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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第79話 現場という答え

 王都の外に出た瞬間、音が変わった。


 速さが消える。


 代わりに――間がある。


 馬車の車輪が、一定のリズムで鳴る。

 風が抜ける。

 遠くで人の声がする。


(……戻ってきた)


 だが、完全ではない。


 ここは辺境ではない。

 王都でもない。


 中間の領地。


 今回、最初の試験地。


「ここでやるんですね」


 ミレイアが小さく言った。


「ええ」


 私は頷く。


「境界の実験」


 馬車が止まる。


 迎えに出てきたのは、この領地の領主だった。


「お待ちしておりました」


 緊張している。


 当然だ。


 国家と順番の境界。


 それを試される最初の場所。


「状況は?」


 私はすぐに聞いた。


「……混在しています」


 領主は答えた。


「国家の指示と、現場の順番が」


 私は軽く息を吐いた。


「案内してください」


 現場へ向かう。


 倉庫前。


 人が並んでいる。


 だが――


 歪んでいる。


 番号を持つ者が前に出ようとする。

 順番で並ぶ者がそれを止める。


 声がぶつかる。


「俺は優先だ!」

「順番だ!」


 止まる。


 誰も動かない。


(……境界が曖昧)


 決めたはずだった。


 平時は順番。

 緊急時は優先。


 だが現実は違う。


 人は、自分が優先だと思う。


 だから。


 全部が優先になる。


 アルヴェリックが隣に立った。


「これが現実です」


「ええ」


 私は頷く。


「境界が機能していない」


「だから国家が必要です」


 彼は言う。


「明確な線引き」


 私は答えない。


 ただ見る。


 列。


 止まっている。


 ミレイアが、小さく言った。


「どうしますか」


 私は前に出た。


「止めて」


 声を出す。


 だが弱い。


 通らない。


 当然だ。


 誰も納得していない。


 だから。


「一度、全部止めて」


 強く言う。


 沈黙。


 誰も動かない。


 アルヴェリックが、私を見る。


 判断を待っている。


 私は言った。


「優先を消す」


 ざわめき。


「何だと!?」


「優先があるから迷う」


 私は続ける。


「一度、全部順番に戻す」


「そんなことできるか!」


 声が上がる。


「緊急もある!」


「ええ」


 私は頷く。


「だから決める」


 沈黙。


「緊急は誰が決めるか」


 誰も答えない。


 当然だ。


 決まっていない。


 それが問題だから。


 私は言った。


「現場で決める」


「誰が!?」


「最初に来た者」


 沈黙。


 空気が止まる。


「順番の先頭」


「その人が決める」


 ざわめき。


 だが――


 理解が走る。


 単純だからだ。


 順番の中に、優先を入れる。


 外からではなく。


 中から。


 私は一人の男を指した。


「あなた」


 先頭の男。


「あなたが決める」


 彼は戸惑う。


「俺が……?」


「ええ」


「この中で一番先に来た」


 沈黙。


 彼は周りを見る。


 人を見る。


 列を見る。


 そして。


「……分かった」


 彼は言った。


「こっちを先に通す」


 水を持つ者を指す。


 納得が生まれる。


 なぜなら。


 順番の中の判断だから。


 人が動く。


 列が進む。


 速くはない。


 だが――


 止まらない。


 ミレイアが、息を吐いた。


「……動いた」


「ええ」


 私は頷く。


 アルヴェリックが言う。


「……内側」


「ええ」


「外からではなく」


「中から」


 彼は長く黙った。


 そして。


「それも制度ですか」


 私は答えた。


「違います」


「では何だ」


「順番です」


 沈黙。


 列が進む。


 人が動く。


 争わない。


 押さない。


 ただ――


 決める。


 中で。


 アルヴェリックは、初めて深く息を吐いた。


「……国家は」


 彼は言った。


「これを扱えない」


 私は答えた。


「扱うものではない」


 沈黙。


 彼は頷いた。


 ほんの少し。


 だが確かに。


 変わった。


 だが。


 まだ終わらない。


「次は」


 彼が言った。


「複数領地です」


 私は目を細める。


「連携ですか」


「ええ」


 彼は静かに言う。


「順番は、広域で成立するか」


 沈黙。


 それは――


 次の段階。


 単一の現場ではない。


 複数の順番。


 ぶつかる。


 重なる。


 壊れる可能性。


 私は空を見た。


 ここでは動いた。


 だが。


 次は違う。


 順番同士がぶつかる。


 その時。


 残るのはどちらか。


 私は静かに息を吐いた。


 まだ終わらない。


 むしろ。


 ここからが――本番だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに「順番の中で優先を決める」という新しい形が生まれました。

アルヴェリックも大きく変化し始めていますが、試験はまだ続きます。


次は「複数領地」での順番――つまり、さらに難しい局面へ。


ここから物語は最終段階に入っていきます。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。


次話もぜひお楽しみに。

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