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婚約破棄された悪役令嬢が、追放先の詰んだ領地を“現代的な内政改革”で再建し、 気づけば王国の生命線になっていた話   作者: 蒼井リリス


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第64話 命令の順番

 国家制度法の施行は、驚くほど早かった。


 王都の命令は、紙の上ではゆっくり進む。

 だが、一度決まると――速い。


 各地の領地へ、同じ文書が送られた。


 制度導入。

 順序設計。

 国家監督。


 そしてもう一つ。


 **行政命令による順序管理**


 その文言を見た時、私は静かに紙を閉じた。


「来ましたね」


 ハロルドが言う。


「ええ」


 ミレイアが不安そうに聞く。


「何が違うんですか」


 私は焚き火を見た。


「順番が命令になった」


「……同じでは?」


「違います」


 私は首を振った。


「順番は守るもの」

「命令は従うもの」


 その違いは、小さいようで大きい。


 午後、王都からの監察官が来た。


 以前の観察官とは違う。


 書類が多い。

 命令が多い。


「再訓練の順番を確認します」


「優先順位を指定します」


「国家規定に基づき調整します」


 順番が、細かく書かれている。


 だがそこにあるのは――


 人ではない。


 番号だった。


 ハロルドが低く言う。


「これは順番じゃない」


「ええ」


 私は頷いた。


「命令の順番です」


 夕方、広場で人々が集まった。


 商人。

 職人。

 再訓練希望者。


 皆、紙を見ている。


 そこには番号が書かれていた。


 国家制度番号。


 順番ではなく、順位。


 若い職人が言った。


「これなら速い」


 別の男が言う。


「公平じゃないか?」


 ミレイアが、私を見る。


「どうしますか」


 私は、すぐには答えなかった。


 速い。

 公平。

 分かりやすい。


 だが――


 順番ではない。


 焚き火の前に立つ。


 火が揺れている。


 順番に薪が入れられる。


 誰も命令していない。


 だが続く。


 それが順番だ。


 私は人々を見た。


「国家の制度は」


 私は静かに言った。


「速いです」


 誰も反論しない。


「公平に見えます」


 頷きがある。


「だが」


 私は続けた。


「戻る道がありません」


 沈黙。


 職人が言う。


「でも速い」


「ええ」


 私は頷いた。


「だから強い」


 ハロルドが言う。


「強い制度は切る」


 ミレイアが小さく言った。


「戻れない」


 人々が少しざわめく。


 私は焚き火を見た。


 火は小さい。


 だが消えない。


「この領地では」


 私は言った。


「順番を守ります」


 紙を持ち上げる。


「国家の制度は参考にする」


「だが」


 私ははっきり言った。


「命令の順番は使わない」


 沈黙。


 遠くで風が吹く。


 焚き火が揺れる。


 国家は強い制度を作った。


 速く。

 公平に見える。


 だが――


 順番ではない。


 そして私は知っている。


 強い制度は、いつか切る。


 その刃は、

 まだ見えていないだけだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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