第82話 順番の崩れ方
音が、増えすぎていた。
複数の列が同時に動く。
それぞれが順番を持ち、それぞれが流れている。
速い。
止まらない。
だが――
(うるさい)
私は眉を寄せた。
人の声。
物資の音。
指示。
確認。
すべてが同時に存在している。
順番は動いている。
だが、静けさがない。
ミレイアが不安そうに言った。
「……大丈夫でしょうか」
「ええ」
私は答えた。
「今は」
今は、動いている。
それは事実だ。
領地ごとの順番。
干渉しない導線。
並列処理。
理屈としては正しい。
だが。
(……長くは持たない)
違和感は、すでにあった。
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「遅いぞ!」
声が上がる。
一つの列。
処理が遅れている。
「そっちはもう終わってるじゃないか!」
別の列を指す。
速い列と遅い列。
差が生まれる。
それ自体は問題ではない。
だが――
「なんでだ!」
理由が分からない。
だから。
不満になる。
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別の場所。
「こっちに回せ!」
物資の移動。
速い列から遅い列へ。
だが。
それで速い列が詰まる。
全体が歪む。
(……干渉が始まってる)
分けたはずの順番が、再びぶつかる。
間接的に。
音がさらに増える。
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ミレイアが言う。
「……崩れてます」
「ええ」
私は頷く。
目に見えない形で。
順番が歪んでいる。
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「おい!」
怒号。
一人の男が、列を外れる。
別の列へ。
「そっちの方が早い!」
人が動く。
流れる。
列が乱れる。
順番が崩れる。
(……来た)
理由が分からない時。
人は、速さを選ぶ。
それが順番を壊す。
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アルヴェリックが言った。
「……始まったな」
「ええ」
私は答える。
「崩壊です」
彼は静かに頷く。
否定しない。
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列が崩れる。
並列だった順番が。
交差する。
押し合う。
戻る。
また崩れる。
繰り返し。
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「止める?」
ミレイアが聞く。
私は首を振った。
「まだ」
止めれば戻る。
だが。
それでは分からない。
(どこで壊れるか)
それを見る必要がある。
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やがて。
完全に止まる。
音だけが残る。
誰も動かない。
全員が迷っている。
どこに並ぶか。
何が正しいか。
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私は一歩前に出た。
「理由を見せて」
声を出す。
だが。
通らない。
音が多すぎる。
だから。
私は近くの列に入った。
先頭へ。
「これ」
私は物資を指す。
「どこへ?」
「……北領地」
「なら」
私は言った。
「この列」
男が見る。
納得する。
戻る。
列が少し整う。
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ミレイアが気づく。
「……理由」
「ええ」
私は頷く。
「順番が見えない」
だから崩れる。
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私は声を上げた。
「何を運んでるか!」
周囲が一瞬止まる。
「どこへ行くか!」
沈黙。
「それを言って!」
人が口を開く。
「南だ!」
「東だ!」
「医療品!」
情報が出る。
音が、意味になる。
列が、再編される。
物資ごとに。
行き先ごとに。
順番が。
再び――分かれる。
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動く。
ゆっくり。
だが。
さっきより――明確。
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アルヴェリックが言った。
「……情報」
「ええ」
私は答える。
「共有」
「足りなかった」
彼は静かに言う。
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ミレイアが笑った。
「戻ってます」
「ええ」
私は頷く。
だが。
(完全じゃない)
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列は動いている。
だが。
どこか――不安定。
小さな揺れが残る。
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「……これが限界か」
アルヴェリックが言った。
「ええ」
私は答える。
「広がりすぎると」
「見えなくなる」
沈黙。
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彼は続ける。
「では」
「どうする」
私は少し考えた。
そして。
「減らす」
「何を」
「範囲を」
沈黙。
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「順番は」
私は言った。
「広げすぎると壊れる」
彼は頷く。
「なら」
「国家は?」
私は答えなかった。
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その時。
遠くで。
また一つ。
列が崩れた。
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(……来る)
今度は。
戻らない。
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私は空を見た。
順番は動いている。
だが。
崩れ始めている。
ゆっくりと。
確実に。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「順番の崩れ」が始まりました。
今までは成立していたものが、スケールによって壊れていく段階です。
次は――「順番が戻らない」局面へ進みます。
ここからが本当の核心です。
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次話もぜひお楽しみに。




