第57話 順番の重さ
レオンハルトが王都へ戻ってから、数日が過ぎた。
辺境は、驚くほど静かだった。
制度停止による混乱は起きていない。
むしろ、人々は落ち着いていた。
焚き火の周りでは、いつもの会話が続く。
倉庫の荷は、順番通りに運ばれる。
再訓練の申し込みは、少しずつ増えていた。
制度が止まったのに、生活は止まらない。
私はその事実を、静かに見ていた。
「不思議ですね」
ミレイアが帳簿を閉じながら言う。
「制度を止めたのに、皆落ち着いています」
「制度が止まったからよ」
私は答えた。
「人は、止められる制度を信用する」
ミレイアは、少し考えてから頷いた。
その時、ハロルドが入ってきた。
「再訓練の申請、三人追加です」
「増えていますね」
「ええ」
彼は苦笑する。
「制度が止まったから、自分から動くようです」
私は、焚き火を見つめた。
制度があると、人は制度に任せる。
制度が止まると、人は考える。
順番とは、そういうものだ。
午後、王都からの通信が届いた。
送り主は――レオンハルト。
短い文章だった。
――国家制度、部分停止
――北部試験領、順序復旧
私は、ゆっくり息を吐いた。
「……止まった」
ミレイアが顔を上げる。
「王都がですか?」
「ええ」
完全停止ではない。
だが、順番を戻した。
それだけで、意味は大きい。
夕方、私は広場に出た。
人々はいつも通り働いている。
子どもたちは走り回り、
焚き火の煙が空へ上がる。
この場所は、変わらない。
だが、遠くで何かが変わり始めている。
夜、再び通信が届いた。
レオンハルトだった。
『国家制度は、修正される』
私は、短く返した。
「順番を?」
少し間があって、返答が来た。
『完全には無理だ』
『だが、少しは』
私は、火を見つめた。
国家は速い。
制度は遅い。
だが――
遅いものは、重い。
順番は、重い。
それを、王都も少しだけ理解し始めている。
ミレイアが、小さく言った。
「戻る道ですね」
「ええ」
私は頷いた。
制度には、戻る道が必要だ。
人にも、
国家にも。
火は、静かに揺れている。
小さい。
だが、確かに消えていない。
そしてその火は、
少しずつ、遠くにも灯り始めていた。
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