第80話 順番がぶつかる時
地図の上では、たった一線だった。
だが、現実では違う。
境界線。
領地と領地を分けるその場所に、すでに人が溢れていた。
「……多い」
ミレイアが息を呑む。
私は何も言わず、馬車を降りた。
目の前には二つの列。
左の領地の列。
右の領地の列。
それぞれが順番を守っている。
だが――
ぶつかっている。
「こっちが先だ!」
「順番だ!」
声が重なる。
どちらも正しい。
だから――進まない。
(来た)
単一の順番ではない。
複数の順番。
それがぶつかると、止まる。
アルヴェリックが隣に立つ。
「これが次です」
「ええ」
私は頷く。
「順番同士の衝突」
人々が詰まっている。
列は整っている。
だが動かない。
それぞれが、順番を守っているから。
ミレイアが言う。
「……どっちも正しい」
「ええ」
「だから決められない」
その通りだった。
ここに命令を入れれば、速い。
だがそれは順番ではない。
私は一歩前に出た。
「止めて」
声を出す。
だが今回は違う。
すでに止まっている。
沈黙。
人々の視線が集まる。
私は地面を指した。
「境界です」
誰かが言う。
「分かってる!」
「だから困ってるんだ!」
私は頷く。
「ええ」
「だから」
一度、息を吸う。
「順番を繋げる」
沈黙。
「繋げる?」
「どうやって!?」
私は言った。
「先頭同士で決める」
ざわめき。
だが。
単純だ。
両方の順番の先頭。
その二人が話す。
外ではなく。
中で。
私は二人を指した。
「あなたと」
「あなた」
左と右の先頭。
互いに睨む。
「話して」
沈黙。
動かない。
当然だ。
責任が重い。
私は静かに言った。
「順番を守る人が決める」
それだけ。
余計な言葉はいらない。
やがて。
「……こっちが先だ」
左が言う。
「理由は?」
右が返す。
「荷が腐る」
沈黙。
右が息を吐く。
「……分かった」
譲る。
列が動く。
流れる。
そして。
次。
今度は右が先になる。
自然に。
順番が繋がる。
ミレイアが、小さく呟いた。
「……繋がった」
「ええ」
私は頷く。
順番は一つではない。
だが。
繋げることはできる。
アルヴェリックが言った。
「……合意」
「ええ」
「命令ではない」
「ええ」
彼は長く黙った。
そして。
「国家では難しい」
私は答えた。
「ええ」
「だが」
彼は続ける。
「不可能ではない」
沈黙。
それは大きな変化だった。
否定ではない。
理解。
だが。
問題は残る。
「全てがこう上手くいくとは限らない」
彼が言う。
「ええ」
「争う場合もある」
「ええ」
「その時は?」
私は少し考えた。
そして。
「止める」
沈黙。
「またか」
「ええ」
私は言った。
「順番が繋がらない時は」
「止める」
アルヴェリックは、少しだけ笑った。
「結局それか」
「ええ」
私は頷く。
「壊れる前に」
列は動いている。
左と右。
順番が交互に繋がる。
完全ではない。
だが――
止まらない。
それが答えだった。
ミレイアが言った。
「……これが」
「ええ」
「広がる形」
私は空を見た。
順番は弱い。
だが繋がる。
そして――
広がる。
アルヴェリックが言った。
「次で終わりです」
私は彼を見る。
「最後の試験」
沈黙。
「何ですか」
彼は答えた。
「国家全体」
空気が変わる。
王都でもない。
地方でもない。
全部。
順番が。
国家で。
成立するか。
私は、静かに息を吐いた。
ここまで来た。
あと一つ。
順番が残るか。
それとも――
消えるか。
答えは。
次で出る。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「順番同士の衝突」を乗り越えました。
そして物語はいよいよ最終段階――「国家全体で順番は成立するのか」へ進みます。
ここからが本当のクライマックスです。
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次話もぜひお楽しみに。




