第61話 次の順番
王都から新しい使者が来たのは、初夏の朝だった。
以前のような視察団ではない。
豪華な馬車も、軍の護衛もない。
ただの役人が二人。
その違いだけで、空気はずいぶん軽かった。
「制度観察官です」
若い男が名乗る。
「国家制度運用の経過観察」
私は、少しだけ笑った。
「観察されるのは慣れています」
「今回は違います」
男は、少し戸惑いながら言った。
「観察するのは、制度ではなく」
彼は周囲を見渡した。
倉庫。
広場。
焚き火。
「順番です」
私は、ほんの少しだけ驚いた。
「誰が言ったの?」
「財政監査局です」
つまり――
レオンハルトだ。
私は、焚き火を見た。
火はいつも通り揺れている。
「順番は見えません」
私は言った。
「記録にも残りません」
「ですが」
観察官は言う。
「ここでは、確かに動いている」
彼は帳簿を取り出した。
「国家では、まだ難しい」
「でしょうね」
「速すぎます」
「ええ」
男は、少し考えてから言った。
「ですが」
「試す価値はあると」
私は、少しだけ頷いた。
制度は、広がらなくてもいい。
順番が、どこかで守られていれば。
それで十分だ。
午後、広場で新しい再訓練が始まった。
以前と同じ。
順番も同じ。
違うのは、人々の顔だった。
少しだけ、自信がある。
制度を止めた日から、
人は少し変わった。
制度に任せきりではなく、
順番を理解している。
ハロルドが、再訓練表を持ってくる。
「次の班です」
「順番は?」
「守っています」
私は、笑った。
「それでいい」
遠くで、子どもたちの声がする。
倉庫では荷が運ばれ、
焚き火は静かに燃えている。
制度は、完成しない。
人がいる限り、
順番は崩れる。
だが――
崩れた順番は、
また作り直せる。
私は、空を見上げた。
王都は遠い。
だが、遠い場所でも、
順番は少しずつ動いている。
制度は、誰のものでもない。
順番を守る者のものだ。
そして今、
次の順番が――
静かに始まっていた。
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