第58話 国家の順番
王都からの書簡は、以前より厚かった。
封蝋を割ると、中には三通の文書が入っていた。
――国家制度運用指針・改訂案
――試験領再設計計画
――制度撤回規定(試験導入)
私は、ゆっくりと最後の文書を読み返した。
撤回規定。
国家が、正式な文書としてそれを書いた。
完全ではない。
限定的で、条件付きだ。
だが――
存在する。
「……書かれましたね」
ミレイアが、隣で呟く。
「ええ」
私は紙を閉じた。
国家は速い。
だが、今回は少しだけ止まった。
それは小さな変化だ。
だが制度にとっては、大きい。
午後、広場では再設計会議が開かれていた。
制度停止から十日。
再訓練期間の見直し、
保障費の再設定、
移行面談の手順確認。
以前と同じことを、もう一度やっている。
だが、空気が違った。
若い職人が言う。
「今度は急がない」
別の男が言う。
「順番は守る」
ハロルドが、低く笑った。
「それが制度だ」
私は、その光景を少し離れて見ていた。
制度とは、命令ではない。
繰り返しだ。
同じ順番を、何度もやる。
退屈で、
遅くて、
だが壊れにくい。
夕方、王都から通信が届いた。
レオンハルトだった。
『撤回規定は試験導入だ』
「十分です」
『政治は納得していない』
「でしょうね」
『だが数字が支持した』
私は、小さく笑った。
「数字は嘘をつきません」
『人はつく』
「ええ」
通信の向こうで、彼は少し沈黙した。
『あなたは制度を止めた』
「ええ」
『国家はそれを見て、制度を修正した』
「ええ」
『面白い』
私は、火を見つめた。
制度は、私のものではない。
順番のものだ。
『王都では議論が起きている』
レオンハルトが続ける。
『制度は誰のものか』
私は、少し考えた。
「順番を守る者のものです」
『国家は?』
「守るなら国家のもの」
短い沈黙。
『カイゼル殿下が言っていた』
彼が静かに言う。
『国家にも順番が必要かもしれない』
私は、空を見上げた。
星が出ている。
遠くで焚き火が揺れている。
小さい火。
だが、消えない。
「国家の順番は」
私はゆっくり言った。
「人より遅くていい」
『なぜ』
「人の方が先に壊れるから」
通信の向こうで、彼が小さく笑った。
『あなたらしい』
通信が切れた。
私は、焚き火の前に座る。
制度は、戻ったわけではない。
まだ試験段階だ。
まだ不完全だ。
だが――
国家の帳簿に、
一つだけ新しい言葉が書かれた。
撤回。
戻る道。
それは小さな余白だ。
そして制度は、
その余白の中でしか生きられない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




