りだから。
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列は動く。
だが。
前とは違う。
ぎこちない。
疑いながら。
動く。
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「……これが」
ミレイアが言う。
「限界?」
私は空を見た。
そして。
「違う」
答えた。
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「これは」
私は言った。
「最初です」
沈黙。
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「順番が壊れるのは」
「ここから」
人が見る。
私を。
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アルヴェリックが、静かに言った。
「……まだ壊れるのか」
「ええ」
私は頷く。
「本当に壊れるのは」
「これからです」
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その時。
遠くで。
怒号が上がる。
別の場所。
別の列。
そして。
崩れる音。
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(……来た)
今度は。
戻らない。
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私は歩き出した。
その方向へ。
順番が。
壊れる場所へ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「順番が戻らない」段階に入りました。
今までは立て直せていたものが、ついに崩れ始めています。
次は――本当の意味での「順番の崩壊」。
ここからが物語の核心です。
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次話もぜひお楽しみに。




