第63話 秩序を作る者
アルヴェリック・ドールマンは、焚き火の前に立っていた。
王都の役人がこの場所に立つことは珍しい。
だが彼は違和感なくそこにいた。
焚き火を見ている。
じっと。
「珍しいですね」
私は言った。
「何がですか」
「王都の人間が火を見ているのは」
彼は少しだけ笑った。
「火は秩序があります」
「そうですか」
「燃える順番がある」
私は、少しだけ目を細めた。
この男は確かに理解している。
だが――違う。
「順番は」
私は言った。
「火が決めるものではありません」
「では?」
「薪を置く人です」
沈黙。
アルヴェリックはゆっくり頷いた。
「興味深い」
彼は言った。
「あなたは制度を人に預ける」
「ええ」
「国家は違う」
「どう違うのですか」
「国家は」
彼は静かに言った。
「秩序を設計する」
私は、焚き火を見た。
火は変わらず揺れている。
「秩序は設計できません」
「できます」
彼は即答した。
「あなたが作った」
私は少し笑った。
「私は順番を作っただけです」
「それが秩序です」
「違います」
私は首を振った。
「秩序は守られた順番です」
彼は初めて少し黙った。
そして言った。
「だから国家が守る」
私は、焚き火に薪を一本入れた。
火が少し強くなる。
「国家は」
私は静かに言った。
「順番を守りません」
「守れます」
「守りません」
私は彼を見た。
「国家は速さを選ぶ」
アルヴェリックは否定しなかった。
「速さは必要です」
「ええ」
「だから秩序が必要です」
「秩序ではありません」
「何ですか」
「制御です」
沈黙。
遠くでハロルドが倉庫の扉を閉める音がした。
夕方の風が吹く。
焚き火の煙がゆっくり流れる。
アルヴェリックは、少しだけ笑った。
「あなたは国家を信用していない」
「いいえ」
私は首を振った。
「人を信用していない」
彼は興味深そうに言った。
「なぜ」
「人は近道を選びます」
「国家も?」
「国家はもっと選びます」
彼は小さく息を吐いた。
「だから国家が順番を管理する」
「それは順番ではありません」
私は静かに言った。
「命令です」
アルヴェリックは沈黙した。
焚き火の音だけがする。
やがて彼は言った。
「あなたの制度は素晴らしい」
「ありがとうございます」
「だから国家が使う」
私は彼を見た。
この男は腐敗していない。
むしろ誠実だ。
だが――
順番を理解していない。
「あなたは」
私は言った。
「制度を強くしたい」
「ええ」
「私は」
私は焚き火を見た。
「制度を壊れにくくしたい」
沈黙。
アルヴェリックはゆっくり頷いた。
「似ています」
「違います」
「どこが」
「強い制度は」
私は静かに言った。
「人を切ります」
火が弾けた。
「壊れにくい制度は」
「切らない?」
「戻れます」
彼は、少しだけ目を細めた。
「あなたの制度は弱い」
「ええ」
「国家は強い制度を求める」
「知っています」
私は頷いた。
「だから壊れる」
沈黙。
アルヴェリックはしばらく火を見ていた。
やがて静かに言った。
「面白い」
彼は振り向いた。
「あなたの制度は国家制度になった」
「ええ」
「つまり」
彼は穏やかに言った。
「もうあなたのものではない」
私は答えなかった。
焚き火が、ゆっくり燃えている。
順番はまだここにある。
だが――
国家はそれを掴もうとしている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




