第66話 制度を握る手
王都からの新しい文書は、夜に届いた。
短い。
だが、重い。
――国家制度適用地域、拡大
――全領地へ段階導入
私は、その紙を焚き火の明かりで読み直した。
制度が、広がる。
それ自体は、悪いことではない。
だが問題は――
**誰が握るのか**だ。
「速いですね」
ミレイアが言う。
「ええ」
ハロルドは腕を組んでいた。
「順番じゃない」
その通りだった。
順番で広がる制度は、遅い。
だがこれは――
命令だ。
私は、焚き火に薪を一本入れた。
火が大きくなる。
「アルヴェリックです」
私は言った。
ハロルドが眉を上げる。
「宰相候補」
「ええ」
ミレイアが小さく聞いた。
「危険ですか」
「危険ではない」
私は少し考えた。
「強い」
その違いは大きい。
腐敗している敵は、崩れる。
だが強い敵は――
制度を握る。
翌日、王都から通信が来た。
レオンハルトだった。
『国家制度拡大は決まった』
「知っています」
『止められない』
「でしょうね」
短い沈黙。
『アルヴェリックだ』
「ええ」
『秩序を作ろうとしている』
「違います」
私は言った。
「秩序を握ろうとしている」
通信の向こうで、彼が少し黙った。
『同じでは』
「違います」
私は焚き火を見た。
「順番は握れない」
『だが命令なら握れる』
「ええ」
それが問題だった。
アルヴェリックは制度を理解している。
だが――
順番を理解していない。
制度を「強く」しようとしている。
『カイゼル殿下も悩んでいる』
レオンハルトが言う。
『国家は速さを求める』
「ええ」
『地方は順番を守る』
「ええ」
沈黙。
『衝突する』
「ええ」
通信が切れた。
私は、焚き火を見ていた。
火は静かに揺れている。
順番に薪が燃える。
誰も命令していない。
それでも続く。
それが制度だ。
だが――
国家は、それを命令に変えようとしている。
ハロルドが言った。
「どうする」
私はすぐには答えなかった。
遠くで子どもが走っている。
倉庫の扉が閉まる音。
焚き火の音。
全部、順番だ。
「守ります」
私は言った。
「順番を」
ミレイアが小さく頷いた。
ハロルドは笑った。
「簡単じゃない」
「ええ」
私は火を見つめた。
制度は壊れる。
順番も崩れる。
だが――
守る者がいれば戻る。
そして今。
制度を握ろうとする手が、
国家の中で動き始めていた。
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