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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第73話 設計された秩序

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


 昨日と同じ会議室。

 同じ机。

 同じ顔ぶれ。


 だが空気が違う。


(決めに来ている)


 席に着いた瞬間に分かる。

 今日は議論ではない。


 結論を出す日だ。


「では、始めよう」


 カイゼルの声が静かに落ちる。


 誰も無駄な言葉を発しない。

 紙の音だけがわずかに響く。


 アルヴェリックが立ち上がった。


「昨日の事例は確認しました」


 彼は淡々と言う。


「配給所における順序崩壊と、その即時修正」


 視線が私に向く。


「非効率ながら、一定の安定性を確認」


 非効率。


 その言葉に、誰も異論を挟まない。


「結論を述べます」


 彼は続けた。


「順番は、有効です」


 室内が、わずかに揺れた。


 レオンハルトが顔を上げる。

 カイゼルも、ほんの少しだけ目を細めた。


 アルヴェリックは続ける。


「だが」


 ここからだ。


「順番は設計できる」


 沈黙。


「自然発生に頼る必要はない」

「国家が設計し、管理することで」


 彼は資料を置いた。


「順番は制度化される」


 それは、彼なりの結論だった。


 順番を認める。

 だが、握る。


(来た)


 私は静かに息を吐いた。


 否定ではない。

 取り込みだ。


「具体的には?」


 レオンハルトが聞く。


「段階順序の固定」

「優先順位の透明化」

「逸脱時の即時是正」


 つまり――


 命令の順番を、さらに精密にする。


 アルヴェリックは私を見る。


「あなたの順番を、国家に適用する」


 それは一見、受け入れに見える。


 だが違う。


 順番を「設計」した瞬間、

 それは命令に変わる。


 カイゼルが、低く言った。


「それは順番か?」


「秩序です」


 アルヴェリックは迷わない。


「順番の上位概念です」


 私は、ゆっくり立ち上がった。


 誰も止めない。


 視線が集まる。


「昨日、見ていましたね」


「ええ」


「人は動いた」


「ええ」


「命令なしで」


「ええ」


 私は、机に手を置いた。


「なぜ動いたと思いますか」


 アルヴェリックは即答しない。


 わずかに考える。


「状況が共有されたから」


「違います」


 私は言った。


「守る理由があったからです」


 沈黙。


「順番は」


 私は続ける。


「設計できません」


「できます」


 アルヴェリックは即座に返す。


「あなたが作った」


「私は作っていません」


 私は首を振った。


「作れるのは形だけです」


 私は一歩踏み出した。


「守る理由は作れない」


 室内の空気が変わる。


 地方領主の一人が、ゆっくり頷いた。


 アルヴェリックは、初めてわずかに黙る。


「国家は」


 彼は言った。


「理由を与えられる」


「与えるのは命令です」


 私は答える。


「理由ではない」


 レオンハルトが、静かに口を開いた。


「……命令は破られる」


 アルヴェリックが視線を向ける。


「守られる命令もあります」


「守られなくなった時」


 レオンハルトは言う。


「どうする」


 沈黙。


 その問いは、制度の核心だった。


 アルヴェリックは答える。


「強化する」


 私は、ゆっくり息を吐いた。


「それが壊れる理由です」


 静寂。


 誰も動かない。


 私は続ける。


「順番は、強化できません」


「弱いままです」


「だから」


 私ははっきり言った。


「壊れにくい」


 カイゼルが、机に指を置いた。


「強い制度は壊れる」

「弱い制度は残る」


 彼は呟くように言う。


「……皮肉だな」


 アルヴェリックは黙っている。


 だが目は動いている。


 考えている。


 そして――まだ折れていない。


「では」


 彼が言った。


「国家は何もしないのか」


 私は答えた。


「境界を守る」


「境界」


「順番に介入しない境界です」


 彼はすぐに返す。


「それでは統制できない」


「ええ」


「国家は統制を必要とする」


「ええ」


 私は頷いた。


「だから分ける」


 沈黙。


「統制すべきものと」

「統制してはいけないもの」


 地方領主たちの中で、小さなざわめきが起きる。


 彼らは知っている。


 統制が強すぎると、現場が止まることを。


 アルヴェリックが、ゆっくり言った。


「その線引きは誰がする」


 私は、彼を見た。


「国家です」


「矛盾している」


「ええ」


 私は認める。


「だから難しい」


 沈黙。


 会議室の空気が、重く沈む。


 結論は出ていない。


 だが――


 誰も簡単な答えがないことを理解した。


 カイゼルが立ち上がる。


「……今日はここまでだ」


 誰も異議を唱えない。


 会議が終わる。


 席を立つ人々。


 だが、アルヴェリックは動かない。


 私はその前に立つ。


「あなたは正しい」


 私は言った。


 彼はわずかに眉を動かす。


「秩序は必要です」


「ええ」


「だが」


 私は続ける。


「全部を握ると壊れる」


 彼は静かに言った。


「握らなければ崩れる」


「ええ」


 私たちは、同じ場所を見ている。


 だが、選び方が違う。


 沈黙。


 彼は最後に言った。


「試します」


「何を」


「設計された順番を」


 私は答えなかった。


 それがどうなるか、知っているからだ。


 廊下に出る。


 ミレイアが小さく言った。


「……止まりませんね」


「ええ」


 私は窓の外を見た。


 王都は速い。


 そして――


 まだ、止まらない。


「次は」


 私は静かに言った。


「実験になります」


 順番か。


 命令か。


 どちらが残るのか。


 それが――


 次で試される。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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