第54話 順番が守れない時
王都からの急報は、夜明け前に届いた。
――北部試験領、暴動発生
――失業者集団、倉庫襲撃
――治安部隊出動
私は、紙を読み終えてもすぐには動かなかった。
焚き火の火が、まだ弱い。
空気が静かすぎる。
(ついに来た)
想定外ではない。
だが、早すぎる。
ミレイアが、息を切らして執務室に入ってきた。
「王都から追加報告です」
彼女の声は震えている。
「北部の失業者が、非公式労働組織に流入」
「治安部隊が制圧に入りました」
私は、静かに頷いた。
「死者は?」
「……まだ確認されていません」
まだ。
その言葉が重い。
私は机の上の書類を揃えた。
北部試験領。
再訓練削減。
移行失敗率。
すべて、繋がっている。
「公開は?」
「王都は保留」
やはり。
失敗は、政治にとって都合が悪い。
だが、ここからが問題だ。
王都の次の判断は――
予想できる。
昼過ぎ、正式通達が届いた。
――北部地域、治安非常措置
――制度適用の一時簡略化
――移行順序の調整
私は、紙を握った。
順序の調整。
つまり――
順番が、飛ばされる。
ハロルドが、低く言う。
「国家は、速さを選んだ」
「ええ」
順番より、鎮圧。
制度より、即応。
それは、政治としては正しい。
だが。
私は、椅子から立ち上がった。
「制度を止めます」
ミレイアが、息を呑む。
「国家改革のですか?」
「ええ」
「でも……」
「順番が守れない制度は」
私は、静かに言った。
「制度ではありません」
沈黙。
ハロルドが、ゆっくり頷く。
「刃です」
「ええ」
刃は、人を切る。
順番がなければ、なおさらだ。
夕方、私は王都へ通信を送った。
――国家制度適用、一時停止提案
――順序復旧まで凍結
短い文面。
だが、重い。
送信後、私は焚き火の前に座った。
火が揺れる。
この領地では、順番は守られている。
だが、国家では――
守れなかった。
ミレイアが、小さく言う。
「……怖いです」
「ええ」
「もし王都が拒否したら?」
私は、火を見つめたまま答える。
「それでも止めます」
「制度を?」
「ええ」
「あなたの制度を」
私は、静かに頷いた。
制度は、私のものではない。
順番のものだ。
そして――
順番が守れないなら。
私は、自分の制度を止める。
夜空には、星が出ていた。
遠くで、焚き火が揺れている。
小さな火。
だが、それは確かにある。
私は、その火を見ながら思った。
制度は、壊れてもいい。
だが――
人が壊れる制度だけは、
残してはいけない。
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